転生者たち

 まるで背筋が凍りつくような感覚だった。


 パメラは質問の意味を理解した。理解したので驚愕せざるを得なかった。パメラというのは、つまりセイラも……。


 パメラはすぐに決心を固めた。


「父上。しばらく聖女様とプライベートな席をもらってもよろしいでしょうか?」


「ふむ? 構わないが……急に聖女に興味を示すとは。何の耳打ちだったのか気になるな」


「……終わってからお話し申し上げてもよろしいでしょうか?」


「はは、冗談だ。少女たちの秘密の話を盗み聞きするつもりはないから安心しなさい。デリアード男爵、セイラさんがよければ、余の娘の提案を受け入れてくれ」


「はい、もちろんです。セイラ、大丈夫?」


「はい」


 セイラはどういうわけか決然とした表情だった。アディオンとデリアード男爵は彼女が緊張していると思っていたが、パメラだけは何か違うことを感じた。


 その〝違う〟が何なのかは、今から調べるべきことだろう。




 ***




 衛兵がパメラたちを皇城の庭園に案内した。花が多くはなかったが、茂みの所々にまるで差し色をつけるように色とりどりの花が適当に咲いている所だった。ティータイムのためのテーブルもいくつかあった。


 衛兵が庭園の入り口に移動した後、庭園の中にはパメラとセイラとアレクだけが残った。


「ここは皇城の庭園ですの。屋外ですけれど、必要に応じて防音魔法で内部の会話を隠すことができますわ。必要ですの?」


「殿下に失礼でなければ……」


「気楽にしてほしいと何度言ったら聞いてくれますの?」


 パメラは苦笑いしながら指パッチンをした。庭園の防音魔法が発動した。アレクは二人のために椅子を動いた。パメラはすぐに座ったが、セイラはアレクをちらりと見てグズグズしていた。


「どうしたんですの?」


「騎士さんも一緒ですか?」


「はい。ダメな理由があるんですの?」


「えっと……話の内容が内容ですから」


 パメラはすぐに理解し、微笑んだ。


「大丈夫ですわ。どうせ話してあげるつもりでしたから」


 ちょうどアレクに転生について話すか迷っていたパメラにとっては、今回のことはいい機会だった。見習いなので謁見の間に出席できなかったアレクはわけがわからないような顔をしていたが。


 パメラはセイラが椅子に座るとすぐに口を開いた。


「前もって言っておきます。いちいち私に発言を許されずに、気楽に自由に話してください。この場では皇女ではなく、ただの同年代の友達だと思ってもいいですわよ」


「……」


 しきりに慎むセイラの態度を考慮して言ったことだが、セイラは依然として簡単に話さなかった。ただ、今回は自分が皇女だから控えるのではないと、パメラはなんとなく思った。


 セイラは一分ほど経ってから口を開いた。


「まずはさっきの質問の答えを聞きたいです」


「はい、そうですわよ」


 一秒の遅れもない即答だった。セイラは少し違う意味で戸惑った。パメラは苦笑いしながら続けた。


「そんなことを質問するということは、貴方も転生者だからだと思っていいですの?」


「はい、そうです」


「驚きでしたわ。私自身の転生も驚きでしたけれど、まさかこんな風に仲間に出会うなんて」


「私も驚きました。前世のことは話すこともできなかったし……話してみても誰も共感できないでしょうから」


 パメラは頷いた。前世だとか転生だとか言っても、人はただ頭がおかしくなったとだけ思うだろうから。


 同じ境遇だと知ったおかげか、セイラの緊張感が目立って和らいだ。態度もいっそう自然になった。


「セイラさんは前世でどんな人でしたの?」


「私は……生徒でした。平凡というには少しイライラ……変な人生でしたけどね」


 今イライラと言ったみたいだけど。


 パメラはセイラの発言がとても気になったが、一旦彼女の言葉に耳を傾けた。


「いろんなことで友達がいなくて一人でゲームばかりするのが趣味でした。おかげで転生後もなんとか適応できましたけど」


「ゲーム? ソリテアとかしましたの?」


「ただのパソコンゲームでした」


 パメラは首をかしげたが、深く掘り下げることはなかった。世の中には自分が知らないことが多いんだなと思っただけ。


「殿下はいかがでしたか?」


「私は……まぁ、前世でも高貴な身分でした。裏切られて死んでしまったけど」


「裏切りだなんて、いったいどうして……」


「婚約者だった王子様が私に濡れ衣を着せられましたわ」


「婚約……王子……?」


 セイラは当惑して単語を呟いた。じっくり聞いていたパメラは、彼女が何に当惑しているかに気づいた。


「王族との婚約がそんなに当惑でしたの? そもそも王族が婚約なしで結婚することはほとんどありませんけれども」


 パメラが知る限り、この世界には王政国家しかない。君主の立場や国の大きさによって帝国や公国という区分程度はあるが、形態から見れば全部王政に過ぎない。王族と縁のない人生を生きていく人でも、王族と婚約の概念程度は知っている。


 パメラは何も考えず、純粋な疑問で口を開いた。


「貴方、前世でどこの国の人だったんですの?」


「私は日本です」


「……ニッポン? それはどこですの?」


「え?」


 セイラは最初はわけがわからないという表情だった。しかしすぐ何か思ったようにハッと驚いて、だんだん驚愕の表情に変わっていった。まさか、そんなはずがと呟きながら。


「あの……殿下はどこの国でしたか?」


「今と同じくアルトヴィアでしたわよ。あの時は王国でしたけど」


 セイラは口をポカンと開けて絶句した。ようやくパメラは何かがおかしいと感じた。


「どうしたんですの? もしかしてあの……ニッポン? という所を私が知らないからでしたの? 無礼だったらお詫びします」


「いいえ……違います。知らない方が当然ですから。日本はこの世界の国じゃないんですよ」


 パメラの眉毛がビクッと上下した。今の言葉の意味がわからないほど鈍くはない。


「まさか貴方、別の世界から来たということですの?」


「はい」


「そんなことができるんですの?」


「私も実際に経験する前は不可能だと思っていました」


 今度はパメラが言葉を失った。


 二人は同時に同じ考えをした。話したいことがとても多いと。


―――――


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