許されぬ援軍
「こちらです、お嬢様」
私はジェリア、ロベル、トリアと一緒に閑散とした敷地内を走っていた。
当然だけど、リディアの決闘はずっと見ている。いや、むしろそっちが本体だ。今敷地内を走る私はあくまで『分身』特性を模写して作り出した分身に過ぎない。
「ロベル、調査内容は確かだよね?」
「ディオス公子が不注意なふりをしながら巧妙に罠を仕掛ける策略家でなければ、間違いありません」
私がロベルとトリアに頼んだ調査。二人は今日まで情報を収集し続けた。それを収集してみた結果、ディオスの狙いの輪郭をある程度決めた。
ひとまずピエリや安息領がディオスと接触する気配はなかった。そちらはもともとゲームでもなかったことだけに、可能性は低かった。でもゲームでも裏で卑劣な手段を駆使したディオスは、やっぱりこの現実でも正々堂々と臨まなかった。
「ところで本当に卑怯な人ですね。前ではそのように見下しておいて、後ろでは勝つと計略をめぐらすなんて」
「僕もそう思います。これでは自分の力だけでは勝てないと宣言したも同然です」
「さぁな。あいつはあいつなりに必死なんだろう。爵位継承に目がくらんだ奴らはよくそうするんだな」
使用人である二人は理解できないという反応である反面、ジェリアは特にそうでもないという態度だった。
「ジェリア様は理解されるのですか?」
「まぁ、フィリスノヴァは四大公爵家の中でも権力争いが一番激しいからね。ジェリアもすごく苦しめられた立場だから理解したくなくても仕方がないと思うわよ?」
「よく知ってるな。この世界は実の兄妹同士暗殺者まで雇う狂った所だぞ。特に、最も有力な後継者にはそのような試みが絶えないぞ」
「権力という奴はいつも人を惑わすんですよね。本当に残念なことです。ジェリア様もお疲れ様でしたね。暗殺はどのように解決しますか?」
トリアの問いにジェリアは拳を握りながらニヤリと笑った。
「強くなればいい。暗殺者など相手にならないくらい」
「……. やっぱりフィリスノヴァらしいですね」
そんな会話をしながら、私たちは目的地に向かった。途中で私とロベルが一班、ジェリアとトリアが二班に分かれて各自の方向に行った。
私とロベルの目的地は、第一練習場からさほど遠くない建物の屋上だった。八階の高さに第一練習場の内部がある程度見える所だ。
「早く行こう!」
私たちはロベルの特性、幻影系の上位能力である『虚像満開』で姿と魔力の気配を隠した後、建物の内部に入らず外壁を登ってた。そして屋上に到着するやいなや、ディオスの部下たちと何か大きな卵のような魔道具を確認した。
拳で魔道具を打ち砕くと、ディオスの部下たちはようやく異変に気付き慌てた。
「何!?」
「クソ! これをちゃんと守らないとディオス様が……!」
「どんな奴だ!」
私たちは当初の計画通り隠蔽を解いて姿を現した。
魔道具自体は壊したけれど、修復できる手段があるかもしれないので、そのまま見過ごすわけにはいかない。それに私やジェリアの顔を見せることも目的に含まれるので、ここではまず姿を現さないと。
一瞬にして敵意に満ちた視線が集中したけれど、私の顔を確認するやいなや当惑感がその場を支配した。
「こ、この女は……!」
「オステノヴァの公女がなぜここに!?」
「さぁね。どうしてでしょうか?」
彼らは戸惑い、視線を交わした。やっぱり生徒というか、全体的に未熟な感じがする。まぁ、おかげで私は仕事が楽でいいけど。
一味のうち、それでも平静を維持する人が前に出た。この人がリーダーだよね。
顔を見た私は少し驚いた。
「あら、リソン伯爵家の令息さんですわね」
「こんにちは、オステノヴァ公女」
リソン伯爵令息、ドロイは口元がビクビクとしながらもなんとか笑みを維持しようと努めた。
「僕たちはアカデミーの許可を得て魔道具をテストしていただけです。ところでいきなり僕たちの魔道具を壊すなんて、いくらオステノヴァ公女であっても一線を越える暴挙……」
「あら。私がその魔道具の用途も知らずにむやみに行動したと思うんですの?」
「そうかもしれませんね。申し上げた通り、僕たちは正式に許可を得て……」
「今、オステノヴァの前で魔道具の用途を隠蔽できると思っているのではないですよね?」
「くっ……!?」
バカみたい。
嘲笑に堪えない。オステノヴァの人がこのように直接乗り出すのは、すでに情報をすべて把握したのを意味する。普通はそれを察して絶望するのに。我が家の評判を知らないのか、それとも私が幼いから騙せると思うのか。どちらにせよ安逸きわまりない。
しかし、ドロイはまだ言い逃れを続けるつもりのようだった。
「この魔道具は複数の人の魔力を集めて誰でも活用できるように保存しておくバックアップです。研究や助力に有用なものであり、違法な要素は何もありません。破壊した責任は取っていただかないと……」
「破壊責任はそこのこっそり修復準備する人を片付けて話しなさい。そしてさっきも言ったと思いますけど。私の前で用途隠蔽が可能だと思いますの? よく考えて答えてください」
私なりに慈悲を施す警告だ。率直に告白すれば制裁は加えないけど、言い逃れを続けるならそれで終わりだという最後通告。
