決闘 下:『私』

 観客がザワザワしていた音が一気に消え、不便なほどうるさい静寂が訪れた。


 観客も、そしてうるさく叫んでいた兄様も。みんなが言葉の代わりにたくさんのことを込めた目で私を……リディアという異端を見た。以前だったら、こんな注目は不便で耐えられなかっただろう。


 でも今は……私の行動の意味を探索するようなこの視線が、気分が良くてたまらない。


「お前、何を……」


「あまり役に立たないパフォーマンスですけどね。どうせ始祖武装は魔力で具現された虚像に過ぎないから」


 とはいえ、始祖武装をゴミのように投げ捨てた私の行動は、いろいろと受け入れがたいものだろう。兄様なら喉から手が出るほど欲しかったのだから。


 始祖武装は始祖の武具が形象化されたもの。始祖に近い者という証拠であり、始祖の力と栄光を受け継いだ後継者であることを象徴する。


 実際、始祖武装は家柄ごとに二つずつ存在するけれど、一生一つを覚醒することさえ珍しいことだ。兄様が私を乗り越えるためには、我が家の始祖武装を二つ全部覚醒する方法しかない。しかし、兄様はそんなに荒唐無稽・・・・なことに希望を抱くほどのバカではない。


 そんな大事な物を弊履を棄つるが如しに捨ててしまうなんて、パフォーマンスといっても前例がないことは私もよく知っている。それでもアルケンノヴァとして誓いの言葉で〝勝つ〟と言ったということは、つまり自分の力だけで倒すという宣言と同じだ。


 そしてそのパフォーマンスの意味を、兄様は正確に見抜いた。


「お前……貴様が……始祖武装を捨てても俺に勝てるというのか!!!」


 ――鋼鉄槍道〈高速道路〉


 私は足元にあったスーツケースを蹴り上げた。それを盾に兄様の超速突きを流した。軌道が逸れた突きが決闘場の結界にぶつかり、結界を揺るがした。


 元気いっぱいの兄様に、今の私の気持ちをいっぱい込めてあざ笑った。


「違う意味で聞こえましたの?」


「この……!!」


「当たり前じゃないですか? 兄様はより弱いですからね」


 常に強者であることを主張してきた兄様が増幅用の魔道具まで使いながら私に勝とうとしたのがとてもおかしい。バカな兄様も私の意思に気づいたかのように歯ぎしりをした。


 しかし、兄様は怒りよりも驚きが先立ったように質問を投げかけた。


「お前……〝私〟だと?


「うむ? ああ、そう言っていましたね」


 スーツケースを握り直しながら苦笑いした。


 私は今まで自分自身が嫌いだった。理由や真実はともかく、自分自身があまりにも弱く、むちゃくちゃで役に立たないと思ったから。いつも私を〝私〟じゃなく〝リディア〟って称したのも、そのむちゃくちゃな人が私だということを認めたくなかったからだ。


 ……ごめんね、私。こんなにバカな私だから。


 でも、あのバカとは今日からお別れだよ。


「弱者を苦しめるのはあまり趣味ではありませんが、兄様が劣等感を爆発させ続けるのも面倒ですからね。この機会にしっかり踏みにじってあげます」


「くくくっ、大きく出るんだな!」


 そんなに見栄を張っても丸見えなのに。


「いいですわよ、ぶつぶつ話すのも面倒だから。否定したければ私の実力で勝つという誓いの言葉でも言ってみたらどうですの?」


「ふざけ……」


「ふん、やっぱり。……まぁ、最初からただくれと言われたら継承放棄の契約書でも書いてあげたのに。しかし……」


 スーツケースに魔力を吹き込み、兄様を睨みつけた。


 正直爵位なんて私の知ったことじゃないけど……せめて、あのクズがそれを受け継ぐ姿だけは見ない!!


「人を勝手に傷つける人が公爵位を占めるなんて、もう許せないんですよ!!」


 ――リディア式多重可変兵器『アーマリーキット』、開放


 命令を出した瞬間、スーツケースが粉々に砕けた。


 どうせならこれを見て油断してほしいんだけど……怒りのためか、それとも隙を与えないためか、兄様は槍を握りしめて突進してきた。


 それに対抗して、私はさっき一つに集めた熱から生じた赤い宝石をつかんだ。そしてテリアがくれた空間ポケットに手を入れ、中の赤い宝石を一握り取り出した。それらを兄様に向けて撒くと、赤いきらめきが空中を埋め尽くした。


 兄様はそれを確認して笑い出した。


「ははは! 賄賂か!? こんなこと……」


「爆発しろ!!」


 その瞬間、ルビーが一斉に爆発した。


 ドッカン、ドッカーン!! と轟音が連続で鳴り響き、これまでとは格の違う爆炎と衝撃波が出た。


 その間、私はアーマリーキットの欠片を操縦した。彫刻が両手に分かれて集まり、瞬く間にある形をとった。足りない部分は魔力で具現された臨時パーツで補充して魔道具になった。


 ――『アーマリーキット』具現兵器・全天候連射小銃『オオカミの群れ』


 二本の小銃を前方に向けた瞬間、爆煙から兄様が飛び出してきた。


「生意気!」


 ――鋼鉄槍道〈開拓の歩み〉


 まるで兄様自身が巨大な槍になったような突進だった。


 しかし、私に到達する前に『オオカミの群れ』が火を噴き出した。ドドドドドドと赤い宝石を彫刻して作られた魔弾が兄様を襲い、連続で爆発を起こして突進の勢いを阻止した。


「くっ……!」


 文字通り爆発が雨のように降り注ぎ、兄様は止まるだけでなく後ろに押し出され始めた。急造した鋼鉄の盾は爆発を受けるたびに曲がって壊れ、『鋼鉄』の魔力が引き続き盾を補強した。


