二人の休日(デート?) 下

 食事の後、私たちは街に出た。


 うーん、可愛らしくて可愛いのもいいけど、この元気な感じも本当にいいわ。人々が歩き回るのを見るだけでも力が上がる感じだ。


「インテリアもいいし、味もいいお店だったわ。店員さんはちょっとあれだったけど」


 私の言葉にロベルは苦笑いした。


「すみません。店員さんまで気づかなかった僕のミスです」


「うん? 違うの、違うの。冗談よ。本当に嫌だということじゃないわ」


 まぁ、いい人ではあったから。少しからかうのが気に入らなかっただけで。


 それにしても今回もロベルが案内する通りについて歩いた。周りを見ると人形や花関連のお店が多く、服屋も可愛い服が多かった。いや、街自体が可愛い。


 でも何ていうか、動線がちょっと遠回りしている感じなんだけど……。


 そうするうちにふとあるお店に目を奪われた。


「あ……」


 ぬいぐるみショップだった。普通に売っているぬいぐるみもあれば、何か箱の中に入っているものもあった。動物をデフォルメした可愛いぬいぐるみがかなり多かった。


 ミスしたと思って顔を背けたら、私の気配に気づいたロベルがそのお店を指差した。


「入ってみますか?」


「いや、いいわよ。あまり似合わないし」


「お似合うかもしれませんよ。せっかくいらっしゃったついでに一度お楽しみになってはいかがでしょう。ついでにアルカお嬢様へのプレゼントもお選びになればいいでしょう」


「それなら……」


 勝てないふりをして入ってみると、やっぱり可愛いぬいぐるみがいっぱいだった。最もスタンダードなクマのぬいぐるみから猫、子犬、ライオン、トラ……ちょっと変わったものとしてはワニやサソリもあった。


 ……何かあってはいけない蚊のようなものも見える気がするんだけど。誰なのよあんなぬいぐるみ作った奴。


 ぬいぐるみを見物するだけでもかなりテンションが上がったけど、その中でも私の目を奪うのは外で見た箱だった。


 四角い箱の中にぬいぐるみがいっぱいで、外には何か用途がよく分からない魔道具が付いている。前世の記憶に例えると、UFOキャッチャーマシンと似ている。


 でも、アームとか操作機とかは見えない。箱に付いている魔道具はただの玉のような形をしていて。


 幸い、前面に簡単なマニュアルのようなものが付着していた。


「えーと、コインを入れて……ここかしら?」


 銀色の板にコインを載せると板が光を放ってコインを吸い込み、玉のような魔道具が少し輝き始めた。


 やっぱり魔道具、前世のコイン投入口や操作機とは構造から違うね。


 横に立ったロベルが私を見て呆れ顔をした。


「何かも知らないのにいきなりお金からお入れになりますか?」


「こういうのは一応やってみるのよ」


 マニュアルを見ると、玉形の魔道具で魔力を操作してぬいぐるみを撃つ形式のようだった。


 すぐに玉に触って魔力を注入すると、箱の中に細い銃のようなものが現れた。手を出したまま意思を送ると、銃は丸い球を描く軌道だけで動いた。


 一つのぬいぐるみでも撃ってみると、ぬいぐるみが空中に浮かぶ。


「何よこれ?」


「あれをもう一度撃って出口に送る仕組みです」


 ロベルが指した所を見ると、〝ゴール〟と書かれた穴があった。


「おお、そうよね。方法さえ分かれば何でも私の敵じゃないわ!」


 必要はないけど、気持ちで魔道具を叩きながらぬいぐるみを撃った。勢いよく飛んでいったぬいぐるみは、ゴールから五十センチほど離れた壁に当たって落ちた。


「……」


「……」


 ……これほど窮屈な沈黙は生まれて初めてだ。


 私を侮辱した生意気な機械を罰するために三十枚のコインを一度に入れた。


「お嬢様!?」


「コツは分かったわよ。この生意気なガチャ、今日空っぽにするわ!」


「こんなことで何をされるんですか!?」


「うるさいわ!!」


 ドドドドドド。


 あっという間に数十発が箱の中を輝かせ、ぬいぐるみが三十回壁にぶつかった。


 いや、なんでこんなにダメなのよ!? こう見えても私が直接撃つ魔弾は逸れたことなんて全然ないのに!


