個人と体系

 テニー先輩はまだ私の意図を把握できていないようだけど、警戒心のこもった眼差しで慎重に口を開いた。


「一部の調査は他の方にお願いしましたが、主要な部分は僕が担当しました」


「団長候補であるにもかかわらず、直接現場を確認して的確な解決策を考案すること。率先して能力を発揮する重要な素養です」


 ラウルが傍で手伝った。


 確かにラウルが言ったことも重要な素養だ。実際に今日発表した最終案はかなり具体的で、私から見るにも良い方法だった。そのまま進めば、練習場補修作業の効率をかなり高めることができるだろう。


 ただ……私が注目するのはだ。


「他の公約も同じですの?」


「僕が直接担当したのが六割くらいになりますね。残りも検収と補完は僕が直接しました」


「練習場補修公約のこと、最初に公約集に載った内容も全部自分で作業したんですの?」


「なぜそんなことを聞かれるのかわかりませんが……いいえ。最初は調査と資料収集は別の人が行いました。僕は資料で収集した問題点を分析し、解決策を考案しました。しかし草案が完成した後に調査段階の欠陥が発見され、僕が直接追加調査を通じて資料を補完して再算定しました」


 だから配布された公約集と今日の発表の内容が違った、ということだよね。


 基本的な骨子は同じだけど、初期資料の誤りのため補修に必要な時間と費用を再計算した。他の公約の中にもそういうのがあったんだろう。


 そこに私が衝く虚があった。


「つまり、こういうことですわね。初期段階の調査に不十分な部分があり……それを直すために、……と」


「……!」


 テニー先輩の顔色がほんの少し変わった。多分私が何を指摘しようとしているのか今気づいたんだろう。


 けれど、今はもう遅いわよ。


「さっき公約発表の時に出た内容はすべて記録しておきましたわ。そして事前に配布された公約集と比べてみましたわよ。練習場の補修関連以外にも、かなり多くの公約に大きな変化がありましたわね」


「それに何の問題がありますか? 不十分な部分を補完するのは当然のことなのでしょう」


 ラウルがそう言った。けれど、私は首を振った。あくまで優雅に、〝相手のミスを指摘する令嬢〟の印象を生み出しながら。


「不備が発生する理由はいろいろありますわよ。重要なのは、その中で予防できるものを予防することですの。今回テニー先輩の公約で発生した問題のように」


 私は右手でロベルに合図した。それを確認したロベルは書類を持って口を開いた。


「大きな変更が発生した公約には共通点がありました。初期公約を設立した当時、調査を進めた人員に重複がありました。調査グループのうち、いくつかのグループの能力的未熟さ、そして忙しい日程による検討作業の不備などが原因とみられます」


 続いてロベルが各グループの調査結果と具体的な不十分点まで言及すると、テニー先輩の目に少し当惑した気味が宿った。


 それをこっちが把握しているのが意外だったのかしら。まぁ、普通はそこまで調べることが珍しいわね。でも情報は謀略の基本。情報収集に力を入れるのは謀略家として有名なオステノヴァには基本よ。


 ロベルの話が終わった後、私はまた口を開いた。


「私たちが把握するには、調査員たちの未熟さよりは日程の問題がもっと大きかったですわね。短い時間で一部のグループが多くの仕事を同時に引き受け、公約集作成というタイムリミットを満たすために多少急いで仕事を進めたためでしょう。その結果、候補者が選挙活動期間の時間を割いてまた作業を行うことになりましたわよ」


 人員不足、スケジュール管理不十分、作業の優先順位未設定。原因はいろいろあるだろうけれども、私はそのすべてを一つにまとめるのが正しいだと思う。


「私はね? そのような問題が結局は修練騎士団自体の問題だと思いますの」


「……どういう意味ですか?」


「アカデミーはこの国の優秀な人材が集まる場所ですわよ。ここで成績の低い人でも、他の場所では十分秀才と呼ばれることがあります。そして修練騎士団はその中でも優秀な人が多いですの」


 突然の人材称賛。ラウルは私の意思をまだ理解していないような表情だったけれど、テニー先輩は一瞬何かを悟ったように目を丸くしてすぐ眉をひそめた。


「そのため、修練騎士団には良くない慣例がありました。システムの不備を無視したまま、個人の優秀さだけに依存するということですわよ。そのため、時には問題が発生することもあります」


 その時ラウルが何か言おうとしたけれど、彼の言葉を大体予想した私は先手を打つことにした。


「もちろんテニー先輩が問題点を補って良い結果を出しました。でもそれは結果論なんです。日程を厳密に樹立したり、業務をもう少しきちんと分配したり、優先順位を明確に設定したり。最初からきちんとできていたら、それだけ他の作業をする時間を確保できたはずですわよ。しかもテニー先輩の優秀さだけを武器に団長になったら……テニー先輩の任期が終わって、卒業までした後はどうするんですの?」


 実際、修練騎士団は幹部陣に誰がいるかによって業務能力が変わった。それが個人の優秀さだけに依存してきた結果。


 頭の痛いところは、結局優秀な人たちの力で今まである程度はうまくやってきたから、その問題点を克服しようとした人がいなかったという点だった。


「あえてテニー先輩のことじゃなくても、個人の能力に依存する業務体系は結局構成員の能力によって全体的な業務能力にも偏差が生じます。もちろん個人の能力が重要なのは事実です、だから選挙で団長を選ぶんですから。ですけど、明確で効率的なシステムを確立することは、業務能力の底を高めることができます。私たちはそう思いましたわよ。だから詳細な問題点を探すよりも、問題点を効果的に解決できる体系の確立を優先したんですの」


 これがテニー先輩の質問への答え。


 テニー先輩は原論的だと言ったけど、こそ、私とジェリアが焦点を合わせた部分だった。


―――――


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