ジェリアとテニー

 本格的に派閥活動のようなことをするわけではないが、テニーの奴の性向は純粋能力主義の方だ。反面、ボクは保守能力主義の筆頭であるフィリスノヴァの令嬢。ボクたち二人のうち誰が勝つかによって、修練騎士団長の座をどの派閥が占めたかという結果になるのだ。ボク個人がどんな性向を持っているのかなどはあまり知られていないから。


 まして先代のガイムス先輩は我がフィリスノヴァ公爵領に属した貴族のドロミネ伯爵家の令息。ドロミネはクソ親父とは性向が違うが、とにかくフィリスノヴァ所属ということだけでも先入観はある。実際、次期団長の座をボクが占めるのがそんな理由で嫌いな奴もいるし。


 個人的には学びの場所にそんなものを持ってくるなと言いたいんだが。


「今回修練騎士団長になることで、保守能力主義と純粋能力主義の間の軋轢で優勢を占めたい。そういう考えだな?」


「よくご存知ですね」


「知っているぞ。アカデミーにはこの国の未来を担う有能な奴らが集まるんだ。そんな奴らの代表とも言える修練騎士団長なら、単にアカデミー内での地位だけでは終わらない。卒業後の進路はもちろん、さらに在学中でさえ他の生徒たちの思想や派閥に影響を与えることができるからな。そのため、政治病にかかった奴らは修練騎士団長に過度な意味づけをしたりする」


「政治病にかかった奴ら、ですか。本当に共感せざるを得ない表現ですね」


 テニーが苦笑いした。率直に言えば自分をそんな奴らと同じように扱うなと言うだろうと予想したので、彼のそのような反応には少し驚いた。


「正直、僕もそういうのは苦手です。ですが僕一人が嫌がるからといって社会現象が消えるわけではありません。どうせそんなことから自由になれないなら、いっそ利用できる方法を考えるべきではないですか?」


「それはそうだな。それで君は今回の選挙で勝ちたいのか?」


「正直言ってそうなんです。個人的にはジェリア様なら十分団長になるだけの力量があると思いますが……純粋能力主義者としては譲歩できません。時期が時期ですから」


「それはボクも理解するつもりだぞ」


 長い間、バルメリアの政界の主流は保守能力主義だった。だがその筆頭である我が家の領地で派閥葛藤が激しくなり、保守能力主義派閥の勢力が最近になって停滞している。その隙を狙って政界の主流を占めようと活発に動く純粋能力主義派との摩擦もますます激しくなっているとか。


 だが純粋能力主義派の象徴に他ならなかったピエリが去年の事件で失脚し、彼らの勢いにも歯止めがかかった。そのため、双方とも状況を進展させるきっかけを探している。


 修練騎士団長はそれ自体の影響力も大きいし、その気になれば政治的にも派閥の成長に寄与する方法はある。この時点で修練騎士団長になって派閥の成長を図るのがテニーの目的だろう。


 正直言って、クソ親父をなんとか引きずり下ろしたいボクとしてはテニーを支持したい気持ちだ。テニーの能力と条件が完璧だったら、実際に辞任して彼を支持したかもしれない。


 ……だが、テニーには決定的に足りないものがある。


「何を望んでいるかはわかったぞ。だがボクも負けてあげることはできない。やりたいことがあるんだ」


「簡単ではないと思います。去年のことで感情が傷ついた人がいますからね」


 去年のこと。ピエリが失脚したあの事件だ。


 ピエリは派閥争いに直接飛び込んだわけではなかったが、純粋能力主義者たちには象徴に他ならなかった。そのような存在の失脚は当然大きな波紋であり、中には事実を否定しようとする人々もいた。


 すべての調査が終わった後、当時証拠として使われた映像資料は一部に公開された。だが彼のイメージを利用していた奴らはそれが捏造された資料だという疑いを提起したり、事件に直接関わったボクとテリアに容疑をかぶせようとするなど愚かなことをした。アカデミーにも彼らと似た思想を持ってボクたちを敵対する奴らがいる。


 当然だが、彼らはテニーの支持層である。そしてかなり攻撃的な行動力を見せる奴らだ。


〝皆が僕のように納得することはないでしょう。今日してくださったお話も広がっていくはずです。僕が先に言及したような疑いを持つ人々ももっと現れるでしょう〟


 そういえば去年テニーが警告をしたんだな。いざ警告をしたテニー自身は彼らがあまり気に入らなかったようだが、だからといって彼らを利用しないほどロマンチックな奴ではない。


「そのくらいはボクも知っているぞ。どうせそんな奴らはそのことがなくてもボクのことを嫌がる奴らがほとんどだ」


「何であれ選挙に影響を与える人たちというのは変わらないです。対策はありますか?」


「意外だな。好き嫌いはともかく、あいつらは君の支持層じゃなかったのか?」


「ジェリア様の対策法がわかれば、またそれに対応する戦略も立てられますからね」


「図々しいだな」


 ボクはニヤリと笑ってしまった。立場では今回はライバルではあるが、やっぱりテニーの奴は嫌いじゃない。


「まぁ、互いに頑張ろう」


「そうですね。選挙活動や討論の時になると手加減はしません。お覚悟を」


「それはこちらも同じだ。剣を使わない戦いでも、ボクはいつも本気だということを見せてやる」


「楽しみですね。フィリスノヴァ公爵家は力仕事だけが得意だというイメージが強いのですが、ジェリア様はいろいろな面でフィリスノヴァのイメージとは違う御方ですよね。どうか今回も期待に反しない姿をお願いします」


「言わなくてもそうするつもりだ」


 どうか公正で対決になるように。


 そんな気持ちを込めた握手がそのやり取りの最後だった。




 ***




「……そんなことがあったわね」


―――――


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