二人の転生者の事情

「私が先に話します」


 セイラの話はこうだった。


 セイラは前世で地球という惑星の日本という国で生まれ、十七才で死んだ。死後、ものすごく美しい花の女神と出会って転生の提案を受け、それを受諾した結果、セイラとして生まれ変わった。


「信じられないと思いますけれど、この世界は私が前世でプレーしたゲームと同じ世界です。あの……〝セイラ〟はそのゲームの主人公でした。でも私がゲームのセイラと違う行動をすると、周りの人たちの反応も変わりました。それを見ながら、ここは単なるゲームの世界ではないと思いました」


「それは……本当に驚くべきことですわね」


 気になる要素は非常に多かったが、パメラは花の女神という存在に注目した。


 この世界の女神パルマは光の女神。いつも光と空に例えられる彼女の象徴に花はない。もちろん人間が知らない何かがある可能性はあるだろうが。気になって直接聞いたが、セイラはその女神の名前は知らないと言った。パルマ以外の神は邪神ディメアだけだが、邪神の象徴が花だとは思わなかった。


「共通点がありますわね。私も十七才で死んでしまったんですの」


 パメラは自分の前世、つまりティステのことを簡単に話した。話が進むほど、セイラの表情がダイナミックに変わるのが面白いと思いながら。


 パメラの話が終わると、セイラは茫然自失して口を開いた。


「ティステ……なんて……」


「驚くのも当然ですわ。王子を翻弄して国を手に入れようとした悪女が転生するなんて、本当にバカげた……」


「違いますよ!!」


 セイラは突然テーブルを叩いて飛び起きた。アレクはすぐ一歩踏み出し、剣の取っ手に手を当てた。パメラは手を上げて彼を制止した。パメラの眼差しは少し冷たくなった。


「違うって、何がですの?」


「ティステ様が悪女であるはずがないじゃないですか!」


「え? そっち?」


「当たり前でしょう! ティステ様は一生懸命努力しただけなのに、それを……それを……」


 セイラは拳を握りしめながら震えた。目に涙までにじんだ。パメラは少し戸惑ったが、冷静に指パッチンをして魔法を展開した。心を落ち着かせる魔法だった。


「そう言ってくれたのはありがたいのですが、世間の評価はそういうものなんですの。努めて擁護する必要はありません」


「努めて擁護するのではありません。私は全部見ましたから」


「何を見たということですの? そのゲームというものに私が登場しましたの? 主人公は貴方だから、過去の回想なんかでも……」


「ティステ様は第一作目のキャラでした。私が主人公なのはシリーズの第二作目なんです」


「……シリーズ?」


 セイラの言うことによると、この世界と同じだったというゲームは二作のシリーズだった。


 二作ともいわゆる乙女ゲームと呼ばれるジャンルだった。美少女主人公が攻略対象者と呼ばれる男性たちを〝攻略〟して結ばれるゲームで、主人公を妨害する女性キャラが悪役令嬢と呼ばれる。そして……。


「私が……〝ティステ〟が第一作目の悪役令嬢だったんですって? それにその第一作目の主人公が母上?」


「はい。アディオン皇帝陛下は第一作目の攻略対象者の一人です」


「……第一作目の悪役令嬢が断罪されて死んでたのに、その第一作目の主人公夫婦の娘に転生? 一体誰の頭から出た考えですの?」


「それは私にもわかりませんね。そもそも第二作目でパメラ様には転生者という設定がありませんでした」


 パメラはその第二作目の悪役令嬢の一人だという。つまり、本来ならセイラとパメラは互いに敵対関係になるはずだったということだろう。


「ゲームのパメラ様はもっと権威的な御方でした。悪い意味ではなく、皇女の地位にある人が守るべき一線を徹底的に守る御方でした。だからさっき謁見の間でお会いした時、態度が違うのを見て私のような転生者じゃないかなって思ったんです。そんな内容の小説が地球にはものすごく多いんですよ」


「なるほど。貴方は主人公として攻略対象者を攻略する立場で、私はそれを邪魔する者。それなら私はそれを邪魔しないように大人しくすべきでしょうか? それとも貴方を助ける助っ人になるべきでしょうか?」


「……はい?」


「私は悪役だと言ってましたよね? 特に負けたい気持ちはありませんが、その攻略対象者という人たちには特に興味がありませんもの。見たところ、今の私はまだ会ったこともない人たちのようですし。私は無駄な喧嘩は嫌いですわよ。ですから貴方が男たちを攻略したいのなら、私は一歩下がって適当に助けるようにしましょう」


「……」


 セイラはどういうわけか黙っていた。驚愕した表情を見ると単純に喜ぶわけではないようだったが、悪い提案ではないだろう。パメラは驚きの後ではきっと彼女が喜ぶだろうと思った。


 しかし、しばらくして歪んだセイラの顔は決して喜ぶ表情ではなかった。


「付き合うはずがないでしょう!? そんな浮気者なんかと!!」


 バタンと、セイラはまるで壊そうとしているような勢いでテーブルを叩きつけた。今度はパメラがびっくりした。


 セイラの口は止まらなかった。


「そもそもですね!? ストーリーで言えばそのゲーム、すごく変なクソゲーなんですよ! 公爵令嬢を変な言いがかりで処刑して! 攻略対象者という奴らはまともな婚約者がいるくせに他の女性と浮気をして! 婚約者と仲が悪いから大丈夫だって? それは全部貴様らがゴミだからそうなったじゃない!!」


「あの、セイラさん? ちょっと落ち着いて……」


「考え直してもムカつくわね本当に! そんなゴミを攻略するなんて、全ッ然お断りなんですよ! むしろ修道院に閉じこめられた方が百倍はマシなんです!」


「わかりましただからどうか落ち着いてください!」


 パメラはもう一度心を落ち着かせる魔法を使ったが、セイラの興奮は簡単には収まらなかった。結局それからもしばらく不満をぶちまけた後、セイラはまた椅子に座った。


 パメラは疲れた顔で口を開いた。


「なら、貴方は何をしたいんですの?」


―――――


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