シドとの遊び

 シドが会議室に乱入して数日後、私はシドと約束した場所に先に到着し、彼を待っていた。


 王都タラス・メリアの繁華街。特に貴族だけの専有物である場所じゃないため、今日の私は簡素なワンピースとハンドバッグ程度だけを備えている。それにしても、髪色だけでも私が公爵家の令嬢だということが明らかに見えるけど。


 使用人は誰もいない……とはいえ、当然ながら周囲に護衛たちが潜伏している。やっぱり公爵家の令嬢を護衛もなく出歩くように許してくれる人たちじゃないから。


 そのように表だけで一人で待っていると、シドが遠くから歩いてくるのが見えた。私に気づいた彼が手を振りながら近づいてきた。


「やあ、素朴な服もきれいだね。でも早すぎじゃない? 俺も十五分くらい早く来たんだけど」


「長くは待っていませんわよ。シド公子も素敵ですわね」


 シドの服装は白いブレザーとズボンだった。デザインは簡素だったけど、生地や仕上げの質がかなり高い。高いブランドだからだろう。実は私の服も簡素なのはデザインだけで、価格は庶民が買うには結構高い。


「じゃあ行こうか。エスコートは任せてよ」


「楽しみにしていますわ」


 私はシドと一緒に歩いた。


 ……背中に刺さる視線を感じながら。


 気配を見ると、人数は五人。ロベル、アルカ、リディア、ハンナ、ジェフィスだ。視線から感じられる感情は好奇心と心配と嫉妬のようなものがそれぞれ込められていたけれど、何をしているのかは明らかだった。私を尾行するのだ。


 ……何してるのよ、あの子たち。


 シドも尾行があるのは気づいただろう。ハセインノヴァ公爵家は潜入と隠蔽に長けているだけでなく、隠蔽を感知する能力も非常に優秀である。多分尾行者が誰なのかまでも全部知っているだろう。


 でもシドは尾行なんか全く気にしていないようで、爽やかに笑いながら私に話しかけてきた。


「普段は何してる?」


「さぁね。私は市街地によく出る方じゃありませんので、この辺のことはよくわかりません。だからシド公子の選択に任せます」


 もちろん嘘だけど。


 市街地にあまり出てこないのは事実だけど、それとは別に王都の情報はすべて頭の中に入っている。その気になれば、今この場で地図を描けるくらいなら。


 そのため、この王都の中であればエスコートについて評価ができる。


「よし、とりあえず俺についてきて。もしあまり気に入らないところがあったら言ってよ」


 シドはそう言って、私をいろいろなお店に案内した。


 あれこれ見物しやすいお店。人形を売ったり、あるいはUFOキャッチャーができるお店。他にも魔力を使うゲームとか、ボードゲームとかを好きなように楽しめるお店など。そんな遊び中心のお店が多かったし、たまに簡単なお八つを買って食べたりもした。


 正直に言うと、とても貴族らしくないデートだった。この世界は魔力を基盤に文明がかなり発展した世界であり、前世の地球と似た遊びやお店も多い。けれど、貴族たちがそのようなお店で自由に遊び回ることはあまりない。


 まぁ、私は五年前にもロベルと一緒にこんな風に歩き回ったし、こうやって普通に歩き回るのも好きだけど。ただ……。


「うぅ……私もお姉様と遊びたいのに」


「テリアも楽しそう」


 ……尾行たちがそんな話をしているのがずっと聞こえたら、安心して楽しむこともできないわよ。


 シドは相変わらず明るい態度で一つのお店を指差した。


「あれ面白そうだけど、どう?」


「疲れないですわね」


「あ、ごめん。ちょっと休もうか?」


「いいえ、大丈夫ですわよ。私も興味がありますので」


 シドが指したお店はおもちゃの射撃場だった。非殺傷の魔弾を発射するおもちゃ銃で的を撃って点数を得るゲーム。率直に言えば弾丸が魔力だということを除けば前世でもよくあったそんなお店だった。私は前世に行ったことがなかったし、むしろ今世の経験はあるけど。


「確かに、騎士は銃も扱うからね。期待してもいいかな?」


 シドはそう言ったけれど、私は苦笑いした。どうせ遊び用の射撃場なんか、騎士科の生徒には易すぎて期待することもないのに。


 それでもどうせ言葉が出たから、一つエサを投げてみようか。


「フフ、どうでしょうか。せっかくだから賭けでもしてみましょうか?」


「いいよ! 何かかけたいことでもある?」


「普通に頼み聞き、どうでしょうか。もちろん不合理だったり変なお願いは除いて」


「それは面白そう。やってみよう!」


 私たちはすぐに入ってお金を払った。設置されている魔道具は形はもっともらしいライフルのような形をしているけど、撃てるのはあくまで遊び用魔弾。少し分析してみると、人や物体に触れても何の影響も及ばず煙のように消える魔弾だった。ただ、連動された的に触れた場合にのみ点数が記録される機能があった。


「勝負は簡単に累積点数にしようか?」


「そうしましょう」


 銃を持って、姿勢を取って、照準。おもちゃではあるけど慣れている感触が感じられ、少し楽しくなる気がした。


 私は主な武器が剣なので銃はあまり使わないけれど、射撃術も練習はする方だ。非常用に拳銃くらいは持っている方で。実はアカデミーでも射撃術の成績がかなりいい方なのよ、フフ。


 そのような考えをするためにしばらく撃っていない間、すでに三発ほど撃ったシドが私を振り返った。


「……へえ。姿勢きれいだね」


「女の子が銃を向けている姿勢がきれいなわけがないでしょう」


 思わず苦笑いしてしまったけれど、シドは笑いながら首を振った。


「すごくまっすぐでちゃんとできててきれいよ。……いや、この場合はかっこいいというかな? とにかく、いいね」


「それはありがたいですわね」


 こっそり横目でシドの姿を見ると……うむ、なぜ姿勢に感心したのか分かる気がする。姿勢がめちゃくちゃだね、本当に。


 まぁ、ハセインノヴァ公爵家は銃を主な武器として使わないからね。むしろあんなめちゃくちゃな姿勢なのに命中率だけは素晴らしいのが面白い。


 感想はこの辺で終わらせよう。そろそろ私も引き金を引いてみよう。


―――――


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