参戦

 ……来る。


『バルセイ』終盤の中ボスであり、一つのルートのラスボス。過去の大英雄であり、今の安息八賢人の『十面邪蛇』。ピエリ・ラダス。


 今の私は彼に勝てない。


 そもそも私の力はまだ安息八賢人には届かない。ボロスに勝ったのはただボロスを相手に戦闘スタイルが有利なおかげだ。でもピエリを相手にする時はそのような曖昧な幸運は期待できない。


 もちろん、彼はゆっくりと戦術を考える時間を与えるバカでもなかった。


「うっ……!」


 ピエリの刃が私の頬に浅くかすめた。


 まるで蛇のように曲がりくねった軌道。物理学的にとんでもないほど自由に変化する方向は予測不可能だった。それを何とか予測して対応するために『看破』の特性を限界まで高めて使ってはいるけれど、ピエリはそんな私をあざ笑うように続けて私の体に傷を作っていった。


「テリア!」


「お姉様!」


 他のみんなが私に加勢しようとしたけど、ピエリは私を見ながら同時に彼女たちを見た。


 ――『倍化』専用技〈完全分身〉


 ピエリの体が分裂した。


 つまらないごまかしや平凡な分身術などじゃない。それは文字通り本体のコピー。対象を増幅したり、あるいは対象のを倍率に合わせて増加させる『倍化』の真骨頂。


 もう一人のピエリはいきなり蛇形剣流の奥義である〈一頭竜牙〉を放った。


「みんな避けて!」


 無数の斬撃の束が巨大な竜の頭を描き出した。ジェリアを筆頭にみんながその斬撃を防ぐために魔力を高めた。けれど〈一頭竜牙〉はその努力をあざ笑うように、あまりにも簡単に防御を突破し彼女たちを傷つけた。それでも死なないほど力を削るのは成功したようだけど。


「人を気にする余裕があるようですね?」


 私を相手にしていた側のピエリが微笑んだ。私に浴びせる斬撃の勢いがさらに増した。ちっ。これじゃジェリアたちを助けることができないのに……!


 けれど分身のピエリは一撃だけ放っただけですぐ背を向けた。それでもジェリアたちは〈一頭竜牙〉で負った傷のために直ちに動くことができず、私もやっぱりこっちのピエリのせいでそっちに対処する余裕がなかった。


 そんなに自由に動いた分身は……クッソ。


「働け」


「クハハ、ありがとよ」


 鋭い斬撃が閃き、ボロスを縛っていたすべての拘束が破壊された。


「あちらの子たちを相手にしろ。私は計画通りにするから」


「いいぜ。ちょうどいいハンディもあるんだぜ」


 分身のピエリはさっと退き、魔道具を取り出した。膨大な量の邪毒を爆発させる魔道具だった。しっかり発動していれば邪毒災害が起きるほど。


 まさかあんな分かりやすいテロ道具が登場するとは思わなかったわよ……!


 私はピエリと戦いながら感覚を広げた。『隠された島の主人』の信奉者たちの様子を見るために。彼らはまだ祈りを続けていた。


 もともとはボロスを倒した後に彼らの儀式を止める予定だったけど。ピエリのせいで事がひどくこじれた。あれがピエリの魔道具と重なれば、それこそ大惨事になる。


 本当にバカな奴らね。安息領と敵対すると言いながらあんなことを……!


 一方、解放されたボロスは切られた腕を魔力で具現した。本物の腕を再生したわけじゃなく、『麻痺』の影響も完全には消えていないようだった。今はかなり弱まった状態だ。けれど、そのように弱まった状態でも依然として強い。


 この困った事態をどうすればいいんだろう? 私も『倍化』で〈完全分身〉を使うなら……いや。『倍化』を模写することはできるけど、〈完全分身〉のような高難度技を使うほどの熟練度はない。じゃあどうすれば……。


「相変わらず一人で悩むのが好きなんだな」


 その瞬間聞こえてきた声に、私はピエリの攻撃を止めることも忘れて慌てた。


 ――狂竜剣流〈竜の爪〉


 多重斬撃がピエリを襲った。その攻撃自体は簡単に防がれた。でもピエリが反撃しようとした瞬間私が剣を振り回した。ピエリはチッと舌打ちをしながら後ろに退いた。


 私は隣に立っているジェリアをちらりと見た。さっきのピエリの一撃のせいで傷だらけだったけど、魔力と表情は非常に熱く好戦的だった。


「手伝いに来たぞ」


「大丈夫?」


 多くのことが含蓄された問い。ジェリアはそれをどのように受け入れたのか、鼻で笑いながら答えた。


「言いたいことは多いが、全部終わった後に言うぞ。君に聞くべきことも多いと思うしな」


「……わかったわ」


 もちろんピエリはやり取りを待ってくれなかった。私たちは蛇のように曲がりくねった斬撃を一緒に防いだ。けれどピエリは平気で私たちを相手に優勢を占め、間もなくジェリアの剣が大きく弾き飛ばされ姿勢が崩れた。


 その瞬間、強い幻影が四方からピエリを襲った。


「!?」


 まるで全部が実体であるかのように強力な魔力の気配を抱いた幻影。ピエリはその中から本物を見つける代わりに、大きく後退した。


 私の傍にロベルが近づいてきた。


「指示された仕事はすべて終えました。ご加勢します」


「ロベル、貴方まで……」


「退けという指示は聞きません」


 ピエリは私たちを見て微笑んだ。


「三人ですか。生徒たちといっても、こんなに才能溢れる三人なら私にもちょっと手ごわいですね」


 嘘ついてるわね。顔から余裕が溢れてるくせに。


 私はピエリが余裕を持っている間に周りの様子をもう一度把握した。私の方に来たのはジェリアとロベルだけ。残りはみんなボロスに向かった。みんなさっきピエリの一撃で負傷した状態だったけれど、戦闘に問題はないようだ。


 いい判断だね。おそらくトリアが人員を配分したのかしら。


 一方、『隠された島の主人』の信奉者たちは依然として儀式を行っていた。今にもあいつらから制圧したいけど……ピエリが放っておけなさそうだね。信奉者たちは安息領を攻撃するためにあの儀式を行っているだろうけど、いざ副作用でピエリが望むテロになってしまうから。


 そしてピエリの分身は、設置しておいた魔道具の前に立っているだけ。おそらくそれを守るつもりのようだ。直ちに参戦する気配はない。


 いろいろと頭が痛くて悩むことが多い状況だけど……まずはできることから一つずつ解決するしかない。


 私は決心を固めるやいなやピエリに突進した。


―――――


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