その日以後
私、テリア・マイティ・オステノヴァが十六歳になった今年。
前世の記憶を思い出して以来、一番心配して待ちに待った年だ。
去年はゲームでは特別なことはなかったけれど、ケイン王子の視察やアルカとの模擬戦、突然の安息領のテロなどで予想できなかったことが多かった。それに比べて、今年はゲームでも最も重要な事件が起きる年だ。
厳密に言えば、ゲームが始まる前の過去のことだ。ゲームのストーリーが本格的に始まるのは私が十八歳になってからだから。けれど、今年の出来事はゲームのあらゆる出来事と同じくらい……いや、ある意味それらよりも重要だ。
その原因の一つと推測されていた要素はすでに除去されたけれど、それが本当に原因であるか確証はない。だから万全を期さないと。
「テリア、何を考えているの?」
私と同じ銀髪碧眼、そして私とは全く違う小さな体躯の美少女が声をかけてきた。リディアだ。今は前髪で隠さない青い目がとても可愛い。本当に人形みたい。歳では私よりお姉さんだけど、外見も言動も本当本当可愛い妹のようだ。
……いや、今重要なのはそうじゃないよ。
「選挙について考えていたの。今回の選挙には直接絡む可能性が高いから」
私の言葉にリディアは頷いた。
修練騎士団長選挙。
修練騎士団は前世の組織に例えると生徒会に近い。つまり今回の選挙は生徒会長選挙とも言えるだろう。けれど修練騎士団の役割は前世の生徒会より多い。修練騎士団長の重要性も生徒会長とは比較にならない。
しかも、今回の修練騎士団長選挙はさらに重要だ。今年起こる〝あの事件〟……未然に防ぐことができれば何よりだけど、もしそうできなかった場合には事件に対処する体制が本当に重要だ。そして、その体制を整えるためには修練騎士団長の役割が何よりも重要だ。
ゲームの修練騎士団長はジェリアだった。
ゲームでは私の邪魔によって大きな被害が出てしまったとしても、それはジェリアのせいじゃなかった。むしろジェリアは最善を尽くした。人材と資源が不足していたことを勘案すれば、むしろジェリア以上の手腕を発揮できる人はいない。この現実では私が邪魔もしないからもっといいだろう。
それで私の目標はすでに堅固だ。ジェリアを修練騎士団長にすること。
……でもゲームでジェリアが修練騎士団長になれたのも、考えてみれば私のせいだった。ジェリアに反対するような人々はみんなゲームの私の勢力が吸収してしまったし、彼らは選挙そのものをボイコットしたから。私の派閥に入っていない人々は私への嫌悪感と拒否感が強かったし、そんな私と敵対するジェリアが彼らの代表格になって当選した。
でも私はみんなの敵になれなかったので、むしろジェリアが票を集める力が足りない。
しかも私を次期修練騎士団長に推戴しようとする人まで出ている。彼らに悪意はないけど、私としては頭がおかしくなりそうだ。立候補しなければそれでいいけれど、私の支持層をジェリアに効果的に吸収させる方法を別に考えないと。
実は一番心配なのは一部派閥……というほどじゃないけど、特定思想階層の反発だ。私とジェリアは去年のことで少し仲が悪くなった人たちがいたから。
……そう、あの時のことで。
***
時間を少しさかのぼって、去年の中旬頃。
安息領のテロと安息八賢人としてのピエリの台頭直後のことだった。
「ラダス卿がアカデミーを離れたと? どうしてですか?」
修練騎士団会議室。
普段は落ち着いて合理的に懸案を議論する所だけど、この日は珍しく当惑感が場を支配した。
「騎士団から正式に手配令が下されました。先日あった王都テロ事件の主犯として名指しされたそうです」
「あり得ない! その事件は安息領の仕業じゃないですか!」
「その安息領と共に行動する姿が捉えられたそうです。それだけでなく安息領の人を直接救出して逃走する姿まで全部」
「そんなはずが……!」
生徒たちが当惑するのも理解できる。
大英雄ピエリ・ラダス。極に達した魔力運用で若い肉体を維持しているけれど、その実体は八十年間バルメリア王国のために献身した強大な騎士だから。彼が騎士団にいた頃には、彼に救われた人がどれだけ多かったか数えることもできない。通りすがりの人を誰でも捕まえて聞いても、十中八は家族や先祖がピエリに救われた人だと言ってもいいほどだ。
実際、騎士団に勤めていた時代の彼はその名声に相応しい英雄だった。引退した後が問題になっただけ。
「戸惑うのは理解できる。だが騎士団に提出されたことは明らかな映像証拠だ。まさか騎士団がまともな証拠もなしに大英雄に疑いをかけたと思っているのではないだろう?」
前に出てそう言ったのはジェリアだった。
彼女が言った映像証拠は私がロベルに設置してほしいって頼んだ魔道具で撮影した映像だった。そこにボロスと私たちの戦いからすべてが終わるまでの一部始終が全部記録されたのだ。
……もともとは別目的で設置した魔道具だったけれども。ピエリが現れるとは私も予想できなかったからね。
「映像……ですか?」
「そうだ。そして証人もいるぞ。それはボクだ。オステノヴァ公女姉妹とリディア公女、そしてオステノヴァの使用人たちも一緒だった。現場周辺を統制していた騎士たちもピエリの姿を見たそうだ」
公爵家の令嬢四人の名前が取り上げられると、空気が一瞬にして変わった。
当惑から納得へ。公爵家の名前を背負った直属の後継者が一人でもなくなんと四人もいれば、その発言の信憑性は格が違う。
けれど、みんながそれを納得して受け入れたわけではなかった。
「少々お待ちください」
会議室の中で冷静な声を上げ、一人の青年がゆっくりと手を上げた。
―――――
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