パメラの心配
手合わせ自体はアレクの勝利だったが、それは経験と熟練度の違いからだ。魔法の使用能力自体はパメラが圧倒的だというのがアレクの考えだ。
何よりも、アレクはまだ魔法を使うたびに呪文を詠唱する。本来魔法に呪文は必要ではないが、術式を早く構成するための自己催眠の手段として詠唱が使われる。詠唱なしに魔法を使うということは、それだけ魔法の使用に熟練したという意味だ。ところが、パメラはこれまですべての魔法を詠唱一言もなくあっという間に駆使した。
「もっと適切な魔法を適材適所に使う方法を身につけたら、自分が負けたはずです。それくらい魔法駆使能力自体はレベルが高いです。自分が勝ったのは、ただ経験と慣れの違いのおかげでした」
「貴方が私と同じレベルになったら、貴方ははるかに強くなりますわね」
「殿下こそ練習と経験を重ねれば、騎士とも十分戦えるようになるでしょう」
「……フフ。このようにお互いにほめ合うだけではきりがないですわね」
どちらにしても、才能があるということはいいことだ。皇女であるパメラが自ら乗り出して戦うことがどれほどあるかは分からないが、もしかしたら皇帝と戦うことになるかもしれない彼女としては自分でも他人でも力は多多ますます弁ずだから。
それに……もう一つ心配事が追加されるから。
「もうすぐ新しい『神聖』の聖女がいらっしゃるそうですね。『万能』の殿下と『神聖』の聖女の出会いも楽しみです」
ちょうどアレクは心配事について話した。
「『神聖』の聖女……ですね」
「そういえば皇后殿下も『神聖』の聖女でしたね。そして皇帝陛下もすごい適性を……やはり殿下が『万能』の適性を覚醒されたのは偶然ではないようです」
「……それはどうでしょうか」
パメラは苦笑いした。そもそも『万能』はティステの適性だっただけだから。むしろティステの両親は適性に恵まれなかった人々だった。それに〝パメラ〟にはもともと別の才能がある可能性も発見されたし。
アレクはパメラの表情を見て首をかしげた。
「何かあったんですか?」
「貴方は聖女をどう思いますの?」
「大事な方です。何より『神聖』は女神パルマが唯一直接お授けになる特別な適性ですから。それにその能力自体もすごいし」
この世界の一般的な常識通りだった。パルマ教の影響力が絶対的なこの国でパルマが直接授ける『神聖』の意味は特別だ。そのため、アルトヴィア王国では代々聖女を確保し保護することが重要だと考えた。パメラの母であるリニア皇后がそのように抜擢され、アディオンとティステの傍に接近した者だった。
……その聖女が王子と一緒に自分を裏切った主軸だったということから、パメラは聖女に対して複雑な思いをしている。急いで剣術を学び、アレクと手合わせして自分の可能性を確認したのも、新しい聖女との関係がどうなっても対応するためだった。
しかし、適性そのものに罪はない。そして『神聖』は魔物との戦いや人々の治癒に非常に大きな影響を及ぼす。リニア皇后もティステを裏切ったことを除けば聖女としての役割をよく遂行した。今度の聖女がその職位に相応しい者であることを願うことだけが、パメラにできる唯一のことだろう。
考えていたパメラは突然意地悪になった。
「ティステ公女のことはどう思いますの? 貴方は『万能』を高評価してくれましたけれど、悪女ティステの適性でもありましたわね」
「悪女ティステのことですか?」
王子を利用して国を掌握しようとした悪女。当然そのような評価が出るとわかっていたので、パメラはあまり期待していなかった。だがアレクがそんなことを言うと思うと、胸の片隅が少し痛かった。
……私の騎士が前世の私の悪口を言うのが気に入らないからだろう。と、パメラは自分の感情をまとめた。
アレクはパメラがなぜそんな質問をするのか疑問に思ったが、真剣な顔で口を開いた。
「世間では悪女と言われますが……よくわかりません。そんなに悪い人なのか? という感じがあります」
「……え?」
意外だった。前世の記憶を思い出した後に調べたのだが、ティステの評判は深刻だったから。パメラはアレクも当然それを信じていると思った。
「自分だけの考えではありません。当時の状況では、ティステ公女が公爵の陰謀に積極的に加担したという疑い……その証拠や情況に疑問が多いんです。騎士団にはそう思う騎士がかなり多いです。今さら真相を明らかにしようとしても証拠を集める方法もなく、すでにテリベル公爵家が完全に絶滅してしまったところなので意味もないのですが」
「そう……ですか」
「『万能』がティステ公女の適性だったという理由で殿下にも疑わしい視線を投げかける者がいることは知っています。しかし、そんな視線なんてお気になさる必要はございません。ティステ公女の真相は不確実だし、適性が同じだからといって同じ人間というわけではありません。殿下はあくまで殿下です。殿下の努力で自らをご証明なさればいいだけです」
パメラは顔を背けてしまった。涙が出そうで、そして顔がなぜか熱くて、それをアレクだけには見せたくないと思った。その理由がわからなくても。
彼女の気持ちを知らないアレクは穏やかに微笑んだ。
「適性のせいで過去の人の影を見るなんて、すぐに消えるでしょう。殿下ならそのようになさることができると信じています」
「……ありがとうございます。本当に」
「とんでもございません」
パメラは両手で頬をパンッと叩いた。今は訳もなく恥ずかしがる時ではない、やるべきことは多いと気を引き締めた。ちょうどやるべきことを思い出した。
「貴方の信頼に応えるためにも、やりたいことがありますわ。ついてきてくれますの?」
「自分は殿下に従う騎士です。殿下がどこに向かおうと、自分はついて行きます」
「フフッ、ありがとう。それでは数日後にまたお呼びしますわよ」
パメラは計画を考えながら微笑んだ。
今日の成果を続けていく良い機会だと思いながら。
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