ミッドレースアルファ達
最初の一手は魔力をまとった拳。
「ギャアッ!」
右手の浄化神剣レプリカで受け流した。そのまま切るつもりだったけれど、やっぱり奴が拳にまとった魔力は濃密で硬かった。
でもその間、私は左手の栄光の剣に魔力を集中した。
――天空流〈一つの星〉
〈ホシアメ〉を使う魔力が一つに凝縮され、栄光の剣に宿った。剣が紫光技の紫色に染まった。本来は弾幕形殲滅技である〈ホシアメ〉を強力な一撃に変える技だけど、こういう応用も可能なのよ。
その剣で奴の胴体を斬ろうとしたけど、その直前もう一匹の奴が横から飛びかかった。一歩退いて回避、そして振り向いて浄化神剣レプリカを振り回した。しかし奴らは剣に触れたくないかのように身を引いた。
こいつら、浄化神剣の力が何なのか気づいてた?
私が判断するその短い瞬間にも奴らは姿勢を変え、戦術を変えた。
一匹が前に、もう一匹は後ろに。前に出た奴は突然筋肉が膨らみ、後ろに下がった奴は魔弾の砲門を無数に展開した。
私はそれを……正確には前の奴を見て少し驚いた。
【砲門を展開する奴の特性は『崩壊』だね。前の奴は……何かしら?】
[『倍化』なのよ。どんなものでも対象に指定したものを何倍も膨らませちゃう特性よ。あの珍しいものをよくキメラに入れたね]
魔力で見たとき、『倍化』の奴の倍率はおそらく二倍。形を見て身体能力とかその辺のものを二倍にしたみたいだね。
『倍化』はかなり強力な特性だけど、私はむしろ微笑んだ。どうせ相手にする練習が必要な特性でもあるから、むしろよかった。
……そう思った時にはもう、私は『倍化』の奴の目の前にいた。
「クルァッ!?」
私の速度に戸惑った奴らが一歩遅れて迎撃しようとした。
でも、もう遅いわよ。
――天空流〈流星撃ち〉
天まで伸びていく魔力の突きが『倍化』の奴の右腕を完全に粉砕した。それでも足りず、突きの衝撃波が複数の建物の屋根を吹き飛ばした。
「ギャアアッ!?」
悲鳴が上がる。でも血は流れなかった。正確に言えば血自体はあったけれど、傷に残留した浄化神剣レプリカの力が血を消滅させていた。
これが浄化神剣の力――邪毒に染まったすべてを破壊する能力。
本来、浄化能力はいくら強くても邪毒だけを消すだけで、邪毒の影響に変質したことには影響を及ぼさない。けれども、浄化神剣はそのような限界を超え、邪毒の影響を受けたすべてのものを粉砕し浄化する能力を持っている。
このレプリカはオリジナルに比べると出力が非常に低い。それでもその能力の特質はそのままだ。邪毒に汚染されて変質した生命体である魔物には存在自体が特攻だ。
当然、そんな魔物のキメラであるミッドレースアルファにもそれは同じだ。
「キャアアァッ!!」
そのまま追撃して奴を殺そうとしたけれど、その前に『崩壊』の奴が私に飛びかかった。でも浄化神剣レプリカに直接触れるのは警戒するかのように、拳の代わりに渦巻く魔力砲を至近距離から発射した。
「ちっ!」
追撃しようと集めた魔力で斬撃を放ち、魔力砲を相殺した。けれどその短い瞬間、『倍化』の奴は浄化神剣の力が残留した肌を直接切り取って腕を再生させた。かなりの再生速度だった。
「グオオオーー!」
物理的にも、魔力的にも巨大な拳が私に飛んできた。その攻撃自体は栄光の剣で受け流した。でも浄化神剣で反撃しようとした瞬間、横からまた飛んできた『崩壊』の魔力砲が私を牽制した。その魔力砲を相殺するやいなや『倍化』で増幅された魔弾が相次いで飛んできた。
けれど。
「私を見下しすぎるんじゃないの?」
雨のように降り注ぐ魔弾の弾幕を素早く抜け出した。そうしながら栄光の剣でいくつかの魔弾を『崩壊』の奴の方に弾き飛ばして牽制した。そして『倍化』の奴の近くに到達した瞬間、浄化神剣を振り回した。
――天空流〈三日月描き〉
巨大な魔力の斬撃が襲う瞬間、『倍化』の奴は左手で斬撃を握った。そして左腕を犠牲にして斬撃の軌道を横に逸らした。残った右手が巨大な魔弾を私に撃ち、同時に『崩壊』の奴が小さな魔弾の弾幕を放った。
「っ!?」
巨大な魔弾を斬撃で相殺したけれど、弾幕は間を突き抜けて突進するには細かすぎた。結局魔力盾で防ぎ、後退せざるを得なかった。その間、『倍化』の奴はまた浄化神剣に侵食された肌を切り取って腕を再生させた。
【こいつら、魔物にしては知能と連携がいいわね】
[ミッドレースアルファ完成体は力だけでなく知能も高いわよ。やっぱり二匹もいるからなかなかだね]
イシリンと心の中で話を交わすその短い間にも、あらゆる魔弾が絶えず私に降り注いだ。
――天空流〈流星雨〉
物量には物量で。超高速で展開された連続突きが魔弾の雨を相殺し、さらにミッドレースアルファ完成体を襲った。奴らは濃密な魔力を身にまとって防御した。でもおかげで魔弾の弾幕が止まった。その隙を逃す私ではない。
――天空流〈彗星描き〉
『崩壊』の奴に急速に接近。そして『万壊電』の魔力で〈三日月描き〉を放った。奴は『崩壊』の魔力盾を展開したけど、私の斬撃はその盾を切断し、そのまま奴の胴体まで斬った。物質を崩壊させる雷の魔力が奴を襲った。
