シドの合流
名前を呼ぶと、彼――シドはニヤリと笑って手を振った。
「よお、何かすごく興味津々な話をしてるみたいだね?」
「ハセインノヴァの役割がいつからネズミのように隠れて人の話を盗み聞きすることになったんだ?」
「潜入工作と情報収集はハセインノヴァの基本だけど?」
ジェリアはシドを睨んだ。でもシドがすっきりとその視線を受け流すと、すぐにため息をつきながら剣を下ろした。
「なかなか図々しい奴だな。だが隠れて盗み聞きをした理由は何なのか言え。いくら生徒たちの組織だとしても、修練騎士団はアカデミーの上層部や警備隊とも提携する重要組織だ。隠れたということだけでも疑わしい視線を受けるぞ」
「硬いね。別に下心なんてないよ。ただ面白い話の匂いがして、一度聞いてみようかなぁって感じ?」
「軽薄だな」
そんな反応を全然気にせず、シドは軽快な足取りで私に近づいた。ジェリアは彼を止めなかったけれど、後ろで露骨にため息をつき、首を振った。
私の前に立ち止まったシドが再びニッコリと笑った。
「見たところ何かすごく興味津々な情報を持っているようだけど」
「何を指しているのかはっきり教えていただけますの?」
「災いとか何か話したじゃない? そして何か未来についての情報があるみたいだけど」
シドの目が好奇心で輝いた。
予知関連の能力はこの世界には存在しない。だからこそ、将来の予測情報は興味深いものにならざるを得ない。
シドを釣る餌としても使えると思ったけど、まさかこんなに早く釣れるとは思わなかった。シドの行動力については考え直さないと。
「気になりますの?」
「すっごく。でもまぁ、そんなことをどうやって知ったのかなんて言わなくてもいいよ。気になるけど、俺にはあまり重要なことじゃないんだ」
……というのはまさか。
私がそう思うと同時に、シドは笑顔で話し続けた。
「面白そうだから俺も入れてよ。特にできない理由はないだろうね?」
あくまで軽やかな態度。
私が答える前に、ジェリアはイライラした声を出した。
「これは遊びじゃないぞ。中途半端な興味本位に割り込んでもいいことだと思うのか?」
「聞いてみるとまだ調査ももっと必要なようだけど、俺の助けが必要じゃない?」
確かに、シドの能力は役立つだろう。
ハセインノヴァは潜入と秘密工作に特化した公爵家。その分野に特化した要員の運用はもちろん、直接乗り出して役割を遂行する能力も優秀である。
ゲームの設定通りなら、この時期のシドにはハセインノヴァ公爵家の人を自由に使う権限はない。複数の人員を運用して情報を収集するのはうちのロベルの方が良いだろう。けれども、人員空白などは一人で覆すほど、ハセインノヴァとしてシドの能力はとても優秀だ。
ゲームの設定を除いても、ハセインノヴァ公爵家の直系ならそのような部分は信じて任せるだけの能力があるだろうけれど……。
「能力ではなく精神状態の問題だ。内容をすべて聞いたなら知っているはずだが? この仕事は軽い気持ちで臨んでもいいものではないぞ」
「編入したばかりだけど、俺もアカデミーの生徒なんだ。そんなことが起こるというのに黙っているわけにはいかないじゃない。まぁ、面白そうだという理由がもっと大きいのは事実だけど」
ジェリアは依然として気に入らないように眉をひそめた。
このままじゃ無駄な言い争いが長引きそう。この辺で切った方がいいだろうね。
「大丈夫、ジェリア。ハセインノヴァ公爵家の次期当主であるシド公子なら、今回のことにも役立つはずだから。
ハセインノヴァ公爵家の次期当主なら、当然ハセインノヴァ公爵家が求める基本素養の程度は通達していただろう。それとなくそのような意味を暗示する言葉だった。
シドもそれを理解したかのように苦笑いした。
「圧迫がひどいね。安心してもいいよ、こう見えても父上にはもう十分認められているから。あと、この前から思ってたんだけど」
シドは私を振り返り、微笑んだ。
「公子、とか硬いものは抜いてくれない? 気楽に呼んでほしいんだ。俺もお前をただテリアと呼びたいんだし」
「もう呼んでいるでしょう?」
「まぁ、そうしても怒らない性格のようだったからさ。でもこれからずっと顔を見る仲なら、俺一人勝手にしてはいけないじゃない?」
それくらいの市民意識があれば、最初からきちんと行動してほしいんだけど。
そう言いたい気持ちは山々だったけど、あえて口には出さなかった。その代わり、わざと口をそっと隠して大人しく微笑んだ。
「気が向いたらそう呼んであげましょう。もちろん、シド公子は私を自由に呼称してもいいですわ。それでジェリア、シド公子はどう?」
「今回のことは君が主軸になることだ。君の意見なら従うぞ」
「でも団長は貴方でしょ。これは厳然と修練騎士団の仕事として処理するから、越権はできないわ」
ジェリアは妙な目で私を見た。まるで〝今度はまた何を企てるのか〟とかでも言いたいような表情だね。失礼だもん。
もちろん、実際にジェリアが口にした言葉は全く違っていた。
「……一つだけ聞く。シド公子も君が言った災いの解決に必要なピースか?」
「もちろんよ」
「それなら受け入れる。シド公子もそれを望んでいるようだし。修練騎士団員でない者の業務介入は……まぁ、そのくらいはボクの裁量で処理できるぞ」
よし、これでいい。
指針が明確であれば、あえてシドを抱き込まなくても何とかできたはずだ。でも今は何を探せばいいのか確実な情報がない。だからこそシドの捜索能力を借りたい。
しかし、シドは少し驚いたような目でジェリアを見た。
「……意外だね。ジェリア嬢は合理的で徹底していると聞いたけど」
ジェリアは小さく鼻を鳴らした。
「合理的かつ徹底した信頼をもとに判断した。問題あるか?」
「へえ」
シドが細目を開けた。その眼差しがそのまま私に向けられた。
……これは。
―――――
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