罪人の手記
「どうしたんですの? 何か見つけたんですの?」
「はい。魔法のことではないのですが……少し気になることがありまして」
パメラはアレクの所へ歩いて行った。彼はとても古い本を持っていた。タイトルもない本だったので、パメラは思わず眉をひそめた。
今日の表面的な目的は、新しい力やより強くなる手段を見つけるためだ。そして……アレクのために魔族と半魔族に関する情報を探すという目的もあった。秘密の書庫なら魔族について詳しく扱う本もあるかもしれないから。表面的な目的とはいえ、そちらもそれなりにパメラの本気だった。
しかしアレクが持っている本は、その表面的な目的に合致するものではないようだった。
「それは何ですの?」
「その……誰かの手記のようです」
「手記? そんなのが秘密の書庫に?」
ここに保管されているのは危険な禁書と魔法書、そして対外的には公開できない機密文書のようなもの。そんな場所に保管されている手記なら、何か重要なことが記録されているかもしれない。 パメラの本来の目的には合っているかもしれないが、表面的な目的とは程遠い。
そして、そういうこととは別に……なんとなく見慣れた表紙だった。タイトルも作家の名前もないのに。
「誰のものかわかりますの?」
「いいえ、名前などは書かれていませんでした」
「あら、でもなんであえてこれを?」
「その……殿下が見なければならないようですので」
アレクの態度はなんとなく釈然としなかったが、パメラはあまり気にせず手記を受け入れた。そして最初のページを開くやいなや固まった。
洗練された、少し傾いた書体。古くて色あせた紙に沿って少しにじんだり消されたりもしたが、記憶するのに問題はなかった。そして彼女が見分けがつかないはずがない書体だった。ティステとしても、パメラとしても。
なぜなら、それはパメラの父……つまりティステの元婚約者、アディオン皇帝の筆跡だったから。
「……!!」
パメラはアディオン皇帝の過去を考えながらページをめくった。
ティステとして記憶する彼は、いつも見聞きしたことを手記として残す癖があった。時にはその手記に関していろいろな話を交わしたりもした。 これはその手記の一つであると、パメラはすぐにわかった。
『学園でティステ公女に会った。相変わらず美しく気品のある彼女が私の婚約者だということがまだ信じられない』
開いたページの最初の内容はこうだった。
この国の貴族たちは皆、年になると名門学園に入学し、学ぶ機会を楽しむ。この手記はアディオン皇帝が王子だった当時、学園で書いたものだと、パメラはすぐに理解した。
学園での手記。つまりティステを騙し、リニアと一緒にティステを裏切った憎らしい時期の手記だ。
……ところで。
『優しくて聡明な彼女が未来の妻だということが嬉しい』
『彼女なら私が王位に就いた時も一番良い助力者になってくれるはず』
『聖女のリニアも言った。私の傍を守ってくれる人はティステ公女以外にはいられないと』
これは何だろう。
ティステに関する話が出ると、必ずアディオン王子の称賛と好感が一緒に出てきた。しかも聖女リニアは二人の未来を心から祝福していた。何も知らない人が見ると、王子と公女のピンク色の恋物語を想像しながら顔を赤らめるほど。
しかし……この話の結末が裏切りと処刑だということを、他の誰でもなくティステ本人が知っているのに。
それでもパメラは少し驚いた。ティステは人間的な好感はあったが、異性としてアディオンを愛していなかったから。ところが手記を見ると、アディオンは次第にティステにハマっていた。そんな彼がなぜ裏切ったのか理解できないほど。
しばらくピンク色だった手記の空気が変わったのは――テリベル公爵の話が出てからだった。
『テリベル公爵が謀反を企てる証拠を確保した』
謀反。想像もできなかった単語にパメラは一瞬固まってしまった。彼女が覚えているテリベル公爵は娘を王家に嫁がせて権力を掌握しようとする人間ではあったが、公然と反逆を起こそうとする人ではなかったから。
『王家に不満を持った勢力がテリベル公爵派に合流している』
『彼はイメージが良すぎ』
『中道派が彼の扇動に騙されている。このままでは危ない』
手記にはアディオン王子が確保した証拠に対する具体的な話まであった。ティステであるパメラもそれを見て信じてしまうほど。
しかし、アディオンは希望を捨てなかった。
『ティステは公爵の逆心を知らない』
『公爵は娘の反対を恐れて娘にも逆心を隠した』
『ティステが無関係であるという確実な証拠を確保した。彼女は大丈夫』
反逆者の娘を妻として迎えることはできないと絶望しながらも、何とかティステを守るために血眼になった文章。ますますパメラはこれがアディオンの手記であるかどうか疑問に思った。
そんな時、決定的な局面が近づいてきた。
『ある日、悪魔のささやきが聞こえてきた』
『いや、悪魔なんていない。ただ悪魔のような考えをしてしまった私の罪を、架空の存在に押し付けようとしただけ』
『テリベル公爵派を弱体化させる方法だ』
アディオンは自分自身を責めた。いや、それは責めるほどではなく呪いだった。まるで親を殺した敵に浴びせるような呪いを、アディオンは自分自身に浴びせた。
その理由は……すぐ出た。
『ティステを公爵の共謀者にし、罪人として公開処刑する』
『公爵派の核心はティステのきれいなイメージと王家への反発心』
『公爵の謀反の証拠をティステに被せ、彼女を不名誉に処刑することでイメージを汚す』
『リニアが心から怒った。どうしてそんな悪魔のような考えができるのかと。ティステに罪がないということを知っているのに、どうしてそんなことをするのかと。ティステのために泣き出した彼女を見て、私も涙を流してしまった』
その後は……あえて見るまでもなかった。しかし、パメラは読み続けた。
アディオンは公爵派を倒す別の方法を必死に探した。だが、公爵派の勢力を大きく弱化させなければ謀反を防ぐことができず、内戦が手に負えないほど大きくなると判断し、結局計画を実行することを決議した。
その結果、ティステは亡くなり、テリベル公爵家は絶滅した。
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