決闘 上:鋼鉄の槍使い
第一練習場はアカデミー最大の練習場だけど、大きさ以外にも重要な機能があった。
コロシアムモードと呼ばれるそれは、必要な時に魔力で巨大な観客席を具現する機能だった。最大の練習場であるだけに、大人数が集まって何かをするにも良く、各種大会に使われたりもする。
私、リディアはコロシアムモードが発動された第一練習場の廊下を横切った。魔力で具現された偽物のくせに無駄に精巧なのが少し不満だ。
ついに廊下の端にたどり着いて外に出ると、広々とした空間が目の前に広がった。第一練習場の本来の領域、普段なら戦闘術や運動などの授業に使われる所だ。
その広い空間の中で、向かいの出入り口の前で壁に寄りかかっている人は……ディオス兄様だ。
「遅れたな。怖がって逃げたと思ったぜ。とにかく見る目が多いからな」
兄様は見せびらかすように両腕を広げた。
確かに人が多い。コロシアムモードは観客を千人以上収容できると聞いた。すでに椅子はいっぱいで、空いた空間に立って見る人までいた。たった今入ってきたばかりの二年生編入生と上級生の間の決闘を見に来たというには多すぎる人数だ。
恐らく噂を立てて公開決闘で誘導した兄様がまた何かの手を使ったのだろう。そういえば、ここ数日間は次期公爵の座を決める重要な戦いが開かれるとか、アルケンノヴァの権力争いが終わるとかいう噂が怪しいほど沸き起こった。そこまでしてでも大勢の人の前で私に恥をかかせたかったのだろう。
まぁ構わない。以前だったら人が多いということだけでも怖がっていただろうけど、今はあってもなくても全然気にしない。ただあの人たちの中に私が望む人さえいれば十分だ。
ちらっと目を向けてみると、すぐに発見した。銀髪は私たちの家柄の代表的な特徴と言えるほど珍しい色なので探しやすい。
テリアさんはよく見える席で微笑んでいた。隣にはアルカさんとネスティもいた。テリアさんの使用人は見えないけど、彼らはいつも重要な仕事をする人たちだから。
「何をよそ見してるのかよ? もう諦めたのかぁ?」
「勝てる戦いから逃げるほどの臆病者ではありませんよ、リディアは」
「……口だけは成長したな」
左手に持ったスーツケースを置き、別に持ってきた武器に手をのせた。剣を二本、そこに連射小銃、拳銃、そして弓を一本ずつ。
私が作ったスーツケース型武器はまだ少し不安でテリアさんから武器を借りた。やっぱり賢者で研究家として有名なオステノヴァの作品だからか、なかなかの制式兵器より強力で品質が良い。
兄様は私が置いたスーツケースを見て卑劣に笑った。
「その情けない塊まで持ってきたんだな。盾でも使うのかよ?」
「兄様はいつも口がうるさいですけど、今日は特にひどいですわね。兄様の決闘は口げんかだったんですの?」
レベルの低い挑発には応じない。ただその考えで答えただけなのに、兄様の額に血管が怒張した。この程度なんかで怒るなんて、兄様もまだまだだね。
兄様は背中に担いだ槍を手にした。全体が絶望石という超レアメタルで構成されており、非常にレベルの高い魔力処理を多重に加えた強力な魔槍だ。
父上が兄様に譲った家宝であり、アルケンノヴァの最強の槍、極穿槍ダウセニス。まさかあれを持ってくるとは。
私の視線に気づいたのか、兄様がニヤリと笑いながら槍を誇示するように持ち上げた。
「羨ましいか? これが俺が後継者の証として父上からもらった武器だぜ。お前なんかいくらもがいても得られない至高の槍だ」
「特に羨ましくはありませんけど、驚きました。本来ならそんなこと使う必要もないと一蹴したはずの兄様がその偉そうな至高の槍まで出してくるなんて、かなり私が怖かったのかなと思いまして」
「おのれ……!」
兄様が歯ぎしりをして観客席の片方に突き出た所を睨んだ。するとそこから魔力で増幅された力強い声が出た。
[はい、皆さんお待たせしました! それでは今からディオス・マスター・アルケンノヴァ公子とリディア・マスター・アルケンノヴァ公女の公開決闘を始めます!]
本当に始まりだ。
心を引き締めて剣の取っ手に手をつけた瞬間、目の前に大きな魔弾が現れた。
「!?」
慌てて剣を抜いて弾き出した。ようやくタイミングを合わせた。でも急場しのぎだった上、魔弾の威力が予想以上でバランスを崩した。その隙を狙って魔弾が連続して飛んできた。
早くて強い。こんな恐ろしい魔弾とは、一度も見たことがないのに……!
