お互いに望むもの

「……本気なのかい?」


「誓いの言葉は決して取り消しできません。ご存知だと思いますけれども。……その代わり、私が言った条件を必ず守ってください」


 ガイムス先輩はしばらく黙っていた。


 悩むだろう。私が掲げた条件は決して容易じゃない。まして具体的な時期や内容も不明だから。代価として差し出したのが破格のことだからこそ、さらにその条件の実体が悪辣だと疑うこともできる。


 長い悩みの末、ガイムス先輩が再び口を開いた。


「質問をするんだけど」


「何ですの?」


「君が条件に掲げたいつかの助け。それは何のためかい?」


 やっぱり気になるだろうね。いくら違法や先輩の損害を排除する条件をつけたとしても、内容も分からないのに無条件協力しろって言われたら不安になるのは当然だ。


 もちろん予想できた質問なので、答えも事前に準備しておいた。


「国と民のために。……と言っておきますわ。詳しいことは言えません。秘密だからじゃなく、私もまだすべてを確定できないんですわよ。それでもガイムス先輩が嫌がるようなことでは決してないと断言できますの」


「じゃあ、あえてこんな誓いをする必要もないんじゃない?」


 ……鋭いわね。やっぱり勘がいい。


 けれど、ここでは勢いで推し進めるしかない。


「必要な時に要請をするための媒介が必要なだけですの。他の意味はありません」


 ガイムス先輩はしばらく黙っていた。多分私が提案した条件と代価を秤にかけているだろう。


 私が執行部に入って何年も経ったけど、ガイムス先輩との接点はあまりなかった。学年も年齢も少し距離があるから。だからガイムス先輩にとって、私がどれほど信じられる存在なのか自信がない。


 しばらく熟考した後、ガイムス先輩がまた口を開いた。


「君が言ったフィリスノヴァ公爵領の問題は必ず起こるのかい?」


「私の思い通りなら」


「……いいよ。その条件、受け入れるようにしよう。君の誓いの言葉がむなしいことじゃないと信じる」


「ありがとうございますわ」


〈天の契約〉が輝き、ガイムス先輩と私の胸にその光がつながった。温かい感覚がしばらく私たち二人の胸を濡らした。


 それから私はガイムス先輩の手を握った。


「よろしくお願いします、先輩」


「暗闘と謀略に長けたオステノヴァが味方だから心強いね。どうぞよろしく」


「言葉がちょっとアレですね。……でもまぁ、最善を尽くしましょう」


 この程度なら十分な収穫だ。私はそう思って微笑んだ。


 もともとこの時期にガイムス先輩とこのような契約を結ぶつもりはなかった。けれど、ガイムス先輩はゲームであった大きな事件の一つの解決に必要な重要な人であり、その事件以外にも縁を作っておけば大きく役立つ人だ。この時点でこのような関係を構築しておくのは私にとってはとても嬉しい誤算だ。


 この契約をどう活用するか熱心に頭を使いながら、私はガイムス先輩と一緒に微笑んだ。




 ***




「ジェリア様」


 ボクを呼ぶ声に振り向くと、テニーは無愛想な顔でボクを見ていた。


「どうした?」


「結局、ジェリア様と僕の対決になったのですね」


 それを言われてボクはニッコリと笑いながら頷いた。


 そもそもボクが想定していたライバルはテリアとテニーだけだった。テリアが出馬しなかったのは少し予想外だったが、ボクにとっては一人がなくなった程度の差。さほど大きな感慨もなかった。


 しかし、テニーはボクと考えが少し違うようだった。


「あまり緊張はしていないようですね。勝利に自信がありますか?」


「特にそんな考えはしたことないぞ。どんな結果が出ても受け入れる準備ができているだけだ。むしろ君ならたとえ負けてもボクの代わりによくしてくれると信じて安心できる」


「……相変わらず豪放ですね」


 テニーはそう言って笑ったが、その笑顔は唇だけのものだった。目はむしろさっきよりも鋭くなった。


 どうやら単によろしくと言うために声をかけてきたわけではないようだな。


「それで、どうした? 何か言いたいことがあるみたいだが?」


「大したことありません。ただ……絶対に今回の選挙で負けませんと言うために来ました」


「それは当然のことだろ?」


 ボクは笑い飛ばしたが、テニーはその気分ではないかのように眉をひそめた。まるでボクの態度が軽すぎると非難するように。


「そんな当たり前の話をあえてしに来たわけがないでしょう」


「それはそうだな。確かに修練騎士団長になること自体が一種の経歴になるから、ボクのような立場でなければその場がとても重要だな」


「……そんな意味でもありません」


 まぁそうだとは思ったんだが。


 テニーは単純に今後の就職や経歴のために修練騎士団長の座を狙う奴ではない。考えてみたら、今ボクの言葉を侮辱として受け入れたかもしれない。


 だがテニはあまり気にしない様子でまた口を開いた。


「僕が負けられないとおっしゃったのは、ジェリア様がフィリスノヴァ公爵家だからです」


 ようやくボクはテニーが何を言いたいのか気づいた。


「政治か」


「……やっと気づいたようですね」


「意外だな。君もそんなことに興味があったのか」


「がっかりしましたか?」


「別に? 政治はがっかりするものではないぞ。そもそも国を運営するためには必ず必要な要素だ。……権力をめぐって争う奴らは嫌悪するが」


 テニーの肩が上下した。良心がとがめることがある……というより、ボクの言葉から何かを思い出したのだろう。


 ボクは手を振りながら続けた。


「君がそんな部類だとは思わないぞ。ただそんなことを完全に無視できるわけにもいかないということも知っている」


 政治とか派閥とかは大嫌いだ。だが嫌がるのと知らないのは別の問題。クソ親父をいつか引きずり下ろすためにも、ボクもそのようなことについての知識は必要な限り持っている。


 もちろん、それくらいはテニーの奴も知っている。


―――――


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