第五章 彼女達の選挙
プロローグ 修練騎士団長
夢……か。
ぼんやりした頭に真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。
目の前がぼやけていて、四囲をよく認識できなかった。ぼーっとした耳鳴りだけが耳元でちらついた。まるで水中にいるような感じだ。
「……ジェリ……諦め……ダ……!」
……誰だ?
誰かがボクに話しかけている。だが誰なのかよくわからない。中間が切れた言葉は聞き取れなくて……それでも、その声がとても懐かしかった。
懐かしい……?
その言葉に疑問を抱いた瞬間、ぼやけていた目の前にある少女の像が浮かんだ。
ウェーブの金髪と金色の目が美しい少女。あまりにも憎らしいあの女の妹というのが信じられないほど優しくて優しい子。この子の友達になったことを誇りに思い、この子がボクのことを信じてついてきてくれるのが誇らしかった。
そんな子が泣いていた。ボクの目の前で。
「……どうか……を覚ま……」
依然として言葉はまともに聞こえなかった。
もっと、ちゃんと聞かせて。
そんな願いを込めて手を伸ばした。しかし、その手は黒く染まっていた。少女はその手に触れるやいなや突然飛ばされてしまった。まるで殴られたかのように。
どうして?
やっとボクは自分自身の異変に気づいた。
黒く邪悪な気がボクの全身を染めていた。手足はすでに黒く染まり、残りの部分も次第に侵食されていた。甘美なほどの力が全身にあふれたが……その力も、そして体も全くボクの思い通りに動いてくれなかった。
どうしてこんなに……、……、……ああ、そうなんだ。
ボクが、間違えたんだ。
強くなりたかった。証明したかった。君の傍に立つ資格があるということを、君の前を歩けるということを。だからこそ力が欲しかった、それで……こんなザマになった。情けない限りだ。
何が間違っていたのだろうか。方法が間違っていたのか。それとも間違った物を使ったのだろうか。それでもなければ……最初から間違った願いだったのか。
後悔だけが積み重なっていく中、ボクは……。
***
「気をつけるように。慣れない魔道具を使うときは、魔力を慎重に注入しなければならないぞ」
「はい! ありがとうございます、ジェリア様!」
「孔雀棟はあちらだ。大通りに沿って行ってもいいが、あの建物の裏の路地を横切るともっと早く行けるぞ」
「ありがとうございます! おかげさまで間に会えると思います!」
「そこ。ボクのパトロールエリアで他の生徒のお金を奪おうとするとは、覇気はいいな。ボクにバレても構わないという覚悟くらいはしておいたんだろう?」
「も、申し訳こざいません! これから決してこんなことしません!!」
今日も無難な日だな。アカデミーのパトロールをしながらも、ボクはのんびりとそう思った。
ジェリア様、ジェリア様とボクの名前を連呼することにも慣れている。修練騎士団員として、執行部員として……執行部長になった後も、ボクは顔をたくさん出した方だから。自分の口で言うには恥ずかしいが、ボクを支えてくれる生徒が多いという自覚はある。
……当然、これからボクの名前が話題になるのも。
「やっぱり今回の修練騎士団長はジェリア様になるでしょう!」
修練騎士団長。
アカデミーで生徒たちを監督し支援する修練騎士団の首長。その地位は誰が任命したり内部で昇進して占める席ではない。二年に一度、すべてのアカデミー生徒を対象にした選挙を通じて〝選出〟される席だ。そして次の選挙が目前に迫っている状況だ。
立候補する条件は二つ。一つはアカデミーに五年以上在学中であること、そしてもう一つはすでに卒業を控えた十年生ではないこと。それさえ満足すれば立候補は自由だが、実質的には既存の修練騎士団員として頭角を現した者たちが主に当選する。
当然ながら執行部員として、そして部長として長い間生徒たちと向き合ってきたボクは、今回の選挙の有力な候補として取り上げられている。ボク自身、選挙には出るつもりで、すでに立候補手続きも終えた。
ただ……。
「あ、でも今回の選挙は大変かもしれないんじゃないですか?」
「え? なんで……あ、あの御方がいるんだ」
「テリア様がいますからね」
やっぱり出てくるんだな。
テリア・マイティ・オステノヴァ。アカデミーで出会った親友。彼女も執行部員としてかなりの活躍をした。特に執行部員としての仕事だけを見れば、ボクよりももっと。人柄も実力も申し分ない彼女も次期修練騎士団長の有力な候補として言及されている。
そのたびにボクを支持する子たちとテリアを支持する子たちの間で舌戦になるのを何度も見た。だからボクはまたそのようなことが起きる前に先に出て防いだ。
「そんな話はもういい。まだ選挙活動も始まっていない今、言える話ではないぞ」
親友としてテリアが浮き彫りになるのは純粋に嬉しい。
年ではボクより三歳年下で、学年では一年下。しかし、その成就と努力はボク以上だ。そんな彼女を認めなかったり貶そうとする奴がいたら、ボクが先に怒る。
……だが、心の片隅には少し微妙な気持ちになるボクがいた。
テリアは強い以上の責任を負う。問題が発生すれば誰よりも先頭に立って走り、何でも他人よりはるかに努力する。そんな彼女にとって修練騎士団長という職責は、ただでさえ重い責任をさらに重くするのではないかという気もした。
そんなテリアの隣に並んで立ち、親友として負担を軽減したい。そのためなら、ボクが修練騎士団長になるのがテリアを助けるための道ではないか。
……こんな考えが嫉妬を正当化するための言い訳ではないかと思ったことはあるが。違うと信じたい。
「ジェリア様? 何かあったんですか?」
「ああ、何でもない」
集まった生徒たちを適当に帰し、ボクはパトロールルートに戻った。
善かれ悪しかれ、テリアという友人の存在はすでにボクの心の奥底に根付いているようだ。
―――――
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