私はやっと姿勢を整え、横に走って避けた。
「くははは! 逃げてみろ! みっともなく逃げてみろよぉ! 誰が上なのかはっきり分かるようにな!!」
兄様はその場で動かなかった。せめて銃さえ使わず、ただ素手で魔弾を飛ばすだけだった。にもかかわらず、その速度と威力に私は避けざるを得なかった。
今は全部回避しているけれど、こんな軽い攻撃にこうなってはまともな攻勢が来たら……。
考えを終える前に目の前に兄様が現れた。いや、突進してきた。それこぞ瞬く間だった。
「おやぁ?」
嘲笑と共にダウセニスの槍刃が私の頭を狙った。力強い音と共に、私の剣が弾き飛ばされた。
「うぅっ……!」
「きゃははは! 成長したのは口だけかよぉ!? 早くちゃんとかかってこいよ!!」
一回、もう一回。攻撃が素早く続いた。単純な突きだったけれど、それが速すぎて、避けるたびにすぐついて刺してきた。突きを躱して隙を突くつもりだったけれど、引いてまた突く速度が速すぎてそんな暇さえなかった。
「くっ!」
胸の中央を狙う槍を剣で防いだ。防御は成功した。でも強い力に押されて十メートル近く飛ばされてしまった。それでも着地して姿勢を整える余裕さえなく次の攻撃が飛んできた。
やっぱり強。まだ身体強化と魔弾だけなのに相手にしにくい。しかも槍術さえも本気ではなかった。特性を発揮して本格的に攻勢をかけると、今のような状態では持ちこたえられない。
ギリギリと歯ぎしりしながら兄様の隙間を狙った。雨のように降り注ぐ突きを避けたり防ぎながら時を待っていたところ、頭の横を狙う槍を横に避けながら左手で槍を握った。そして無防備になった兄様に剣を振り回した。
「生半可だぜ」
腹部を襲った大きな衝撃と共に、私が飛ばされた。
「が、は……!」
「たかが槍を掴んだくらいでこの俺がやられてくれると思ったかぁ?」
鋼鉄をまとった左拳で私を吹き飛ばした兄様が皮肉った。
特性『鋼鉄』。魔力で鋼を作り出す能力。単純だけど活用度が高いし、鋼鉄といっても魔力を集中した程度によっては一般的な鋼鉄とは比べ物にならないほど強力な金属になる。
「おい、こうしたら薄すぎるぜ。面白くないんだよ。少なくとも俺がこいつを取り出してきた甲斐くらいは感じさせろよ」
ふざけないで。圧倒する姿を見せたくてたまらないくせに。
しかし、余裕を見せてくれたおかげで私も少し余裕ができた。
素早く左手で拳銃を抜いて撃った。銃の補助で高密度に圧縮された魔弾を両肩と腹部、膝に撃った。しかし兄様は鋼鉄をまとった左腕と槍で全部防いだ。
「は、銃? そんなんかに頼るから……」
余裕を持ってしゃべっている間、身体強化を最大出力で発動した。
軽い跳躍で瞬く間に兄様に飛んで縦斬り。しかし兄様は槍の柄だけで微動だにせずに防ぎ、そのまま四発の魔弾で私を弾き飛ばした。その後の強烈な突きを避けたけれど、衝撃波だけで体が数メートル押し出された。
「ちょろちょろ面倒くさいぜ」
言葉と同時に、兄様の槍の動きが急激に速くなった。
――鋼鉄槍道〈遊歩道〉
恐ろしい圧力の突きが吹き出し、大きな轟音が響いた。私は耐えられずコロシアムの壁まで一気に飛ばされてしまった。背中が壁に激しくぶつかった。
「がはぁ……っ!」
激痛と共に空気が勝手に肺から抜け出た。体内に魔力を回して無理やり体を起こしたけれど、剣を持ち上げた瞬間私は唖然とした。
……剣が、折れていた。
兄様の技を防ぐ時に折れたのかしら。前方を見ると、完全に粉々になってしまった金属の破片が見えた。その光景に私は混乱に陥った。
ダウセニスに比するほどではないけれど、この剣もなかなかいいものだ。兄様の一撃に魔力がそれほど多く込められたわけでもなかった。それでも剣が折れたのが理解できなかった。
一方、兄様は槍を肩にかけて思いっきり威張った。
「何だよ、牽制の攻撃で剣が壊れたのかよ? 役に立たないな。待ってあげるから残りの一つでも抜いてみろ」
すると、兄様は私が剣を抜くやいなや魔力の突きを連続で飛ばした。『鋼鉄』が宿ってまるで一回一回が槍を投げたように重くて強かった。私は打ち返すのを諦めて横に躱したけど、すでに予想していたようにそちらにまた突きが飛んできた。
体を低くして避け、拳銃で魔弾を連発した。しかし兄様の『鋼鉄』の魔弾が私の魔弾を突き破って襲ってきた。
私は魔弾の軌跡の隙間を小さな体で突破した。そのまま魔力の斬撃を放ち、私自身も突進した。兄様はつまらないという顔で魔力の斬撃を横に避けたけど、私はむしろそれを狙った。ドカンと斬撃が爆発した。
「くっ!?」
初めて兄様の表情が歪んだ。その間、私はもっと強い魔力を剣に込めて振り回した。
「ちっ、面倒くさいぜ」
――鋼鉄槍道〈分かれ道〉
まるで分裂するように四方に同時に突き出された連撃が私の剣撃を防ぎ、肩に擦れ、みぞおちを狙った。瞬間的に左手を動かしてみぞおちの方を拳銃で防いだ。
兄様は槍を激しく振るように動かした。槍の先が何度か空間をかき乱し、気がつくと私の手から拳銃が放れて頭上を飛んでいた。
「あっ……!」
拳銃を回収する余裕なんてなかった。度重なる槍撃が私を押しのけ、その隙に兄様は魔力の突きを飛ばして一撃で拳銃を破壊した。拳銃を破壊する隙に私が飛ばした魔力の斬撃はあっけなく防がれた。再び強い衝撃と共に押し出された。
歯をギリギリと食いしばった。さっきから押されてばかりいるのがあまりにも腹が立つ。テリアさんが私のためにあんなに努力してくれたのに、いざ私がこうしていては恩返しも何もできないじゃない。
しかし、兄様も私が大きな傷もなく何とか対処しているのが不満のようだった。
「面倒くさい奴め。遊ぶのもうんざりだぜ」
そう言った兄様は槍の先を私のところに向け、突然魔力を高め始めた。
―――――
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