上に立つ者の自覚

 一方、聴衆の反応は……半分は感嘆、そして半分は当惑か。


 おそらく疑問に思う人もいるだろう。ある程度偏差があるとはいえ、修練騎士団はこれまで大きな問題なく仕事をうまくやってきたから。業務体系の改編をここで力説したとしても、必要性や重要性に共感できない人もいるだろう。


 そんなことまでここでいちいち説得する時間はない。


「そしてテニー先輩。どうして半分以上の作業を直接したんですの?」


「ダメな理由はないんじゃないですか?」


「それはそうですけど、他の人に委託しても構わないものもありましたわよ。例えば練習場補修工事の場合、結局核心は瑕疵を把握して補修作業を手配した時のコストを考慮し、最善の選択肢を選ぶことだけ。初期調査で間違いがあったとしても、個人の能力を大きく求める作業じゃありませんでしょう?」


「経験と実績を考慮した時、僕が直接するのが一番早くて確実だと思いました」


「当然そうだったんでしょう」


 私がそう言うと、テニー先輩は片眉を少し上げた。私の話がどういう意味なのか、私が何を考えているのかを探索しようとしているんだろう。


 もう遅いのに。


「主要公約に予算運用と施設最適化がありましたわね。そして練習場補修工事をはじめとする細部作業と日程……良い計画ですけど、一つ問題がありますの」


「そんなはずないです。作業に必要なものはすべて考慮しました。足りない部分はあるかもしれませんが、現状を考えると十分実現可能です。予想される成果も明確です」


「そういう意味じゃありませんわよ」


 冷静な眼差しを維持しているから先輩も、不満いっぱいの目で私を睨むラウルも。私が何を言うか警戒する様子が歴然としていた。


 私はそれを感じながら、一文字一文字を心に刻むようにゆっくりと話した。


「これらの公約を実践するのに、修練騎士団長という職位があえて必要なんですの?」


「……!」


 テニー先輩の公約には予算管理およびその予算をどこでどのように執行するかを扱う内容が多かった。それ自体が悪いわけではないけど……率直に言えば、その内容のほとんどが


「計画がどれほど良くて必要かも重要なんです。けれど、これは修練騎士団長になるための公約ですわ。なぜ修練騎士団長になりたいのか、なって何をしようとしているのかをアピールするための政策なんでしょう? ところが、テニー先輩の公約の多くは総務部長の権限で即決執行が可能なものですわよ」


 トップがいずれかの分野に特化しているのが悪いわけではない。むしろ、すべての分野に精通した人は極めて珍しく、実際にもある集団の頂点に立つ者としてすべてを網羅することはほとんどない。そのため、足りない部分を補完してくれる人を傍に置くのだ。


 けれど……能力が偏っているからといって、持っているビジョンまで狭まってはならない。


 修練騎士団は前世の生徒会のような存在。でもアカデミーは生徒の数だけでも一万人以上だ。人員も規模も前世の一流大学よりはるかに巨大だし、その多くの生徒がこの国の有名な人材になる。


 そんなアカデミー生活を統括する役職なら、単なる生徒会くらいのレベルでは終わらない。そのため、修練騎士団長が出世の重要な経歴にもなるし。そのような地位を獲得するためには、当然それに相応しいビジョンと目標を持っていなきゃならない。


「冷静に言えば……〝総務部長〟じゃなく〝団長〟として、テニー先輩が持っているビジョンが何なのか見えません」


「それは何の……!」


「落ち着いてください、ラウル先輩。かっとなる気持ちは分かりますが、だからといって現実から目をそらすことはできません」


 私は事前配布された公約集と、さっきの公約発表の時に筆記しておいた資料を持って見せてあげた。


「テニー先輩の公約は確かにいいですわよ。当面の問題点を改善し、より快適なアカデミー生活を保証できるでしょう。けれども……そのほとんどが現在の問題点を解決する具体的な方案に過ぎません。組織として未来を眺める要素が全くありませんわよ」


 私たちが準備した公約が無条件にもっと良いと言うつもりはない。


 けれど、私たちは修練騎士団のシステム的な短所が何かを悩み、それを改善することで私たちがアカデミーを離れた後も後輩たちがより効果的に修練騎士団を導くことができるよう按配しようとした。


 一方、テニー先輩の公約は地域的すぎる。団長としての目標点も、長い間残す業績を考えるビジョンもない。率直に言えば、実務だけにこだわってきた人の典型的な考え方が生んだ結果だった。


「それに仕事のやり方自体も残念ですわ。あまりにも直接乗り出して処理したことが多く、そこに時間をたくさん奪われましたわね。テニー先輩だけができることでもありませんのに。このようなことは適切な人を選別して任せた方が効率ももっと良いですわよ。端的に言えば……が致命的に足りません。資質を離れて、修練騎士団長というトップの座に挑戦するという意識が、ですわね」


 テニー先輩は平民だ。数千人の人々の上に立つことがほとんどない身分。しかも現場で一生懸命働いてきた人だから、むしろその視界がまだ現場に閉じ込められてる。このような部分の意識は、公爵家の令嬢である私たちが有利なのが当然だ。


「……ご指摘いただいた部分は認めます」


 テニー先輩は心の中を覗くことのできない無表情で口を開いた。


「ただし、内部政策に対するジェリア様の公約が残念だという考えには変わりがありません。原論的な体系確立は良いのですが、懸案への対応が不十分すぎます。現在の問題点を度外視したまま、修練騎士団内部にだけ埋没していたと見ることもできます」


 あら、これは?


 やっぱり隣で怒りで息巻いているばかりのラウルとは違うわね。まだ突っ込む部分を見つけるなんて。


 もちろん事前に予想しておいた部分だったので、返事も準備しておいた。残ったのはその答えを口にするだけ。


「そちらには問題ないぞ」


 ……ジェリアが私より先に口を開かなかったら、ね。


―――――


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