ちっちゃな出会い
一発、二発、三発。
じっくり射撃を続けた。すべての魔弾が的の真ん中に命中し、点数は当然最高点。でも一発もミスをしないために、慎重に照準を合わせ続けた。
「うわっ、全部満点? 危ない!」
シドの当惑した声が聞こえた。目だけそっと動かしてそっちを見ると、シドはもう射撃を終えた状態だった。彼の命中率もいい方だったけれど……ちょうど二発、最高点を逃したことがあった。総点は満点でちょうど二点足りなかった。私がこのまま満点行進を続ければ、無難に勝てるだろう。
「あのね、この近くにすごく美味しいパフェがあるんだけど」
「妨害工作がとても子どもみたいですわね」
苦笑いしながら射撃を終えた。結局私はもれなく満点を取って、無難に賭けに勝った。
「うあ、俺も自信があったのに」
「銃はハセインノヴァの特技じゃないですわね?」
「オステノヴァにそんなこと言われたくないんだよまったく」
シドは不平は言っても、不服はしなかった。けれど、だからといって勝負を諦めることはなかった。突然お店に備え付けられている他の道具を持ってきたのだ。
「賭けは俺が負けたからもういいよ。それよりこれでもう一度競ってみない? 賭けなしでね」
シドが持ってきたのは模型短剣だった。見たところ短剣投げ用の魔道具のようだ。
それを見た私はニヤリと笑ってしまった。
「今回はメイン種目ってことですの?」
「いいじゃん。今度は賭けをしないから」
「いいですわ。一度やってみましょう」
短剣投げはハセインノヴァの得意技。それで勝負をかけてみるつもりらしいけど……ふふ、生半可だね。
「よし、俺が先!」
シドは短剣三本を指に挟み、一回の振り回しで一気に投げた。三つの短剣が三つの的に同時に刺さった。それも全部真ん中に。
「フフ、短剣は自信あるんだよ」
確かに、意気揚々とするに値するわね。
単なる物理的技芸ではない。手を振りながら魔力で短剣をコーティングし、手から短剣を放す瞬間には魔力で短剣に強く一定の推進力を付与した。発射瞬間の推進力の方向と、コーティングした魔力を利用した方向補正で自分が望む軌道に短剣を飛ばしたのだ。かなり洗練された魔力制御技術があってこそできる技芸だ。
けれど、私の前で自慢できる技術じゃないわよ。
「次は私が投げてみましょう」
同じく短剣三本を選んで、同じように一回の振り回しで投げた。飛んでいった短剣はシドのものと全く同じ的の真ん中に刺さった。
必然的に、短剣はシドが投げた短剣の柄の先に重なって打ち込まれた。
「……ほう。これは俺への挑戦か?」
「フフ、そんなはずないですわ。でもその短剣投擲術の根本は結局魔力制御。制御技術が良ければ真似することもできますわ」
「……へえ……」
シドの目が燃え上がった。怒り……じゃなく、興味と負けん気なのかしら。少年らしい意地が可愛い。
……私もそれとなく競争心を燃やしているから、ああだこうだと言う立場じゃないけどね?
「よし、どれだけ長く重ねられるか一度やってみよう」
「フフ。いいですわよ、射撃はちょっとつまらなかったんですからね。面白そうで……」
私とシドは不審者のように笑いながらやる気を燃やした。
新しい賭けでもしそうな勢いだったけれど……。
「……どういうことですの?」
私は横を振り向いてそう尋ねた。緊張したままぶるぶる震えている店員のお姉さんが見えた。
店員さんは顔が白くなり、冷や汗まで滝のように流していた。特に私の方を見るのと視線を避けるのを繰り返すのを見れば、おそらく公爵家の令嬢に干渉することを恐れるんだろう。でも必死に何か話さなきゃいけないという気配を漂わせていた。
王都のお店は高級貴族に慣れていて、対応がスムーズなお店も多いんだけどね。あんな反応は新鮮で少し可愛い。
……いや、こんなのんきな考えばかりしている場合じゃないわよ。
「何か私たちに話したいことがあるようですわね。どうかしましたの?」
「え、あ、う……し、失礼します!」
店員さんが腰をかがめた。いや、そうしてると私が負担になるんだけど!?
幸い、店員さんもこれ以上時間を無駄にしなかった。
「あ、あの……小道具を毀損してはいけません……!」
「はい?」
毀損? どういうこと? 特に壊したものはないんだけど……。
……。
……あ。
私とシドは同時に的の方を振り返った。正確には的に刺さっている短剣を。
柄に別の短剣が刺さっている姿を、ね。
「あ……ごめんなさい。テンションが上がってついミスを犯しましたわ」
魔力で短剣を回収。刺さった方の柄を見ると、小さいけれど明確に刃の食い込んだ傷が残っていた。
……やらかしちゃったわ。
「ごめんなさい。壊した部分は弁償しますわ」
「え!? だ、大丈夫なんですか?」
「そもそも私が悪かったんじゃないですか。当然のことですわよ」
あ、店員さんが混乱している。
「店員さんは田舎からいらっしゃった方なんですの?」
「え!? あ、う、はい。上京したばかりなんですので……」
「そうだったんですわね。貴族だとしても、相手が悪かったら緊張しすぎる必要はありませんわよ。マニュアル通り丁寧に対応すればいいですの。乱暴を働く貴族がいるとしたら……騎士団に通報すれば対応してくれますわ」
「……そうなんですか?」
「もちろんですわよ。王都のお店の方々はほとんど知っています」
それでも店員さんは相変わらず不安そうだった。やっぱり一言で認識を変えるのは難しいわね。
仕方ないわね。
「店員さん、お名前は?」
「え? あ……え、エリネ・リムバインと申します」
「エリネさんですわね。きれいなお名前……。……。……エリネ?」
一瞬、固まってしまった。
店員さんとシドは不審そうに私を見たけれど、私には対応する余裕がなかった。
エリネ・リムバイン。初めて聞く名前だけど……きっと、私の知っている名前だったから。
―――――
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