アルカの決意

「お姉様が嫌がっているのに無理やり意地を張って、勝手に大声を出して……私は本当に悪い妹だよ」


「また自虐ですか?」


「でも、お姉様はただの優しい人なんだもん。喧嘩になったのも私が……」


 そう、お姉様は悪くない。私が自分の考えを無理やり押し付けたのが悪いことだから。お姉様が私を捨てても責められないよ。


 そう思いながらだんだん深淵に沈んでいった。でもハンナはそんな私を見てフフッと笑った。


「まったく……やっぱりご姉妹ですよね、お二人様は」


「え……?」


「お兄ちゃんから聞きました。テリアお嬢様も同じ話をされたそうです」


「お姉様が?」


 私とお姉様はこうしているけれど、ハンナとロベルは依然として疎通しているようだった。確かに、ハンナも兄のロベルが大好きだし、ロベルも妹を極めて大事にしているから。お互いに話ぐらいはするだろう。


 それよりお姉様が私と同じ話をしたって?


「同じ話だなんて……何が同じなの?」


「言葉通りですよ、まぁ。テリアお嬢様も今こうなったのが全部自分のせいだって、アルカお嬢様は正しいとおっしゃったそうです。私たちが見るにはお二人とも同じですが」


「お姉様が……」


 ……お姉様がそう思ってくれたなんて。少し感動してしまった。


 確かに、考えてみればお姉様はずっと私のことを気にかけてくれているようだった。何度か話しかけたし。ただ私がずっと意地を張ってお姉様の言葉を無視しただけだった。


 考えれば考えるほどもっと私の過ちみたいじゃない!?


「うぅ、やっぱり私が間違って……」


「……本当にそうお思いになるのなら、早く謝罪なさって仲直りなさる方がいいのではないでしょうか?」


「え? なんで?」


「そりゃテリアお嬢様はしばらくアカデミーから出ていらっしゃるでしょうから」


「えっ!? なんで!?」


 お姉様がしばらく外出するなんて、初耳だよ!?


 でもハンナは驚く私がむしろおかしいだというように首をかしげた。


「忘れましたか? もうすぐ現場実習期間じゃないですか。テリアお嬢様はとっくに申し込んでおいたんですけれども」


「現場実習? ……あ!」


「お忘れになったんですね」


 現場実習。そういえばアカデミーの騎士科にはそのようなものがある。


 現場実習とは、騎士科の生徒が見習い騎士として実際に現場で騎士団に所属し現場の業務を体験することだ。いわばインターンというか。


 そしてその現場実習の条件は騎士科の四年生以上か、あるいは修練騎士団の執行部員として二年以上活動すること。お姉様は当然条件を満たした状態だ。ちなみにお姉様は去年も現場実習に参加していた。


 考えてみれば私にも参加資格はある。お姉様と同じ学年に編入したおかげで、今私は五年生だから。でも去年は用事ができて参加できなかった。


「ハンナ、今回の現場実習はいつからいつまで?」


「二日後から始まったはずです。期間は私もよく覚えていないのですが……多分一ヶ月くらいでしょう?」


「一ヶ月……それ事前に申し込まなきゃ行けないんだよね?」


「はい」


 申請期間はすでに過ぎてしまった。アカデミー側に頼めば今からでも許可してくれるはずだけど、そんな甘えで迷惑をかけることはできない。


 一体お姉様が今度はまた何をするか不安だ。しかし、現場実習は騎士団に臨時に所属して任務を遂行すること。一人で無理しようとしても現役の騎士さんが制止してくれるだろう。今すぐ心配するようなことは多分起こらないはず。


 それなら、私のすべきことは。


「……ハンナ。今お姉様はどこにいるか知ってる?」




 ***




「お姉様」


 それを聞いた瞬間、私は自分の耳を疑った。


「アルカ?」


 頑固に私との話を拒否していたアルカが、私に先に話しかけてきたのだ。


 ……もちろん声そのものは断固としていたけれども。


「どうしたの?」


 油断すると顔がヘラヘラしそうで必死に平静を装った。でもそんな私の顔を見たアルカは、なぜか唾をごくりと飲み込んだ。


 その反応すごく傷つきますわよ!?


【無駄にまじめなふりをしたからじゃない。むしろニヤニヤして抱きしめてくれれば、すぐに気持ちがほぐれるはずよ】


[いや、それは突拍子もないじゃない?]


 イシリンのツッコミはさておいて。


 表情を見ると、仲直りしようと言うに来たわけではないようだ。だからといって、また怒っているようでもなかった。何か決心したような表情……私にとっては一番警戒すべき表情だった。


「お姉様、もうすぐ現場実習に行きますよね?」


「そうよ。連れて行ってほしいとの頼みなら聞いてくれないわ。そもそもそれは私が決めるのじゃないし、申請期間もすでに過ぎているから」


「それは私も知っています。そんな甘えを言うために来たわけでもありません」


「じゃあ?」


 アルカは手に魔力を集めた。その手から光が流れ、瞬く間に剣の形を作り出した。平凡な〈魔装作成〉……だけど、魔力量も精巧さもかなり優れている。私がアルカの年齢だった頃と比べると……八割ぐらいだろう。


 それは誇らしいけど、なぜ今急に見せてくれるのか分からない。


「お姉様が私の入部を塞ぐのは結局私のことを心配しているからじゃないですか?」


「……そうよ。貴方としては不愉快だろうけど……」


「いいえ、わかります。そもそもお姉様と比べれば私はたくさん足りませんからね。だから……」


 アルカは突然剣に魔力を注ぎ込んだ。剣が噴き出していた魔力光が急激に強くなり、それに比例して構成がますます不安定になった。それを収拾し、また安定化させるアルカの技量はかなりレベルが高かった。


 でも……。


「……今はここまでですね」


 魔力量がアルカの制御力の限界を超えた瞬間、魔力剣がそのまま崩壊して消えた。崩壊する直前まで集中した魔力量は私が作る魔力剣と同じレベルだった。振り回したらすぐ壊れるほど不安定だったけれども。


 でも、これを急に見せる理由がわからないんだけど……。


「私が心配だということは、結局私が信頼できないほど弱いということでしょう」


「ち、違うわ! それは……」


「とにかくお姉様に比べるととんでもなく弱いのは事実じゃないですか? だからお姉様が現場実習に行かれた間、私も変わります。もっと強くなって、お姉様が私を信じられるようになります。だから」


 アルカは拳を胸に当てた。彼女の目は強い光を抱いて私を見た。


「その時もう一度、私がどんな者なのか見てお決めください。入部を許してくれるのかを」


―――――


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