談判
アレクは黙っていた。
ただ口を少し開いただけの無表情。恐らくそれが彼なりの表現法だろう。表情は二重適性を指摘した時がもっと強烈だったが、感情は今がもっと強烈なようだ――と、パメラはなんとなく思った。
「二重適性は簡単に見せられるものではないですわね。それだけでも魔族のハーフだということを表す格好ですから。でもあえて二重適性を使わなくても、魔族のハーフは強い肉体と魔力に恵まれていますの。そして何よりも……貴方は自分の力をうまく調節していますわね。それが見えましたの」
皮肉なことに、それは力を隠さなければならないからだろう。
魔族のハーフは生まれ持つ力が強い。だがその力を制御するのに苦労する。そしてミスで暴走したりすると、すぐに正体がバレてしまう。だから秘密を守るために力を抑える方法を身につけるしかなかったのだろう。
経緯はともかく、パメラにとって重要なのは彼の才能と能力だ。
一方、アレクは静かに目を伏せた。少し長い前髪が両目の上に垂れ下がった。妙に神秘的な感じがかなりきれいで、パメラは思わず微笑んだ。すぐにハッと驚いて首を横に振ったが。
やがてアレクは顔を上げた。
「殿下は魔族をどう思っていらっしゃいますか?」
「そうですね。私は純血の魔族を実際に見たことがないのでわかりません。でも少なくとも、人間と同じように喜怒哀楽を感じ、大切な者を大切にしてくれる存在だということは知っていますわよ。種族だけを理由に存在を排斥するようなことはしたくないですわね」
「ですが……自分を傍に置くなら、殿下の名誉にも傷がつくかもしれません。自分が半魔族であることが知られれば殿下も多くの非難に直面するでしょう」
「そういうの、バレなきゃいいでしょう?」
パメラは指パッチンをした。
その瞬間、アレクは突然体の奥から沸き立つ魔力と熱気を感じた。彼には慣れ親しんだ感じだった。そして一生隠さなければならないものであり……特に、この場では絶対に見せてはならないことでもあった。
「これは!? 殿下、お離れくだ……!」
「結構ですわ」
パメラは再び指パッチンをした。するとアレクの体内で沸き立っていた熱い魔力が静まった。アレクの目に疑惑が浮かんだ。
「これは……まさか?」
「貴方の魔力を暴走させることも、その暴走を鎮めることも私には簡単なことですの。どういう意味か分かりますの?」
「……自分には選択権がないということですか?」
「違いますわよ!? 私がそんなに悪い人に見えますの?」
パメラは思わずかっとなってしまった。アレクだけでなく護衛の騎士たちまでびっくりした。だが、護衛たちには防音結界の偽対話が全て聞こえているので、彼らが見るにはただパメラが一人で突然怒ったとしか見えないだろう。アレクを制止しようとしないのがその証拠だ。
「……ごめんなさい。恥ずかしい姿をお見せしましたわ」
パメラは咳払いをした。アレクは黙って彼女の姿を眺めていたが……しばらくして、小さく笑い出した。
「……フッ、ブフッ……」
「あざ笑わないでください。恥ずかしいですわよ!」
「いいえ……あざ笑っているのではありません。ただ、その……思ったより面白い御方なので……」
「それがあざ笑うことでしょう!」
このままでは対話は進展しない。そのように判断したパメラは、もう一度咳払いをして表情を引き締めた。
「とにかく、もし貴方が断るとしても、貴方の秘密を漏らすつもりはありません。それだけはご安心ください」
「では、なぜ自分の二重適性を指摘されたのですか?」
「一つ目は、貴方の本当の力と才能を知っていることを確認させるためですの。二つ目は……貴方にとってのメリットを教えたかったんですわよ」
「自分にとってのメリット、ですか? 見習い騎士として皇女殿下を補筆するだけでも、またとない光栄です。身に余るほどです」
「そんなことないですわよ。言ったでしょう? 貴方の暴走を鎮めることも私には簡単なことだと」
パメラはアレクの手に視線を向けた。
鍛えられた騎士の手。まだ幼いが、その手は十分に強かった。だが……その手が魔力をどのように扱ってきたかが見えるパメラには、非常に気の毒に感じられる手でもあった。
「貴方はあくまでも自分の力を抑えて制御する形で修練をしてきましたわね。でもまだ完全ではないですよね?」
「そうです。だからこそ危険なのです」
「でも半魔族は感情が激しくなると思わず力が暴走すると聞きましたわ。それをただ抑えるだけではいつまでも力を扱うことはできません」
ようやくアレクはパメラの意図を理解した。
理解し、戦慄した。
「力をより効果的に制御する方法を身につけ……危険な瞬間が来たら、殿下が直接自分の力を抑えてくれるということですか?」
アレクにとっては願ってやまない助けだ。
正体がバレないように肝胆を砕いた彼は、半魔族としての力をただ抑えて封印しただけ。そのため、彼は〝人間としての力〟の使用には長けているが、〝魔族としての力〟の使用は下手だ。力を正しく扱えるようになればきっと役に立つと思ったことはあるが、暴走の危険のため練習さえまともにできなかった。
しかし、もしパメラが本当に彼の力を代わりに抑えてくれるなら。
「理解しました。ただ……なぜそこまでしてくださるのですか?」
「私は貴方の力と才能が欲しいですわよ。だから貴方を私の人に……私のものにしたい。皇女として、貴方は逃したくない宝物だから。 それで納得できませんか?」
パメラの笑顔は魅惑的だった。パメラは悪女のような微笑を浮かべたと思ったが……その笑顔に固定されたアレクの視線が何を感じているのかは分からなかった。
しばらくしてアレクは再び口を開いた。
「殿下が自分にそこまで期待しているのはまだよく理解できません。提案してくださった席も自分には過分です。しかし……殿下の恩寵に頼ることを、どうか許していただきたいと思います」
「いい選択なんですの」
パメラはアレクと握手を交わした。
これにより、彼女の〝道〟がさらに一歩進むことになった。
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