 怒りで思わず魔力を高めた。こうなった以上、直接殴りつけて……。


「いやいやお嬢様! 何をされるんですか!?」


 ……危なかった。一瞬冷静さを失った。


 しかし、このままではぬいぐるみを引くことができないのだけど。


「このタイプは角度と軌道が決まっていますので、それをよく読めばいいんですよ。お嬢様意外と直接するのではなければ下手ですよね」


「大丈夫。次は成功するわよ」


「僕が一つ引いて差し上げます。欲しいものはありますか?」


「……あの金色のくせ毛の子犬」


 ロベルはコインを一枚入れて魔道具に手を置いた。そして中の銃をシュシュッと動かし、あっという間にぬいぐるみをゴールに入れた。するとゴールに入ったぬいぐるみが光と共に消え、ロベルの目の前にパッと現れた。


「はい、こちらです」


「何よ、貴方どうしてそんなに上手なの?」


「妹にあげようとたまにするんですよ。経験者の貫禄です」


「何よ! 私も経験があったら成功してたのに!」


 私が考えても幼稚な怒りだった。


 でも腹が立つ時は突っ込む!


「またなさるんですか?」


「止めないで。私も引いてやるからね!」


「どうかお持ちになるものは全部お使いにならないでください」


「ふん!」


 私はコインを手いっぱいに握って投入口に叩きつけた。


 私の実力を証明してあげるわ!


 


 ***


 


「えへへ」


「僕も嬉しく思います」


 ロベルはぬいぐるみを両腕で抱きしめて笑う私を見て微笑んだ。まぁ、どうせなら褒めてくれればいいのに!


 右腕に抱かれた銀色の猫のぬいぐるみを見ると、さらに気持ちがいい。何よりも自分の手で引いたから。


 もちろん、何度試みたかは秘密だ。


「それ一つだけですけどね」


「うるさいわよ」


 まったく、冷や水を浴びせないでね。それでも今は気分がいいから大目に見てあげる。


 とにかくロベルが引いてくれたものまで合わせてちょうど二つだ。一つは私が持って、もう一つはアルカにあげようか。


 そう考えると急に悩んだ。


「アルカは何が好きかしら?」


「どちらもお好きになるのでしょう」


「そういう子だけど、それでももっと好きなものがあるでしょ。私が見るにはこの金色の子犬の方が好きそうだけど」


 これが猫のぬいぐるみよりも可愛いしね。


 猫のぬいぐるみも可愛いけど、なんというか、少し気が強くてツンとした感じがある。反面、子犬のぬいぐるみはとても純真なのがアルカとイメージがまったく同じだ。


 しかし、ロベルは私とは意見が違うようだった。


「僕は猫の方がおすすめです」


「なんで?」


 私と考えが違うのかしら? 少ししょんぼりする。


 ロベルは猫のぬいぐるみを手に取って、私の顔の傍に当てた。まるで私と猫のぬいぐるみを比較するように。それから頷いた。


「さすがですね」


「何が?」


「このぬいぐるみ、お嬢様に似ています。アルカお嬢様は特にそういう意味づけがお好きな方なのできっとお喜びになると思います」


 このぬいぐるみが? 私と?


