合意

「ごめんね。私が悪いなのは十分知っているわよ。でも……わがままだと分かっていながらも、これだけはなんとかならないみたい」


「わがまま、ですか?」


「私が貴方たちに心配をかけていると言ってたよね? それは私も知っているわ。でも私の代わりに貴方が危険に陥れば、結局私が心配することになるの。それは貴方もよく知っているんじゃないの?」


 ロベルは渋い顔で頷いた。


 否定することはできないだろう。そもそも自分も同じ気持ちがあるから、私にそんなことを言ったはずだから。お互いがお互いを心配する関係、いいんだけど……戦いに身を置く立場になると、心配の連鎖が面倒極まりない関係に急変してしまう。


「私はそれが嫌いだったの。貴方たちが危険に陥るのが心配でたまらないわよ。でも私が直接乗り出すとしたら? 貴方たちのことを心配することもないし、私の立場は私のやり方次第じゃない? 体は苦労しても心は苦労しないわよ」


「僕たちは大丈夫です。お嬢様が心配する必要はありません」


「でも貴方やみんながすべてを解決することはできないじゃない?」


「それはお嬢様も同じです」


「でも私が貴方たちより強いわ」


 ロベルは口をつぐんだ。納得できないという考えが顔に丸見えになった。


 まぁそうだろうね。私が本当の意味で全力を尽くす姿を見たことがないから。ロベルだけではない。ジェリアも、トリアも、リディアも、他の誰も私の力の底は知らない。多分この世で私の力をちゃんと理解している存在は、私自身を除けば……イシリンだけだろう。


 でもロベルが信じてくれなくても、私にとっては厳然たる事実だ。


「この前の視察の時、貴方を含めて何人かが一緒にミッドレースアルファを相手にしたよね。ところで、そんなに飛びかかってもあいつをまともに相手できなかったじゃない?」


「お嬢様も怪我をされたんじゃないですか」


「私は住民たちの間に隠れていた安息領雑兵のせいで隙を見せただけだったわ。もともとミッドレースアルファは二匹だったの。そして私は二匹を同時に相手にしながら、一匹を一人で討伐したわよ。……こう言っても信じられないだろうけど、そもそも周りの被害を気にしていなかったら傷もなく二匹とも瞬殺できたわよ」


「……真偽はともかく。お嬢様が強いから、危険に一人で飛び込むのを傍観しろということですか? 護衛の存在意味を無視しないでください」


「そんな意味じゃない。そして、私一人で突進すると言ったこともないし。君たちが心配なのは事実だが、私の目と手の届くところにいれば問題はない」


「それなら一人で突っ込まないでください」


「違うわよ」


 私はニヤリと笑った。一見不遜に見えるかもしれない……いや、堂々と不遜さがにじみ出る笑いを。


 考えてみれば、私たちがお互いを心配すること自体がバカな状況だ。そもそも私一人だけ行動しなきゃならないのもないし、私だけが後ろに下がらないといけないわけでもない。ただ私たちが一緒にいるだけでも、そのような不安はほとんど解消される。


 それでも今までそうできなかったのは、何も話さずにただ一人で解決するともがいた私のせいだ。


 もちろん今さら退くつもりはない。それでも私はゲームの悲劇を防ぐために努力し、他人の引き止めを聞くこともないだろう。


 でも、攻略対象者の力が必要だと言いながら……いざ彼らを抱き込もうとしなかった私の行動は、バカみたいだという言葉でも足りない矛盾に過ぎない。


「貴方たちが私について来なさい」


「……はい?」


「私は相変わらず先頭に立って突進するわ。それだけは譲れないの。……そんな私を一人にしたくないなら、貴方たちが私について来なさい」


「道さえ知らせずに一人で突進しながらですか?」


「それは謝るわよ。私のせいだよ。これからは私が何をしようとしているのか、多くのことを教えてあげる。もちろん私の考えを全部言うことはできないけれど……少なくとも私が目の前の状況で何をするかくらいは話すわよ。だから、貴方たちは強くなりなさい。強くなって、遅れを取らずに私について来られるようにしてね」


 私は振り返らない。足を緩めることもない。ただ前を向いて歩き、欲しいものに手を伸ばすだけ。そんな私を本当に一人にしたくないなら、貴方たちが私の背中を追いかけてくるようにして。


 私が考えても傲慢で自己中心的な発想だった。しかし、ロベルはなぜか笑い出した。


「フフ……ハハハハッ!」


「何よ、何が面白いの?」


「面白くないです。嬉しいんですよ。……お嬢様の行動を、考えをきちんと理解することもできないまま、ただ追いかけていくだけでしたから。そのお嬢様が自ら話をしてくださるなんて、願ってやみませんでした」


「……そうなの?」


「はい、そういうことです。もちろん相変わらず不満はありますが……どうせ僕はお嬢様を止められません。いろんな意味で。それならむしろお嬢様の提案に従った方がいいです。ただ、一つはしっかりしたいのですが」


「何?」


「お嬢様の力です。お嬢様が僕より強いことは認めますが、具体的なレベルはわかりませんからね」


 私は思わず微笑んだ。その部分についてはちょうどいい機会があるわよ。


「そのことは大丈夫よ。今回の現場実習が終わったらすぐ分かると思うわ」


「終わったら、ですか? 実習の途中じゃなくて?」


「ええ。詳しいことはあの時のための楽しみとして残しておくわよ。それより休みに来たのにこんな話ばかりするなんて、本当にアレだけど。残りの時間は本当に気楽に休みたいわね」


「ご心配なく。その部分も十分に考慮していますので」


「あら、デートの準備万端なのね?」


 わざとからかおうとした言葉だったけれど、ロベルは「誤解を招くような表現はご遠慮ください」と言うだけだった。しかし、平静を装う顔にやや赤みが漂うのは逃さなかった。


 へぇ、こんな面がまだ残ってはいるわね。可愛いな。


「……何ですか?」


「何も?」


 これからもこういう面は変わらないでほしいわ、ロベル。


 私はそう思いながら一人で微笑んだ。


―――――


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