皇女の剣
アレクにとって、パメラ皇女は理解しがたい人だった。
アレクの母は魔族だった。父と母はお互いを心から愛し、種族の壁を越えた愛は実を結んだ。しかし、その壁を越えたのはあくまでも二人だけだった。アレクの母は常に正体を隠して暮らさなければならなかった。
そんな母の正体がバレてしまったのは、幼いアレクの未熟さのためだった。
伯爵家の息子だが、父について騎士になろうとしたアレクは活発だった。一緒に騎士になろうと切磋琢磨する友人たちと一緒に遊ぶのが彼の楽しみだった。しかし、町の外で遊んでいたある日、魔物がアレクと友人たちを襲撃した。そしてアレクが友人たちを守るために力を高めた瞬間、彼の二重適性が発現してしまった。
その後はあっという間だった。魔物はアレクの力で退治したが、彼の血統を知った大人たちが蜂起したのだ。複雑な過程の末、結局丸く収まった。……真実を知った皆の記憶を消し、母がタルマン伯爵領を去ることで。記憶が消えた友人たちもまた、万が一の可能性を遮断するために一生会えなくなった。
その事件で友人と母と生き別れになったアレクは、自分の力を抑えることだけに専念した。感情を表に出さないように努力するのも、感情によって暴走する力を抑えるための一環だった。そんな彼だったので、ためらうことなく魔族に対する悪感情がないと断言するパメラが気になった。
過去の出来事の後、アレクには目標ができた。しかし、その目標を達成することはあまりにもはるかで、自分の力では成し遂げられないと半分諦めていた。しかしパメラに会い、彼女の話を聞きながら、彼の心に小さな希望の火種が立ち上った。もしこの人なら、と。
……今すぐ気になるのは全く別の理由のためだが。
「本当に大丈夫ですか?」
「何回言わせるんですの? 大丈夫ですわ」
パメラの態度はどこまでも陽気だったが、アレクは依然として心配そうな顔で彼女を見た。
真夜中の帝国騎士団訓練場。正確にはメイン練習場に付属する小規模練習場の一つだった。アレクが毎晩一人で修練する場所でもある。そのような場所に今度はパメラも一緒だった。
本来、騎士団訓練場は常に結界で保護されており、資格と力を備えた者でなければ皇族さえも入ることができない。例外的に許可証があれば出入りが可能だが、皇族でも許可証がもらえるのは指揮や視察のような権限を行使する時だけ。だが皇族として基本的な資格があり、『万能』の適性が力の条件までクリアしたパメラは許可証なしでも自由に出入りできる。
……その自由を利用して勝手に夜の訓練に口出ししてくるのは全くアレクの不本意だったが。
それにパメラは練習用の剣を振り回していた。練習用の剣の中で一番短い剣なのに、パメラにはやや長かった。
「殿下。ご要望通りに剣術の基本をお教えて差し上げましたが、急に自分と手合わせをなさるのは無謀すぎます」
「さっきから同じことを何回言うんですの? 大丈夫ですってば」
アレクは何度目かわからないため息をついた。
アレクがパメラの提案を受け入れた後の数日間、パメラはアレクから剣術や身体強化魔法などの基本を学んだ。それにしても期間も短く、見習いの彼に基本的なコツを教わったくらい。ところが、パメラはそれだけで突然アレクと手合わせをしてみたいと言ったのだ。アレクとしては当然心配せざるを得ない。
だがパメラは平気だった。
「試してみたいことがありますの。そして私の心配はしなくても大丈夫ですわよ」
パメラは胸に手を置いた。輝く魔法陣が現れた。
――防御魔法〈防剣のカーテン〉
「刃を弾く防御魔法を全身に展開しました。ミスをしても私が怪我をすることはありませんよ」
「はぁ……」
結局、アレクは剣を持った。こうなった以上、満足するまで適当に相手にしてあげればいいという考えだった。
しかし、パメラにはそのような軽い遊びで終わらせるつもりは全くなかった。
――動作制御魔法〈剣術発現〉
魔法で強化された足が地面を蹴った。下段に滑り寄ったパメラが剣を振り回した。速くて鋭い剣撃だった。
「っ!?」
アレクは予想外のスピードときれいな動きに驚いた。それでも正確なタイミングで受け流したが、パメラは逸れた剣をすぐに返してアレクの肩を狙った。そしてアレクがそれを避けるとすぐに再び剣を返し、彼の反撃を受け流した。アレクの姿勢が崩れて隙間ができた。
「そこ!」
パメラの鋭い突きを、アレクは素早く剣を返して流した。逆に隙間ができたパメラをアレクの剣が襲った。パメラは剣を握っていない手の甲で剣身の横を殴って流し、剣を引いてアレクの肩を刺した。しかし、アレクはパメラと同じ方式でパメラの剣を再び受け流した。今度こそアレクの剣がパメラの首に突きつけられた。
「一本取られましたわね」
パメラは平然と微笑んだが、アレクは笑う気分ではなかった。
「……本当に自分から学ぶ前に剣をお握りになったことはありませんか?」
「はい。どうしたんですの?」
「初心者にしては動作がかなり完成していましたが」
「そうなんですの? フフ、よくできたみたいですわね」
「……?」
アレクは首をかしげた。しかしパメラは彼の疑問に答える代わりに、剣を握り直して再び姿勢を取った。
「まぁ、それでも身体強化も使っていない貴方に勝てなかったのは明らかですのよ。もう一度お願いしてもいいですの?」
「いくら身体強化魔法を使ったとしても、習ったばかりの剣で見習い騎士と手合わせが成立するだけでもすごいことです。何をされたんですか?」
「それはもう一度手合わせしてからお話ししましょう」
パメラが堂々と話せば、アレクはパメラが訓練場に現れて以来初めて微笑んだ。
「いいです。自分も興味がわいてきます。次はもっと激しく行きます」
「望んでいたところですわ!」
二人は同時に地面を蹴った。二つの刃が鋭く空を切った。
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