ガイムスとの議論

「君もジェリアを修練騎士団長にしたいんじゃない?」


「それはそうですわね。理由は違いますけれども」


「理由なんて関係ないよ。重要なのは君が僕と同じ目標を持っているということなんだ」


「それで? 結局よろしくと言いたいんですの?」


 ガイムス先輩はニヤリと笑った。差し出した手はまだ戻さないまま。


「要約すればそうなるんだね。……君もわかるだろうけど、修練騎士団長は次期団長選挙に露骨に介入することはできない。公正を害することになるから。実は今話した内容も外に漏れたら君やジェリアに致命的だと思う。僕にも同じだし。だからといって後ろでこっそり動くつもりもない」


 多分それは事実だろう。


 今このように私を別に呼び出して話してはいるけど、最初からガイムス先輩は私がジェリアを支援することを前提に話を始めた。つまり私を説得しようとこの場を設けたのじゃない。


「僕は介入できないけど、いい助っ人が傍にいるなら強いて僕が出る必要はないんだ。それで確認したかった。君がジェリアの味方なのかを」


「それで満足されましたの?」


「もちろん。……だから君とは協力したい。これが僕の本論だよ。君もジェリアを団長にするのが目的なんだから、結局利害は一致するんだろうね?」


 差し出した手をそっと上げるガイムス先輩だったけれど、私は相変わらずその手を見てばかりいた。


 この手を握る前に、最後に言いたいことがある。


「確かに利害は一致しますけれども……だからといって、ただはい協力しますっては言えません。ジェリアが団長になってからの人選とか政策とかが、先輩と私の考える方向性が違う可能性もあるでしょう? だから協力関係を強固にするための条件がありますの。いや、条件というよりは取引と言うべきですわね」


「何なのかい?」


 選挙でガイムス先輩が助けてくれるとは最初から期待していなかった。原則的にもやってはいけないし、原則を破るほど勝算が低いわけでもないから。そのような意味で見れば、ガイムス先輩はただジェリアとテニー先輩の二強構図を明確にし、各自支持勢力を集められるように場を設けたに過ぎない。


 ……でも、私には他に大事な用事がある。


 ガイムス先輩は必ず必要な人だ。修練騎士団長選挙じゃなく、はるかに重要な未来のために。ジェリアにも、そして私にも。


 ……いや、私じゃなくてにね。


「二個。約束していただきたいんですの」


 ――紫光技特性模写『契約』


 ――『契約』専用技〈天の契約〉


 私の手に現れた魔力の紙を見たガイムス先輩は細目をあけた。


「……魂をかけて必ず守らなければならない契約。破ったからといって命を奪うほどの重い契約ではないけど、設定次第ではそれに準ずるレベルの重罰まで下すことができる術式だね。そんな大げさなことまで使って何をするつもり?」


「まず一つ、ジェリアを裏から助けること。具体的には……知り合いの生徒、かなりいますわね? 純粋能力主義派の方で、ガイムス先輩との表面的なつながりが比較的薄い子たちで。その生徒たちを何人か支援してください」


「下級貴族や平民の生徒たちは君も結構知っているじゃない?」


「私と親しい子たちは良くも悪くもその事実がよく知られているんですの。私と比較的近くない子たちが必要です」


「まぁ、それくらいは大丈夫。むしろ僕の方が要請したいくらいなんだ。それで二つ目は?」


「それは……」


 この言葉を口にしたら取り返しがつかない。だから私はもう一度考えた。


 ゲームの設定。ストーリー。起こった出来事の原因と結果。ゲームで足りなかったことは何だったのか。それを変えようとするなら何が必要なのか……。そのすべてを考慮した後、私が考えた最善の答えを。


「この後いつか。この契約の名で助けを求めた時にたった一度、無条件その要請に応じること」


 もちろん違法だったり先輩に害になるリクエストは除いて、と。そう話すと、ガイムス先輩は少し不可解なように眉をひそめた。


「なるほど。最初から選挙よりずっと後のことを考えていたんだね。……でも、その条件はかなり強そうだけど? 君の口で取引だと言ったから、それに相応するものをあげるという意味だよね?」


「今後、フィリスノヴァ公爵領には内紛が起こります」


 私がそう言った瞬間、ガイムス先輩の息づかいが一瞬止まった。


 私は彼の気持ちを十分に察知しながら、彼を刺激できる最善の言葉を口にした。


「かなり大変なことになるでしょう。ドロミネ伯爵家も重要な選択をするようになります。……その時になった時、オステノヴァ公爵家が貴方たちを助けます」


「……かなり……刺激的な言葉だね。しかし、その助けというのはある程度の……」


「必要であれば、オステノヴァの名高い魔導兵団が出征することもできます」


 オステノヴァ魔導兵団。オステノヴァ公爵家の研究成果が集大成された魔道具で武装した軍勢。個々人の能力とは別に、軍勢全体の質から見ればこの国の六大騎士団の二つを合わせたものに匹敵する。


 当然、軽く動ける集団ではない。しかも軍勢が動くということは、言い換えればという意味を含んでいる。謀略で有名なオステノヴァの後継者がそんなことを言うなら、気になるしかないだろう。


「軽く言う事案じゃないね。公爵閣下の意思かい?」


「いいえ、この後父上を説得しますわよ」


「じゃあやっぱりちょっと……」


「信じられないなら、今この場で〝全能のマイティ〟オステノヴァの名をかけて誓います。必ず私の言った通りになるって」


 ガイムス先輩の顔色が変わった。


 四大公爵家と王家の専有物である誓いの言葉。命と名誉をかけてでも必ず成し遂げるという意思表明。これを破れば家から追い出される程度では終わらない重い言葉だ。まして貴族同士の誓いならなおさら。


 その意味がわかるので、ガイムス先輩は眼差しを鋭くした。


―――――


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