ドロイは最後のラインを見事に踏みにじった。
「さっきから何をおっしゃっているのか分かりませんね。いくら公女でも……」
「その魔道具、集めた魔力を他の魔道具に転送できる装置でしょ? そして受信の魔道具はディオス公子が持っていて。決闘で他人の魔力を受けるのは見事な不正行為ですわよ」
「うぐっ!?」
「情けないですわね。足りないなら他のことも話してみましょうか? 貴方たちが引き受けた仕事、あれ一つだけじゃないのは知ってますよ?」
ここまで話が出たのに言い逃れしたら、それはそれなりにすごい人かも。
幸いなのか不幸なのか、ドロイはその〝すごい人〟ではなかった。
「くっ……みんな包囲して殴り倒せ! 話が漏れては……」
「あら、ありがとう」
私の言葉が合図になった。
一味が動き出そうとした瞬間、ロベルがドロイを除く全員に魔弾を撃った。絶妙に制御された威力が頭を揺らすと、彼らは何もできず気絶してしまった。
唯一残ったドロイは状況に追いつけず唖然とした。
「このまま投降して証言をしていただければ、ここでは乱暴なことはしません。しかし……」
「ふざけるな!」
ドロイは拳を握って私に飛びかかった。武器はなかったけど、拳に集中した魔力量はかなり良いレベルだった。
まぁ……あくまで一般的な基準ではね。
「がはっ!?」
問答無用でドロイの腹を蹴飛ばした。彼は私の速度に反応すらできず、後ろに飛ばされていった。私は彼の体が床に落ちる前に追いかけ、彼の頭をつかんで床に激しく突っ込んだ。床が壊れた。
「が……ぶっ……」
「生意気はやめなさいよ? 私がこの場に来た時点で貴方の未来はすでに決まっていますの。貴方がすべきことはただ犬のようにうつ伏せになって私の足をなめて慈悲を乞うことだけですわよ。理解できますの?」
「た……戯言を……!」
「あら、こんなに分際を知らない人は久しぶりですわね。そして貴方、公爵令嬢に暴力を行使しようとするなんて、正当性の以前に家柄の力で圧殺される暴挙ですわよ? そんな当たり前のことさえ知らないほど愚かだから、伯爵位の継承候補者になれなかったんですの」
握った頭を持ち上げて、また床に打ち込む。四回ほど繰り返すと床に血が流れた。しかし頭が割れてはいない。さっきお腹を蹴った時に概算した肉体強度を基準に力を調節したから、重傷は作らない。
屋上に上がってくるドアの方にドロイを投げつけた。彼の体が壁に打ち込まれ、床に落ちる前に近づいてこめかみをつかんだ。握力に彼の頭がきしむ。
「こ、こんなことをしても見過ごすと思いますか!?」
この状況でも強く出る根性だけは褒めてあげたいわね本当に。
私はニッコリ笑って手に力を入れた。ドロイはぐあぁっとうめき声を上げた。
「申し訳ありません。そのまま見過ごさせるのが私の特技ですので」
「な……っ」
「この一年間、執行部員の役割をしながらかなり多くのケースを見ましたわ。あらゆる階層の人々が集まるので、ありとあらゆる事件が起きていました。その中には生徒レベルでカバーできないものもありましたわよ」
突然の話にドロイは訳が分からないという表情だった。まぁ、それも当然だろう。今の状況とあまり関係なさそうな話だから。
「貴族たちの権力争いや身分差が絡んだ事件、あらゆる大小の組織が介入する中でこっそり横取りしようとする悪い人。そのような人々を相手に正攻法だけでは限界がありますわよ。貴族ならそれくらいは常識でしょ」
そこまで話すとそろそろドロイも理解できたようだった。
前世であれ現世であれ、権力者や裏組織の腐敗や犯罪などは捕まえるのが本当に難しい。そんな奴らは捕まえること自体も難しく、治安組織と癒着する場合もあるから。そんな奴らを正当な手段だけで相手にするのは、不可能ではないけど非常に難しいことだ。
そのため、私は正当な手段に固執しないことにした。
「権力者を打ち負かすことができるのは権力者だけですの。規則を破ったとしても、法を蹂躙したとしても、有害な人をどんな手段を使ってでも速やかに捕まえて牢に投込むこと。それが私の信条なんですの」
もちろん、これは非常に危険な論理だ。簡単に言えば、私自ら乱暴な手段さえ躊躇しないという意味だから。だから
……まぁ、この男はアルカとリディアを侮辱したバカだから、手に少し感情がこもっているのかもしれないけど。
「今回のこと以外にもディオスの連中個々人の蛮行はもう調べましたわ。特に貴方は多数の生徒を脅迫、暴行して不法に資金を受け取ったそうですよね? それにディオスと共謀して企んでいたこともあったし……この場で全部列挙してみましょうか?」
「くっ……ご、ご希望は何ですか?」
「あら、空気読みが完全にハズレではなかったですわね」
私がニッコリ笑うと、ドロイはおびえた顔で息を呑んだ。
……何よ。ただ嬉しくて笑っただけなのに。反応がそうなれば私も傷つくのよ。
いや、こんなこと言う場合じゃない。
「いいですわよ。順々に話してみましょう」
私がそのように話し始めると、ドロイは喉を鳴らして次の言葉を待った。
―――――
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