 私は右手のオオカミの群れを解除して、別の武器を構成した。


 ――『アーマリーキット』具現兵器・装甲破壊用大型拳銃『青いワニ』


 巨大な青い拳銃に特殊な弾丸を装填して発砲。たった一発の魔弾が兄様の盾に到達した瞬間、魔力が盾を侵食して霧散させた。


「こ、これは……!?」


「卑怯に隠れないで!」


「隠れなかったぜ!!」


 兄様が〈競走路〉を飛ばし、私はその広い斬撃に対抗して再び赤い宝石を投げた。宝石が斬撃に触れると、強力な爆発が起きて斬撃を相殺した。


 体を前かがみにした。かかとから赤い宝石が生えた。爆発が起こり、その反動で私は銃弾のように飛んでいった。兄様の傍をすれ違いながら『青いワニ』を発砲した。


「この能力はいったい……!」


「ただの爆発なんですよ!」


 魔弾と槍が衝突して爆発が起き、空中に浮かんでいた私は衝撃で飛ばされた。しかし、また空中で爆発を起こして兄様に近づいた。


 ……そう。この爆発こそ私の特性である『結火』だ。


 火炎系の最上位能力の変種。火を、熱気を、極限まで凝縮して宝石の形で作り出すこと。その代表的なのが今、私の空間ポケットに山のように入っている〈爆炎石〉だ。


 あまり特別でもなく、能力が多様なわけでもない。ただ一つ、で全部平等に粉にしてしまうだけ。


 右手の『青いワニ』を欠片に戻し、背後に隠しておいたコンバットナイフの取っ手を取り出した。注入された魔力で刃を形成する魔道具『野性の爪』。瞬く間に芽生えた『結火』の刃を兄様に突き出した。


「よくも!」


〈分かれ道〉の連撃を避け、兄様の手を狙ってナイフを振り回した。鋼の羽毛が刃を防いだ。その瞬間、私はナイフの刃を爆発させた。


「ちっ、また……!」


 兄様が爆発に押されて後退する間、左手の『オオカミの群れ』も欠片に戻し、〈爆炎石〉を一握りまき散らした。直後、かかとで爆発を起こして空中へ跳躍した。


「またやられそうか!」


 兄様は鋼の羽毛を広く展開した。羽毛の魔力場と〈爆炎石〉が衝突し、連鎖爆発が起きた。


 私はその煙の中に飛び込んでナイフを振り回した。ただ地面から振り回すのではなく、爆発を利用した衝撃波で空中を飛び回り、全く違う方向から攻撃を浴びせた。


「ハエだったのかよ貴様は!」


 魔力場で増幅された槍撃が相次いで噴き出した。そのすべてを感覚だけで避け、近距離で〈爆炎石〉を大量にまき散らしナイフを振り回して追い詰めた。


 爆発する。爆発する。爆発する。


 爆炎が広がるたびに心がきらめく。轟音がお腹に響くたびにじいんとする。爆発が起きるほど心が高揚し、力が満ちる感じがした。


 でも爆発を繰り返し浴びながらも、何とか耐える男がいた。その事実に余計に腹が立つ。


 再び『オオカミの群れ』と『青いワニ』を装備した。度重なる爆撃で数が大幅に減った鋼の羽毛を、今度こそすべて掃くという勢いで攻撃を浴びせた。


『青いワニ』が鋼鉄の防御幕ができるたびに破壊し、『オオカミの群れ』の魔弾と〈爆炎石〉でダメージを累積させた。


「ふざけるな!!」


 ――鋼鉄槍道〈征服の歩み〉


「!?」


 兄様が槍を振り回すと、魔力場が急速に拡張され結界が構築された。四方から魔力槍が雨後の筍のように芽生えて私の攻撃を迎撃し、私にまで攻撃が飛んできた。まるで空間全体が私の敵になったようだ。


 その上、兄様は再び〈開拓の歩み〉で突進してきた。


「はああああ!」


〈爆炎石〉を巨大な砦のような形状にし、〈征服の歩み〉の魔力槍を防いだ。その壁に〈開拓の歩み〉が届くと、ガガガッと壁が削られていった。だけど途中で砦を爆発させ〈征服の歩み〉の結界を丸ごと吹き飛ばし、突進してくる兄様を牽制しようとした。


 ところが爆炎と煙の向こうから兄様が飛び出した。


「えっ!?」


 ダウセニスの鋭い槍の刃が目の前に迫ってきた。側面に爆発を起こして離脱したけど、完全に避けられず腕が大きく切り取られた。大きな痛みと共に血が噴き出した。


「うっ、あ……!」


 うめき声をものともせず飛んでくる〈高速道路〉の突き。急きょでたらめに爆発を起こして抜け出した。避けたけれど、むやみに推進したせいで結局バランスを取れずに床を転がった。


「よくもどんどん避けるんだな!」


 兄様が悔しそうに叫んだけど、率直に耳に入らなかった。


 痛い。負傷の程度では〈剣の結界〉と〈魔獣の咆哮〉が割れた時がもっとひどかったけど、精一杯沸き上がる気持ちに冷水を浴びせたようで気持ちが非常に悪い。目の前が赤く染まるような気さえする。


 ムカつく、ムカつく、ムカつく……!!


「……し……ね……!」


 喉から湧き出る感情をそのまま吐き出し、私は巨大な爆発で私の体を発射・・した。


「死ぬ!!」


―――――


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!


ちなみに、これまでのリディアの一人称はリディアです。

ただ、私が執筆するときは習慣的に『私』を使う傾向があります。検討過程でこれを修正しますが、もし修正を忘れた部分があれば情報提供していただけるとありがたいです。

(実はすでに一箇所発見して自分で修正しました……)

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