眺める視線
「ジェリア?」
私は少し驚いてジェリアを振り返った。けれど、彼女の顔を見て口をつぐんだ。
自信に満ちた表情……じゃなかった。ただ静かに、口元を少し引き上げて微笑んでいるだけ。でもあの超然として爽やかな笑みを浮かべた時のジェリアこそ、私が一番信じて任せられるジェリアだ。
おそらくジェリアが言うことは私が準備しておいた返事とは違うのだろうけど……あえて口出しするのは不格好なことだろう。
「精巧で効率的な体系を整えることは実務者の業務能率向上につながる。君が言った通り、ボクの公約にも弱点はある。だがそれを補完できる担当者はすでに考えておいた。あいつが持っているアイデアもすでに確認済みだしな」
「十分に検証された人ですか?」
「もちろんだ」
テニー先輩は眉間にほんの少ししわを寄せただけだった。ジェリアが言った人が誰なのか見当がつかないようで……ひょっとしたらジェリアが団長になってからの人事を心配しているのかしら。
比較的平然としているテニー先輩と違って、彼の傍にいたラウルはかなりかっとなったようだった。
「誰を使うということですか? 見るまでもなくどこかの高位貴族を……」
「テリアが言ってたな。テニーの公約は総務部長の席でも十分に実現できることが多いと」
突然の言葉でテニー先輩とラウルの二人とも目を丸くした。
やっぱりこの流れでジェリアがあんなことを言ったことが何を意味するのか分からないほど鈍感ではないだろう。
ジェリアはニヤリと笑いながら手を差し出した。まるで握手を求めようとしているかのように。
「修練騎士団長は選挙で選出されるが、その団長を補佐する副団長は団長が選定する。テニー。君が構想した政策、
ジェリアの言葉が聴衆に大きな波紋を呼んだ。
討論会の席でライバル候補をスカウトする。それ自体も十分異例のことだったけど、ジェリアのことをよく知っている人たちはただその意外な発言に驚いただけだった。でもジェリアのことをよく知らない人たちは……単なる驚きを超えて、ほとんど驚愕に近い反応だった。
それも当然だろう。修練騎士団副団長は団長の最側近。当然、副団長に任命される人は団長に近い人だ。しかもジェリアはフィリスノヴァ公爵家の令嬢。フィリスノヴァ公爵家に対する世間の認識を考えれば、彼女が平民であるテニー先輩に副団長の座を提案することからが非常識だ。
みんなが予想した候補はおそらく……。
「……心にもないことはおっしゃらないでくださいませ。ジェリア様の参謀はすぐ隣に座っているじゃないですか」
テニー先輩が私に視線を投げながらそう言ったけれど、その言葉に首を振った人はジェリアじゃなく私だった。
「私は副団長のポストにはあまり関心がありません。各部の業務を総合的に把握して管理しなきゃならない席は、私の適性にも合いませんし」
まぁ、学年から見ても私は次の団長を狙うこともできるので、必ずしも今他の席を狙う必要はないし。団長のような面倒なことをするつもりはないけど。
……
一方、テニー先輩は小さくため息をついた。
「ふう。……知らないことは僕に押し付けるつもりだと理解すればいいですか?」
「素養のある者を適切なポストに起用するのは当然のことだぞ。ボクが十分に知らないことに意地を張るのはバカなことだからな」
「そうおっしゃると思いました」
テニー先輩も今言ったことが無理だということくらいは自覚しているようだ。それでも団長候補として競争する立場である以上、素直に納得するわけにはいかないということだろう。
ジェリアもそれを理解しているかのように笑った。
「君だけじゃない。誰になっても、性格に問題がなく能力があれば起用できる。もうすぐ卒業するガイムス先輩にも助言くらいは求められるぞ」
「ガイムス先輩? 誇り高いフィリスノヴァが傘下の伯爵家に助けを求めるということですか?」
ラウルがそう言った。
どうやら皮肉を言う意図のようだった。本当に丈夫な人間だと一人でこっそり感嘆してしまった。
いざジェリアは鼻で笑うだけで、平気だった。
「愚問だな。アカデミーで必要なのはつまらない爵位の論理ではない。立派な先輩と精進する後輩の関係だけだ」
「その重要度を無視したのがこれまでのフィリスノヴァでした」
「〝以前までの〟フィリスノヴァだ。ボクがクソ親父から受け継いだのは剣術だけだ。家の傲慢な力や思想を受け継いだ記憶はないぞ。まぁ、家のお金を利用したことはあるが」
ラウルは口をつぐんだ。
……私なら何か少しでも隙間を見つけて突っ込もうとしたはずだけど。ラウルにそんなことを望むのは無理かしら。
討論は最後までそんな感じで進められた。すでに見せた姿だけでもラウルがジェリアを攻撃するほどの素材はほとんど封鎖され、たまにテニー先輩が鋭い質問を投げかける程度。私たちの方からもたまにいい攻撃をしたけど……実際、最も大きな素材を最初に消費したため、以後は大きな成果はなかった。
それでも最初の攻撃が十分大きな成果ではあったけれども。
「楽しい討論でした。いろんな意味で」
討論がすべて終わった後、テニー先輩がそう言って手を差し出した。聴衆から小さくざわめく声が流れたけど、それもしばらくだけ。ジェリアがためらうことなくその手を握ると、ざわめきはすぐ歓声になった。
「平民が無礼に先に差し出した手を平然と握るフィリスノヴァ公爵令嬢、ですか。……やっぱり認めるしかないですね」
「大丈夫か? ボクを助けたようになったぞ?」
「大体勝敗を予感できる状況ですからね。どうせ結果が見えたら、その後は少しでももっと修練騎士団を集中した方向に導けるように助けるだけです」
その言葉にジェリアはニッコリと笑った。
「やはり君はすごい奴になるはずだ。このボクが認めたことだから、将来を心配しなくてもいいぞ」
「僕の身の回りのことは自分でします」
テニー先輩も笑いながら手に力を入れた。
聴衆がそれをどのように受け入れるかを計算しながら、私は表向きは無邪気に微笑んで拍手した。
あとは、投票と結果を待つだけ。
―――――
読んでくださってありがとうございます!
面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!
一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます