大英雄の力

 来る。


 そう思った私はピエリが突進してくるより先に本気を出すことにした。


 ――『万壊電』専用技〈雷神化〉第二段階〈雷鳴顕現〉


 周辺一帯を支配する雷電の領域が展開された。


 自分の体を雷に化する〈雷神化〉の発展型。自分を越えて周辺一帯を稲妻で支配し、空間全体の稲妻と同化して範囲と威力を得る。これ一つだけでかなりの戦闘系特性に取って代わる強力な技だ。


 残念ながら、今の私はこれを使用している間は他の特性を模写することができない。ボロス戦で使えなかったのはそのせいで。だけど、ピエリを相手にはボロスの時の九重複合特性模写よりも〈雷鳴顕現〉の方が効果的だ。


 私は巨大な雷電となり、ピエリに突進した。雷電が作り出した数多くの剣と手に持った剣が一斉にピエリを狙った。


「……そこまでたどり着いたのですか」


 ピエリは高速で剣を振り回した。まるで蛇の群れのようでもあり、巨大な花のようでもある形を描きながら無数の斬撃が放たれた。無数の雷電の剣が迎撃された。でも私が剣を振り回し、雷電を浴びせ続けると、ピエリの顔から初めて余裕が消えた。


 その瞬間、ジェリアは側面に突っ込んだ。


 ――狂竜剣流『冬天』専用奥義〈冬天の流星〉


 ピエリは舌打ちをして強力な斬撃を放った。けれど、彼の斬撃はジェリアの氷雪の斬撃をそのまま通り過ぎた。氷雪の斬撃も彼をただ通り過ぎた。


「これは……くっ!?」


 その直後、ピエリの後方から氷雪の斬撃が放たれた。ピエリは急いで後ろに斬撃を放ってそれを相殺しようとしたけれど、防げずに肩を斬られた。氷が瞬く間に成長し、彼の左腕を覆った。


「最初は幻影だったのか……!」


 後に続く私の奇襲。凍りついた左腕が剣を握っていない腕だったので、ピエリは剣を振り回して対応した。でも彼の頬と肩から血が飛び散った。


 直後、両側からロベルが『虚像満開』の能力で作り出した幻影たちがピエリに飛びかかった。魔力の感覚まで欺く強力な幻影の力。ピエリはそのすべてを剣で斬り、幻影と共に浴びせた私の攻撃にも対応した。でもその隙を突いて入ってきたロベルの蹴りが彼のわき腹に直撃した。


「なかなかの連携ですね!」


 ピエリは咆哮しながら剣を振り上げた。


 ――蛇形剣流、『倍化』専用奥義〈二頭竜牙〉


〈一頭竜牙〉の巨大な竜の頭が二つも放たれた。


「くぅっ……!」


 竜の頭がロベルとジェリアを襲い、もう一つは私を噛みちぎろうと飛びかかってきた。私は〈雷鳴顕現〉のすべての力を集中した〈三日月描き〉を放った。けれど攻撃を完全に相殺することはできず、体のあちこちに浅い刺傷ができた。


 ピエリは私を睨みつけて微笑んだ。


「まさか生徒たちを相手に特性の力を使うようになるとは思いませんでした」


 ……その通り。


 これまで私たちは善戦してきたけれど、ピエリは特性を使わずに私たちを相手にしていた。もし彼が本当に全力を尽くしていたら、私たちはここまで対抗することはできなかった。


 けれど。


「いいです。私も本気で……」


「そんなつもりもないくせに恐喝はやめてくれる?」


 私が微笑んでそう言うと、ピエリは口をつぐんだ。


 そうだ。彼は最初から全力を尽くすつもりはなかった。もし全力を尽くすつもりがあったなら〈完全分身〉を一つだけ作って魔道具を守るようなことはしなかっただろう。それさえなかったら、私も最初から彼を相手にすることはあきらめて何とか目標だけを達成して逃げようと思っただろう。


 ピエリは興味深いように細目を開けた。


「私の特性の弱点を知っているようですね。確かに、私の特性が『倍化』だということはよく知られている事実ですし、『倍化』特性の弱点も同じです。〈完全分身〉を使った時点でと判断しましたね?」


 ……もちろんそうだからといって易しい相手ではないけれど。今も勝率で言うと、ゼロに限りなく近い。


 挟み撃ちでしばらく優勢だったけど、ピエリの傷は浅い。私もそれは同じだけど、問題は〈二頭竜牙〉をまともに防げなかったロベルとジェリアがかなり重傷を負った状態だった。戦闘不能になるほどじゃなかったけれど、戦力減少を避けられないだろう。


 それでも私は微笑んだ。


「本当に本気で全力を尽くすつもりなら〈完全分身〉も解除したらどう?」


「下心が見え透いた挑発ですね」


 ち、やっぱりダメかしら。


 むしろ魔道具の方を守っている分身を解除して全力を発揮してくれれば、魔道具だけを壊して逃げるのができるのに。


 その上、『隠された島の主人』の信奉者たちが挙行している儀式もまだ阻止できていない。この戦いに時間を稼ぎすぎると、あっちも大惨事を起こしてしまうわよ。


〈雷鳴顕現〉の雷電をこっそり信奉者たちの方に放って彼らを気絶させようとしてみた。でもピエリがすぐ放った魔力斬撃が雷電を相殺してしまった。


「……あっちは貴方の敵じゃなかったのかしら?」


「それはそうなんですが、どうせあの儀式が終わると大きな被害を起こすのは同じです。どちらにしても、それさえ実現すれば」


「どうして急に王都にそんなテロ行為をするの? 今までちゃんと隠れてたくせに?」


「言ったはずですが。もうここではこれ以上することがないと。どうせ去ること、最後に大きくやってみるのもいいでしょう」


 本当にそれだけ?


 根拠はないけど、そんな単純な理由じゃないと確信した。でも問い詰めても教えてくれるはずもないし、自分で突き止められる手がかりも今はない。


 魔力の感覚で周辺一帯を改めて俯瞰した。全体の状況を把握し、今後のことを考えた。状況を打破するための方法を頭の中で演算するために。そして結論を下した。


 ある。たった一つ、今の目標を全部達成できる方法が。


 私が決めることと、ピエリがもう一度剣を振り上げるのはほぼ同時だった。


―――――


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