次のための準備
私の笑顔が少し固まることを自覚するのと、シドが私の顔をのぞき込んで微笑むのはほぼ同時だった。
「思ったよりすごいね。
「私のことはよくわかりませんけれど、ジェリアが違うのは事実ですわよ」
「その〝違い〟にお前の影響が相当あるようだけど?」
「今そんな話をする理由も必要もありません」
シドの言葉を一蹴し、再び話題を戻すためにジェリアを振り返った。
でもシドは執拗だった。
「オステノヴァの令嬢がいろいろとすごいとは聞いたけど、想像したよりも面白いみたいだね」
「それが今重要なんですの?」
「あ、ごめん。そういうことじゃない。でも、もっとお前のことを知っていきたいと思ったんだ」
〝お前はあの女とは違うんだな。お前のことをもっと知っていきたい〟
一瞬オーバーラップされたのは、ゲームでシドがアルカに言った言葉。
確かに……シドが初めてアルカに興味を持った時に言った言葉だった。あのことを言ったときの状況やその後の展開を考えると、少し心配な部分もある。けれどシドの興味を引いたということは、今後彼の協力を得ることができるようになる重要なキーポイントだ。
そう思っていた私に、シドが突然爆弾発言をした。
「普段少し時間ある? 一緒に遊びに行きたいんだけど」
「……!?」
空気が変わった。
一瞬で緊張した感じ。けれど、戦闘前の緊張感や緊迫した空気とは違っていた。もう少し微妙な……。
「君は急に何を言っているんだ!」
ジェリアが怒った。私の傍ではロベルが今にも私とシドの間を塞ぎに入ろうとするようにびくびくし、ケイン王子は苦笑いしていた。他の人々の反応も微妙だった。
まぁ、私はあまり驚かなかったけど。予想より早かったけど、一度くらいはデートの申し込みとかしてくると思っていたから。
……そもそも
「いいですわよ。一度日を決めてみましょう」
ニッコリ笑いながらそう言った。すると、みんなの視線が私に注がれた。それぞれ程度は違ったけど、とにかく驚愕したというのが表情だけ見ても見えるわね。
しかも申し込みをしたシド自身さえ、少し驚いた顔をしていた。
「……平然と受け入れるね」
「何をそんなに驚くのかしら? 貴方が言ったことでしょう?」
「それはそうだけど」
何を考えているのかは大体分かる気がするけど、あえてそれを言う必要はないだろう。
それよりこういう話はそろそろやめてほしいんだけど。
「さあ、そろそろ話を戻しましょう。途中でちょっと話題がずれてしまいましたからね?」
その一言でみんなの表情が変わった。
よし、また議論を始めようか。
***
「ロベル、何かあったの?」
会議が終わり、アカデミーの庭園でのティータイム。私の後ろに立ったロベルがどうも不愉快そうな様子で、気になって声をかけてみた。
「お嬢様、本当に大丈夫ですか?」
「シド公子のこと?」
「はい」
私のカップにお茶を補充するロベルの表情は不満と心配でいっぱいだった。
私のことを心配してくれるのも感じたけど、あの顔を見るとちょっといたずらしたくなるわね。
「もしかして嫉妬?」
「……からかわないでください」
「あら、私は本気よ。そうじゃなかったら、他の人なしで貴方だけを連れて一人でお茶を飲んでいるはずがないじゃない」
「……?」
そう、今ティータイムを一緒にする人はいない。他の人にはわざと了解を得て別れたから。
けれど、ここはアカデミーの公共庭園。このテーブルには私だけだけど、庭園には他の人がかなりいた。だから私は指パッチンをした。
――紫光技〈偽像のカーテン〉
姿と音を遮断し、偽の幻想に置き換える高級セキュリティ結界。ロベルは突然の行動に少し驚いたようだったけれど、すぐ私の意思を気づいたように口をつぐんだ。
「ロベル、はっきり言うわよ。貴方がシド公子をどう思っているのか……彼の行動を見て何を考えていたのか。一つも残さず話してちょうだい」
「なぜ急にそんなことを要求されるのかはわかりませんが……」
迷いと疑惑を流すにはため息を一度。
すぐに表情を引き締めたロベルがまた口を開いた。
「疑わしいです。表向きは軽くてフレンドリーな人に見えますが、その方もまた公爵家の令息。他の公爵家の令嬢に何も考えずに接近するとは思えません。ましてハセインノヴァ公爵家は情報が極めて少ないです。あれが個人的な好意なのか、それとも政治的な狙いがあるのかもまだわかりません」
「政治的な狙い、ね。どんなものがあると思う?」
「ジェリア様のようにシド公子も当主とは異なる路線を追求している可能性があります。あるいは逆に、フィリスノヴァ公爵閣下と反目しているジェリア様の代わりに、他の勢力を保守能力主義派に引き込もうとするハセインノヴァ公爵閣下の意向があるのかもしれません。たとえ政治的な目的が全くないとしても、公爵家同士の私的な親交はそれだけでも大きな注目を集めます」
そしてそれが私に、あるいは私の計画にどのような影響を及ぼすか分からない、って。
妥当な意見であり、あんな話をするはずだと思った。そもそも公爵令息のアプローチをありのままに判断することはできないだろう。
その点で、やっぱりシドを
「ありがとう。役に立ったわ」
「すでにお嬢様も考えられた内容だと思いますが」
「それ以上の問題よ」
ロベルはわからないって言うような視線を送ってきたけど、私はお茶を飲みながら適当にごまかした。
ゲームの記憶と今持っている情報。それを組み合わせると、今後どうすべきかは一見見える。不安な部分もあるけど……臨機応変で対処できない事態は起きないだろう。
【たまには男を男として見る方法を学ぶのはどう?】
[変なこと言わないで、イシリン。そんな状況じゃないって知ってるでしょ]
とにかく、今はシドと会うときのことを考えておこうか。
―――――
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