鏡像のような姉妹

「……はぁ」


 思い出したらまたため息が出た。


 そもそもこうなったのは私のせいだ。私のことを心配してくれただけのアルカを勝手に罵倒して、大声まで出したから。それにあの時の感情は自分でもまだ理解できなかった。そのような感情のためにアルカと喧嘩をしたという事実に自責を覚える。


【だから前から言ってたじゃない。無理はもうやめろって】


 イシリンの言葉に私は眉をひそめた。


[なんであの時止めなかったの?]


【どうせいつかは起こることだったから。いっそこの機会に貴方も大きく感じる方がいいと思ったわよ】


[それで満足したの? 一人で勝手に怒って無理をして……こんなに情けない姉がこの世にどこにいるのかしら]


【……あのね】


 イシリンの声に不快な気配がこもられた。それに眉をひそめて私を見ているような気もした。イシリンの顔なんて見たことないけど。


【もちろん貴方がよくやったわけじゃないわ。でも先に叫びながら感情をぶつけてきたのはアルカじゃない。それを貴方一人だけの過ちだと悲観しながら自虐しないで】


[アルカは私のことを心配してくれただけよ。怒ったのも私が情けないからだし]


【……アルカや他の子たちが貴方に持っている不満の根源がそれだわ。本当に、自分自身に疎かなのは昔から変わらないわね】


 ……自覚はある。でもこんなに直接指摘されても、直す気にはならないの。そうする必要もないし。それを知っているから、イシリンも積極的に追い詰めないんだけど。


「……はぁ」


 またため息。一体何回目なのか私もわからない。隣にいたロベルの表情も暗かった。


 一方、アルカはどうかというと。


「……」


 アルカの方をちらっと見た。ちょうど私の方を見ていたアルカと目が合った。アルカは鼻を鳴らし、顔を背けた。でも私は視線をそらすことなく彼女を見つめ続けた。するとアルカがまた私をちらりと見るのが見えた。


「「……」」


「……お二人、今すごくおかしいの知ってますか?」


 ロベルの指摘に私たちは同時に顔を背けた。


 はぁ……憂鬱だ。アルカもいざ私を憎むようになったような感じじゃないんだけどね。でも私をちらりちらりと見るくせに声は絶対にかけない。私が声をかけても返事もない。


【貴方が許してくれる前には話さないと言ったから、貴方が許してくれるのを待っているはずよ】


[そのくらいは私も知ってるわよ]


【知ってるくせにどうして引きずってるの? そんなに意地を張る理由があるの? せいぜいアルカが危険にならないことを願うということだけじゃない?】


 イシリンの言う通りだ。別にそれ以外の理由などはない。その程度は当然自覚している。


【頭がわかっても意味がないわ。実践しないから。そして貴方、それ外から見たらどれだけイライラするか知ってるの? アルカだけじゃない。ジェリアやロベルも、しかも貴方をよく知らないケインさえも指摘したじゃない。貴方は大切な人が傷つくのを嫌がるけれど、その大切な人たちが貴方に同じ心を抱くということを受け入れなさい】


[……もっともな指摘だけど、感情が許さないのは仕方ないじゃない。そして私はどうして私のことをそこまで考えてくれるのかも理解できないの]


【貴方が悲劇をもたらす人だから?】


 私は答えなかった。いや、答えられなかった。その言葉が的を射たということと……あまりにもバカみたいでとんでもない戯言だということを、もう理解していたから。


 おそらくイシリンも私と同じ考えをしたのだろう。どうせ頭の中で思念で会話するくせに、あえてため息を私に聞かせてくれていた。


【昔から感じていたけど、貴方そんな点はとてももどかしいわ。貴方が悪いことをしたのは結局ゲームというものの中でだったじゃない? 今まで貴方はそれを繰り返さないために努力してきたし。むしろもっと胸を張ってもいいと思うわよ】


[そうね。むしろ誰かがお祝いしてくれても足りない業績じゃない?]


【言葉だけじゃなくて、もう貴方自身を肯定してあげたらどう?】


[……感情的にできないのは仕方ないじゃない。そして私が自害をするわけでもないし、人のために努力するのが悪いの?]


【それは悪くないわ。でもそのために自分を疎かにしすぎるなら、それは悪いことよ】


 本当に、たまにはこいつが本当に邪毒神だったのかと思う。この世界で過ごした時間だけでも五百年なので、実際に知恵が貯まるほどの歳月ではあったと思うけど。


 とにかく自虐ばかりしていても意味はない。特に今はなおさら。そろそろ騎士科の生徒として重要な時期だから。


 ……おそらくアルカとの冷戦状態もそれをきっかけに変わるのだろう。アルカが勝手に突撃してくる形でね。




 ***




 お姉様との会話が途切れたまま、いつの間にか三週間が過ぎた。


 毎朝「アルカ、起きた?」と私の名前を呼んでくれたのも、朝食を二度食べると叱られたのももう聞いていない。そもそも寮の部屋が同じ部屋なので、より一層対話断絶が大きく感じてしまう。


「うぅぅ……」


「そんなに大変でしたら、そのまま仲直りしたらどうですか?」


 赤いボブカットの少女、私の専属メイドのハンナがそう言った。うんざりしているという表情とため息もすでに慣れている。だってこの子、三週間毎日あれを言ったのだから。


 もちろん、今から私が言う答えも同じだ。


「そんなことはできないよ」


「そんなに落ち込んでいますのに?」


「うぅぅ……だって……」


 私も頭はかなり複雑だ。お姉様と仲直りしたい気持ちは当然ある。でも今回のことだけは絶対に私が先に退くことはできない。


 ……でも、このまま永遠にお姉様と断絶しちゃうのは嫌だ。そんな心配がある。それでも今まではそれだけは口にしていなかったけれど……今度だけは到底我慢できない。


 結局私は口を動かしてしまった。


―――――


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