 ちょっと驚いてぬいぐるみを見たけれど、よくわからない。子犬のぬいぐるみはアルカとイメージが合っているけどね。正直、私は子犬の方がアルカと似ていてもっと好きだ。


「ま、まぁ……じゃあ、これをあげようか」


 アルカもこの猫のぬいぐるみが私に似ていると思ってくれるかしら? そうだといいな。


 そう思いながら歩いていると、いつの間にか街の雰囲気が変わっていた。今回は落ち着いた感じのカフェや服屋などがいっぱいだった。


 ロベルはその中でテラスのあるカフェに私を案内した。


「何? もうお茶なの?」


「もともとは別の所にご案内するつもりだったんですが、思いがけず時間をたくさん使ってしまいまして」


 そしてロベルはそっと猫のぬいぐるみに目を向けた。私はわざとその視線を無視した。


 カフェは外で見たのと同じような感じで、落ち着いて安心できる雰囲気だった。色の濃い木とほのかな照明がかなり気に入っている。前世だったら恐らくクラシック音楽が流れそうな感じ。


 私はふと思いついた事実を尋ねた。


「そういえば来る時に遠回りするみたいだったけど、理由があるの?」


「……」


 ロベルはなぜか少し恥ずかしそうな気配で目をそらした。そしたら余計に問い詰めたくなるんだけど。


 でも私が問い詰める前に先に彼が打ち明けた。


「そちらの街をお見せしたかったんです。お嬢様はそんなことに接する機会が少なかったですからね」


 つまり、私を配慮してわざわざそちらに立ち寄ったということね。


 もしそうではないかと少し思ったけど、まさか本当だとは思わなかった。知ってみると少しくすぐったい気がする。


 それをごまかそうとわざと余裕のあるふりをして微笑んだ。


「ふふ、ありがとう。でもこのお店もセンスがいいね」


「こういうのもお好きでしょう。それにこの時間には人も少ないし」


「うん? 人はどうして?」


「しらを切らないでください。本当にただ遊びに来たわけではないでしょう」


 気が利くね。


 確かに今日の私の目的は二つ。一つは歴史館でアルキン市防衛戦について確認することで、二つ目は今晩頃に終わると思った。


 それで、その間に余裕ある時間は王都で遊んでみるつもりだったのだけど……まさかロベルがそこまで察したとは。


 もう半分バレた以上、気兼ねする必要はないだろう。


「トリア」


「はい」


 ここにいるはずのない名前を呼ぶと、当事者が幽霊のように突然現れた。


 確かにこんなことをするには見る人は少ない方がいい。それでもいるお客さんたちとカフェのスタッフはびっくりしたし。


 もちろん私もロベルも驚かなかった。……ついてくると言ったことはなかったけれど、トリアなら見るまでもなくこっそり護衛すると思ったから。


「姉貴、やっぱりついてきたんですね」


「もちろん。まだ見習いのあんただけを信じてお嬢様を街に行かせるわけがないじゃない」


 つまり、最初から密かに私たちについてきて護衛をしたという意味だ。恐らくトリアの他にも部下が何人か潜入しているだろう。


 しかし、その次の行動は予想外だった。


「ロベル、お嬢様とかなりイチャイチャしたね。むやみにお嬢様を狙うとかしたら……」


「そんな方に興味がある御方だと思いますか?」


「それは全然違うよね」


「……貴方たち、減給されたいの?」


 本当に、放っておくと話を随時脱線させる奴らなんだから。


「トリア、そろそろ届いてきたよね?」


「はい、ここにあります」


 トリアが差し出したのは書類の束だった。受け取ってヒラヒラめくると、ロベルは身を乗り出して書類をのぞき込んだ。


「どんな内容ですか?」


「この前貴方にお願いしたこと」


「お願い……ああ、それですか?」


 ロベルに任せたのはハンスさんに私のお願いを伝えてほしいということ。彼はお願いの結果までは分からない。先ほどトリアがくれた書類がそのお願いの結果が書かれた資料だ。


 内容を確認した私は書類をロベルに渡し、トリアに椅子を勧めた。


「座って。来たついでに一緒にお茶飲もうよ」


「それでもいいですか?」


「そんなに急いではいないし、同席ぐらいはむしろいいから大丈夫。お店にも礼儀じゃないし」


「それではありがたくいただきます」


 ロベルに注文を任せて考え込んだ。


〝調査〟の結果は予想通り。率直に言えばそれこそ望まないことだったけれど、その予想が『バルセイ』の情報を土台にした以上間違いはずがないという確信もあった。


 それなら次にやるべきことは……。


―――――


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る