「グルァア……!」
「ギャアアッ!」
『倍化』の奴が仲間を助けようとした。でもそれはすでに予想していたところだ。
――天空流〈フレア〉
浄化神剣の真っ白な超高速剣閃が『倍化』の奴の首筋を斬った。奴は反射的に避けようとしたけれど、逃げ切れず首を深く斬られた。
その時、『崩壊』の奴がまた魔弾の弾幕を展開した。でも細かく砕けた斬撃を撒く〈太陽風〉でその全てを無力化した。そして地を一度強く踏みつけながら姿勢を取り、体内の魔力を荒々しく爆発させた。
――テリア式天空流〈月光蔓延二色天地〉
浄化神剣の真っ白な閃光と紫光技の紫色の閃光。二つの色が同時に存在する無数の剣閃の乱舞が二匹のキメラを同時に襲った。
「ギャアッ……!」
速度を重視した乱舞が奴らをめった斬りした。一撃の攻撃力はそれほど高くないし、それぞれの傷はかき傷のレベルだろう。でもそれが全身を覆い、おまけに浄化神剣と『万壊電』の崩壊作用まで重なると動きが鈍くなる。
そして私の前でその隙間は致命的だ。
『倍化』の奴が首と全身の傷のせいで動けないうちに、私は『崩壊』の奴に飛びかかった。奴がまたもや魔弾の弾幕を作り出した。
「同じことが何度も通じると思わないで!!」
――天空流〈半月描き〉
その弾幕を全部吸収した。
吸収された魔力は剣を延長する巨大な魔力の刃となった。その刃の斬撃が『崩壊』の奴の左腕を切り落とした。そして『万壊電』の力が込められた〈三日月描き〉が右腕まで切った。あっという間に両腕を失った奴は口から巨大な魔弾を発射した。
「ハアアアアアッ!」
――天空流〈紅炎〉
斬撃爆風で魔弾を弾き飛ばした。そしてちらっと、『倍化』の奴の状態をチェック。まだまともに動けずにいる。それを確認した瞬間、浄化神剣に魔力を集中した。そして『崩壊』の奴を下から斬り上げる形で〈三日月描き〉を放った。
「ギャ……ア……ア」
股間から頭頂部まで、一撃。
奴が最後の足搔きで発射した魔弾を避け、そのまま奴を縦に両断した。そして〈月光蔓延二色天地〉の斬撃を全て奴に集中し、その体を完全にすりおろした。
これで一匹……。
【危ないわ!!】
イシリンが警告するのとほぼ同時に、私自身も魔力を感じてすぐ後ろを向いて浄化神剣を振り回した。剣の浄化力さえ突き抜けて入ってきた衝撃が腕をしびれらせた。
「くっ!?」
「グルァアアア!」
『倍化』の奴が麻痺を乗り越えて突進してきたのだ。
いや、それだけではなかった。奴の拳に尋常でない魔力が渦巻いた。その魔力の特性は……。
「『崩壊』!?」
『崩壊』の奴が最後に撃った魔弾。最後の足搔きとしか思わなかったけれど、どうやらそうではなかったようだ。その上、『倍化』の力で『崩壊』自体が増幅されていた。
「ギャアアッ!」
「なめないで!」
――天空流〈流星撃ち〉
奴の拳に立ち向かって『万壊電』の魔力をたっぷり込めた突きでその拳を粉砕した。そしてまだしびれが完全に消えてはいない右手に力と魔力を込めて、浄化神剣の斬撃で奴を終わらせようとした。
……だけど、その直前。
怪しい魔力を察知した私は視線をそっちに向けた。そして見た。
私が人質たちにかけた〈ひとりぼっちの聖域〉の一部が壊れたことと、保護されていた人質の一人が他の人質の首にナイフを刺そうとしていることを。
「……!?」
人質の間に安息領雑兵が隠れていた、〈ひとりぼっちの聖域〉が内側から破壊された、奴が人質を傷つけようとしている――頭の中をさまよう数多くの考えを踏み壊すように、荒々しく土を踏みつけた。
そして私は一筋の閃光になった。
「がぁ……!?」
人質に偽装していた雑兵が飛ばされた。高速で接近した私が拳で奴を殴り飛ばしたのだ。奴はめちゃくちゃ転がったあげくそのまま倒れた。
他の雑兵は……わからない。もっと隠れているかもしれないから、悪いけど人々を隔離しなきゃならない。
「申し訳ありません、みんなさん……ガハッ」
……しまった。
口からあふれる血を感じても、私の感想はそれだけだった。
「お、お嬢さん、傷が……!」
「……大丈夫ですの」
〈ひとりぼっちの聖域〉をより一層強化し、結界を魔力の鎖でぐるぐる巻いた。〈ひとりぼっちの聖域〉を壊せる雑兵が別にあったとしても、これなら大丈夫だろう。
……そして私の体を見下ろした。
腹部が半分以上引き裂かれていた。こちらに急いで突進した瞬間、ミッドレースアルファの攻撃を受けた跡だった。内臓はめちゃくちゃになり、脊椎まで一部やられた。服も攻撃された部分が剥がれ、その周りは血まみれになってめちゃくちゃだった。
欠損した部分は魔力で埋め尽くし、痛覚は魔力で鈍化させた。立っているのは問題ない。けれども……この状態では、やっぱり戦いに支障がある。
そのように自分の状態を診断しながら、私は残りのミッドレースアルファ完成体の方を振り返った。
―――――
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