始祖武装

 ドロイから情報を得た私は、すぐにジェリア&トリア班と合流した。


「そちらはどう?」


「何人かいびって分かったことはあるが、今すぐ決闘と関係があることはなかったぞ」


 私の方と同じね。ドロイの情報もそうだった。どんな経路で魔道具を持ち込んだとか、誰かが提案したとかなどは分かったけれど、直ちに決闘に使っているものがもっとあるという情報はなかった。


「僕が事前に調べた通りですね。他のものはもうないと思ってもいいですか?」


 ロベルの言う通り、当初彼を通じて分かったのは魔力転送の魔道具を二つ持ち込んで作戦をしているという情報だけだった。もしロベルが逃したことがあるかもと思って連中を攻撃して情報を得たのだけど、それ以上の情報はなかった。決闘のことじゃなく政治的に利用できる情報はあったけれど。


 しかし、私としてはもう一つ探さなきゃならないのに……どうする?


「お嬢様? 何か必要なものはありますか?」


「お嬢様、また何か隠している顔ですね」


「テリア、知っていることでも心配することでもあればとりあえず話しろ」


 あれ。急に三人で私を挟撃してる。


 この一年でぐっと私を注意深く見ることが多くなったロベルとトリアもそうだし、執行部としていろいろな活動を共にしたジェリアもそうだし、私が何かを隠していると疑う傾向がある。私がそんなに信じられない人なの?


【信じられないようなことをたくさんしたでしょ。しきりに一人で何かを分かってきて、一人で突進して、一人で怪我をして。この子たちも心配いっぱいはずよ?】


[いや、そこまでじゃない……はずよ?]


【貴方は自分自身を客観的に見る目が致命的に足りないからね。私でもこう指摘してあげないと。それよりどうするの?】


 まぁ、一応言い訳くらいはあるけどね。


「お嬢様?」


「えっ!? ああ、ごめんね。実は見当がつくことが一つあるの」


 三人で〝また? この世の全てのことを察するんじゃない?〟というような表情で私を見た。だからなんで私にそうするのよ本当に。


「アルケンノヴァには外部から魔道具を強化してくれる魔道具があるの。今回持ち込んだという情報はなかったけれど、アルケンノヴァが戦場に出る時はほとんど基本的に持参する道具よ」


「ああ、つまり僕が監視したのはあくまで今回持ち込む魔道具だけなので、すでに持ち込んで持っていたら僕の目を避けたはずだ、ということですか?」


「そうよ」


 もちろん今回も間違いなくゲームの内容だけど。


 ゲームでディオスはその道具を決闘の時に使おうとした。ただリディアが萎縮した状態だったので、あえて使う必要もなかっただけ。今はゲームと違ってリディアが戦意いっぱいだから、ゲームと違って実際に使用する可能性が高い。


 ……いや、可能性も何も、あからさまに使っているもの。さっきリディアの剣を壊した時もしばらく片鱗が見え、今は決心して武器を強化し続けている。


 そんなくせに私に悪口も言ってたわね。本人は聞こえないように呟いたと思うだろうけど、ほとんどの身体能力がチートである私の体を見下さないで。


 この子たちを別に連れて出てよかった。特にロベルとトリアは決闘も何もよそにして攻め込んでディオスの口を裂いてしまったかもしれない。


 そう考えていたら、本体で見守っていた決闘場の方に変化が起きた。


 


 ***


 


 決闘場の中には、まるで爆発寸前の火山の噴火口のような熱気がいっぱいになった。特に熱気の中心地は熱すぎて溶け始めた。


 その中心地はリディアだった。


「あ、危ないです! リディアお姉さんが……!」


「お嬢様! 逃げてください!」


 アルカとネスティはびっくりした。知らずに見れば確かに危険そうに見えるだろう。ディオスが何かをしたと思ったのかもしれない。実際にはそのディオスも慌てて大きく後退したけれど。


「大丈夫よ」


 私がそう言うと、二人が私を振り返った。


「お姉様?」


「どういう意味ですか?」


「あれはリディアの特性よ」


 二人はびっくりしてリディアの方を振り返った。アルカはもちろんだし、ネスティでさえリディアの特性は知らなかったから仕方ないだろう。ゲームでもリディアの特性を知っている他人は誰もいなかった。


〝長い間押さえつけられてきた太陽が歓喜して降臨した〟


 ゲームでリディアが特性を開放した瞬間を描写する文。その文のように、リディアの熱気は太陽のようだった。


 しかし……この魔力の震えを歓喜と言えるのかしら。


 リディアはゆっくりと立ち上がった。溶けるだけでなく沸き上がっている床に半分ほどはまっていたけれど、彼女の体には何の異常もなかった。


「……よくも」


 低い声が流れ出た。私でさえ集中しなければ聞こえないほど小さかった。


「よくもその汚い口で……テリアさんを侮辱するなんて……」


 体についた溶岩をポタポタ流しながら話す姿は一見ぞっとした。火山に住む怪生物のようなものがあるとしたら、あのような感じかもしれない。


 ディオスも同じ印象を受けたのか、それともただリディアが反抗するのが不快なのか、眉をひそめて怒声を上げた。


「何をしたのか分からないが……生意気にふるまうな!」


 ――鋼鉄槍道〈遊歩道〉


 ……あ、失敗したわね、あいつ。今はいっそ〈高速道路〉くらいは使ったらよかったのに。


 ディオスが遠くから飛ばした魔力の突きを、リディアは避けなかった。ただそれが目前に迫った瞬間、素手で正面から殴り飛ばした。パンッという音と共に突きが弾き出され、リディアの腕は皮膚が少し剥けた程度で済んだ。


