エピローグ 各自の結論

「大丈夫ですか、ジェリア様」


「心配してくれるのはありがたいが、それはボクのすべき質問のようだな」


 ロベルの言葉にボクは苦笑いして返した。


 ボクも特に体が良い状態ではなかった。骨もいくつか折れて、あちこちの肉が開いて血が流れていたから。それでも魔力で応急処置をして何とか歩けるくらいまでは回復したが……むしろロベルの奴がボクよりひどかった。足も震えて腕もちゃんと上げられないから。


 まぁ、ボクの『冬天』の氷はとにかく固いから防御能力もいいが、ロベルの『虚像満開』は本質的には幻影だからな。〈幻影実体化〉があるとはいえ防御能力が良い方ではないだろう。


 ボクは視線をそらした。どこを見てもめちゃくちゃだった。確かにそんなに大騒ぎしたから仕方ないだろう。


 その光景を一緒に見ていたロベルがふと口を開いた。


「……負けましたね、僕たちは」


「……そうだな」


 腹立つ事実だが、否定できない。


 ボクたちの中でそれさえも耐えられたのはテリアだけ。あとは全員ラダス先生……いや、ピエリの分身一体を大勢で相手にしてもあっという間に圧倒された。それこそ恥ずかしいほど圧倒的な敗北だった。


 その敗北がさらに身にしみらせた。ボクはまだテリアに匹敵するにはまだまだということを。


「テリアの奴、善戦したな」


「……そうですね。僕たちとは違って」


 三人で分身一体を相手にした時も、結局圧倒することはできなかった。テリア一人では結局負けてしまったのだろう。


 とはいえ、テリアが一人で分身一体を相手に倒れずに耐えていたのは事実だ。それだけ見ても、テリアと他の皆の間に大きな差があることは明らかだった。


「テリアはどうやってあんなに強くなったのか?」


「わかりません。むしろ僕が聞きたいです。お嬢様の足跡は傍でずっと見守っていましたが、成長速度が尋常ではありませんでした。才能の領域としか言えないと思います」


「……ふむ」


 才能か。あいつに会う前まではボクも才能ではどこにも負けないと思っていたが。


 まぁ、答えが出ない問題を悩むのは時間がとてももったいないことだ。今はそんなことよりまず周りを収拾するのが先だ。とはいえ、ボクたちにできることはあまりないんだが。


 それでも何か安息領の奴らが残した手がかりや物のようなものがないか見回っていたところ……ある物を見つけた。


「これは……」


 拾ってみると魔道具だった。形相は見覚えがある。邪毒で所有者を強化する黒騎士の魔道具だった。使ったことはないが、存在自体はアカデミーの教育内容にもあった。


 安息領の奴らの特徴を考えれば、この程度の魔道具は当然使うだろう。


 少し傷がついたものの、中核部は無事のようだ。持って行って調べてみたら何かわかるだろうか。


「……強化か」


 ……こんな道具に頼るつもりはないが、一瞬誘惑を感じたのは否めないんだな。


 ボクは首を振って雑念を払い落とし、その魔道具をポケットに入れた。




 ***




「結局何をしたかったのかよ?」


 オレの質問にピエリは眉をひそめた。


「起きたか?」


「そもそも気絶したことはねぇぜ」


 まぁ、めちゃくちゃにやられたがな。それでもこのボロス様がせいぜいこれほどで意識を失ったりはしねぇ。


 楽しい戦いだった。何年ぶりの敗北なのか思い出せねぇほど久しぶりに負けた。だが面白かったし、敗北への経緯にも特に不満はねぇ。とにかく満足したぜ、うん。ピエリの奴がオレを肩に担いで移動中であることも、今は寛大に思ってあげる。


 ピエリの奴はオレと違って遺憾千万だろうと思ったが……意外と特にそうでもねぇようだ。


「で? 作戦が失敗した割には気持ちよさそォだが?」


「目標は大体叶ったから」


「目標? 作戦は失敗しただろ?」


 ピエリはニヤリと笑った。別に問題はねぇが、意外だな。こいつは計画が崩れるのがイヤだと思ったが。


 その考えをそのまま口にしたら、奴はもっと笑った。


「その作戦はそもそも言い訳に過ぎなかった。それはそれなりに成功させるつもりだったけど、失敗しても特に問題はなかったよ」


「なら何をするつもりだったかよ?」


「貴様、改造黒騎士の魔道具失くしただろ?」


 言われてみれば、いつもオレの胸にいた魔道具の気配がなかった。どうやらさっきやられた時にこぼしたみてぇだな。


「そうみてぇだぜ。それはなんだ?」


「それだけわかればいい」


「何だよ。オマエだけわかればいいのか?」


 こいつはいつもこうなんだぜ。まぁ、オレも特に興味を持ったことはねぇが。


「それはちょっと語弊がある。私も全部知ってるわけじゃないから」


「それはどォいう意味だ?」


「その魔道具のことは私が考えたことじゃない」


「……〝あの御方〟の指示ってことか?」


 そういえばこいつは時々〝あの御方〟の指示を直接受けて動く時がある。


 オレらの〝あの御方〟――安息領の真の主人。外の奴らは安息八賢人が最高幹部だってことしか知らねぇが、正確には八賢人にもリーダーはいる。普段は他の八賢人に仕事を任せて放置するが、時々直接指示を下す時がある。特にピエリはその指示をよく受ける方だ。


「なら今回のことも〝あの御方〟の命令かよ?」


「いや、仕事自体は私の計画だ。〝あの御方〟はそれを知って、おまけで一つ耳打ちしてくださったんだ」


「その本来の計画はなんだ?」


「……さぁね。説明をしたからって貴様が理解できるかな?」


「はっ。またそれかよ」


 バカ扱いというのは知ってんだが、特に不満はねぇ。オレが力ばかり強ぇバカだってことはオレも知ってんだし、別にそれを否定するつもりもねぇ。


 ただ……今日のあの奴らには少し同情する。


 オレを面白くしてくれた奴らだから気に入ったがな。だがピエリの計画に引っかかりゃ、まともに終わることがねぇ。何をしてんのかは分からねぇが、また何か大変なことを起こそうとしてんだろう。


「まぁ、どォかオレが楽しめることであってほしいぜ」


「……今度はそれはダメだ。貴様が割り込む余地はないんだよ。しかし……」


 ピエリはしばらく立ち止まり、ニヤリと笑った。


「見物だけでもとても面白い見どころになるということは断言するよ」


―――――


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