「なっ……!? バカな、ダウセニスの力を込めた突きだぞ!?」


「黙れ」


 リディアは溶岩の淀みから出てきて、魔力を爆発させた。体についた溶岩が全部飛ばされた。しかし、溢れていた熱気はいつの間にか消えつつあり、床もそれ以上溶けなかった。むしろさっき溶けた床も熱気を奪われ、再び固まり始めた。


「ふ……ふん、何なのかは分からないがもう尽きたみたいだぜぇ?」


 ディオスは知らないだろう。これは〝尽きた〟なんかじゃないということを。


 そもそも熱気はただ移動・・しただけで、消えなかった。その事実が何を意味するのか分からないから、あんなに見栄を張ることもできるのだろう。


 ところでリディアは何をするの?


 何かリディアの気配が変だった。あの状態になったらすぐ爆発して猛攻を浴びせると思ったら、ただ右手に魔力を集中したまま歩いていた。右手というか、正確には人差し指に……。


 ……。


 ………え? 指?


 その瞬間、私は状況を理解した。


「もう終わらせ……」


「黙れって言ったでしょ。の言うこと聞こえないの?」


「くっ?!」


 ディオスが突進しようとした瞬間、突然リディアから魔力場が爆発した。波のような圧力にディオスは決闘場の端まで押し出された。


 リディアは最初に降ろしたスーツケースの前に立った。決闘が進み魔力が暴れている間も、それは依然として最初の席をそのまま守っていた。


 しかし、リディアはそれを取り上げなかった。代わりに唯一残った武器である弓を取り出し、魔力矢を作って装填した。


 でも彼女が照準したのはディオスではなかった。やや外れた程度ではなく、正面にいるディオスとは何の関係もない自分の左後方だった。当然、ディオスはそれをあざ笑った。


「は、もう諦めたのかよ? どこを狙う……」


 ディオスは話を終えることができなかった。


 彼の視線はリディアの右手の人差し指に固定していた。さっきまでは何もなかった指。しかし、今は小さな指輪がはめられていた。銀色の地に蔓が精巧に彫刻され、一定間隔で色の異なる小さな宝石が七つある指輪だった。


 それを認識した瞬間、ディオスの顔が大きく歪んで槍を持ち上げた。


「お前、貴様がよくも……!」


 しかし彼が槍を振り回すより、リディアが弓弦から手を引いた方が早かった。


 まるでジェット機のソニックブームをさらに増幅させたような轟音と衝撃波が決闘場全体を襲った。特に矢が頭上を通り過ぎた所は、教師たちが慌てて多重防御膜を展開した。直撃もしなかったのに防御膜が壊れて飛び散り、恐ろしい矢を発射した弓はすでに魔力の反動で粉になってしまった。


 一方、矢は決闘場の外のどこかに着弾し、雷が鳴るような音が響いた。その直後、ディオスの槍から感じられた魔力が急激に弱くなった。


「!? 二、これは……!」


「強化魔道具を狙撃しました。もうダウセニスの力を増幅することはできないでしょう」


「貴様……!」


 ディオスは目に血走らせてリディアの指を指差した。


「貴様が、貴様がどうやってそれを覚醒させたんだ! あり得ない! 何か卑怯なことをしたんだな!?」


「卑怯? それは兄様の特技でしょう」


 リディアは平然と答えた。しかしまぁ、今だけは私もディオスの心情が少しは理解できる。


 四大公爵家とバルメリア王家の先祖である五人の勇者。数多くの伝説を残した彼らが、単なる説話や誇張ではなく本当の伝説的な過去として認められる最も強力な証拠。それが始祖武装だ。


 その正体は五人の勇者が使用した伝説的な武器の再現。五人の勇者の血を引き継ぐ者が非常にまれに覚醒する。現存するどの魔道具よりも強力な最高の武装だ。


 しかし、その始祖武装を覚醒させる人は家柄ごとに一世代に一人出るかもギリギリなほど珍しい。そのため、始祖武装の覚醒者は当代で最も始祖に近い者と認められ、それだけでも爵位継承権の最上位に位置するほど重要だ。


 


 すなわち――この場でリディアが『武神の指輪』に覚醒したのを見せた時点で、ディオスのすべての計画は崩れたのだ。


 


 ……ゲームでもリディアはトラウマを振り払いて覚醒するやいなや『武神の指輪』に覚醒した。


 しかし、ゲームでは年齢が今より高かった。まさか十三歳の今の時期に覚醒するとは私も思っていなかった。これが才能ということ?


 ゲームの記憶がある私でさえこうだから、観客は当然私以上に驚愕していた。


 ところがリディアの状態が少しおかしかった。


「リディアさん?」


「お嬢様、何を……」


 リディアは大声で叫ぶディオスの前で左手を右手に当てた。まるで『武神の指輪』を左手でつかむようだった。


「〝熟練者マスター〟アルケンノヴァの名にかけて……力で兄様に勝ちます」


 その直後、彼女は武神の指輪を抜いてさっと投げ捨ててしまった。


―――――


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