騎士との話

「このように直接お目にかかれて光栄です、パメラ第一皇女殿下。どんなご用件で自分をお呼びになりましたか?」


「あら、堅いですわね。もう少し楽にいても大丈夫ですわよ」


 パメラは微笑んだが、アレクはまだ緊張しているようだった。まぁしょうがないわねと思いながらも、パメラは彼を安心させるためにできるだけ穏やかな笑顔を維持した。


「緊張すること、わかります。見習い騎士の貴方が急に皇女に呼ばれてしまったら、何が起こっているのか不安になるのも当然でしょう。皇女にどう接すればいいのかも悩ましいでしょう。それを知ったら呼ぶな! と思ったら、言っても大丈夫ですわよ?」


「ち、違います。そんな無礼なことは少しも考えていませんでした」


「ふふ、うそ。貴方の表情がかなり分かりやすいですわよ」


「……?」


 アレクは少し首をかしげた。分かりやすい表情というのがそんなに意外だったのか。


 パメラはアレクに実際に会う前に聞いた評価を思い出した。いつも大人しく、感情を表に出さず、考えが分かりにくいが丁寧で礼儀正しい見習い騎士。確かに今も表情の変化は少なかった。しかし微妙な変化でも、パメラは妙に彼の考えがよく感じられると感じた。


 こういうのを心が通じたって言うのかしら? というゆったりとした考えを後にして、パメラは本論を切り出そうと口を開いた。


「実は他でもなく、貴方の力を借りたくて騎士団長に要請しました」


「皇女殿下のお役に立てば、何でも光栄です。おっしゃってくださいませ。お困りごとがございますか?」


「一時的なことではなく、継続的な用がありますの。貴方、私の傍で働いてみるつもりはありませんか?」


「傍で、ということは……?」


「その通りですの。貴方を騎士として私の傍に置きたいです。今後、もし貴方が資格を持つなら、私の近衛になるかもしれません」


 アレクはやっと目を丸くした。表情の変化が少ないと評価される人でも、これだけは驚くしかないだろう。


 事実上、騎士として傍に置くということからが直属の近衛に準ずる立場だ。その上、今後直属の近衛にすると公言まで。見習い騎士として入団したばかりの彼にとっては驚くべきだろう。嬉しいよりも意図を先に疑うほど。


「本当に光……栄です。しかし理由を伺ってもよろしいでしょうか。自分はまだ入団したばかりの見習い騎士に過ぎません。そんな自分を急にそんな職位に重用されようとなさる理由は何でしょうか?」


「貴方には才能がありますわよ。そして訓練に臨む姿勢もとても真剣でしたわね。才能と努力を備えた者を傍に置こうとするのはおかしいことではないでしょう?」


「身に余るお言葉ありがとうございます。しかし……本当に申し訳ありません。自分をなぜそんなに高評価されるのか理解できません。騎士団長がそのように評価しましたか?」


 パメラが見抜いたことだと言っても信じられないだろう。せいぜい十才の皇女が騎士の才能云々すること自体が本来なら、つまらない言葉として片付けられても言うことがないだろうから。


 しかし、パメラは平凡な皇女ではない。


「私の適性については聞きましたの? 私は『万能』の適性者です。私が使える探知魔法の中には、魔力の流れをとても詳しく見ることができるものもありますの。貴方が身体を強化するために扱う魔力の流れと魔法を剣術に取り入れる方法、そしてそれを効果的に展開する技術など。とても洗練されて強さが感じられる方式でしたわ。私も魅了されました」


「ですが、それくらいは騎士なら当然のことです。むしろ自分よりはすでに実力が検証された本隊の騎士を要求された方がいいのではないでしょうか?」


「当然のことにも熟練度の差があるものですわよ。貴方には見習いらしく未熟な部分もありましたけれど、むしろ本隊の騎士よりも優れている部分もありましたの。私はその部分に注目しました。そして……」


 パメラは机を指で軽くたたいた。小さな魔法陣がそこに展開された瞬間、目に見えない小さな結界が二人を包んだ。隠密で優雅な防音結界だった。それも音を隠すだけでなく、偽りの音に代替することで防音ということ自体を隠す魔法だった。


 アレクは結界の正体に気づき、再び驚いた。わずか十才の皇女が使ったというには、あまりにもレベルの高い結界と使い方だったから。


 しかし、パメラがこれから言うべきことに比べれば、それほどの驚きは何でもなかった。


「貴方、二重適性の保有者でしょう?」


「……!!」


 アレクの表情に驚愕が広がった。すぐに収拾したが、パメラは彼の目が一瞬護衛の騎士たちに向けられるのを見逃さなかった。


「心配しないでください。防音結界のおかげで騎士たちには聞こえなかったですの」


「どうやって……お分かりになりましたか?」


「言ったでしょう。魔力の流れを〝とても詳しく〟見ることができる探知魔法を使ったって。『万能』は貴方の想像以上に強い適性ですわよ」


 アレクはさっきとは違う意味で緊張した。


 二重適性。その名の通り、適性が二つある人のことだ。本来適性は一人当たり一つが大原則。その大原則に例外はない。純粋な人間なら・・・・・・・


「自分を……追放されますか? 処刑されますか?」


「極端ですね。言ったでしょう。貴方を私の傍に置きたいって」


「なぜですか? 殿下は……」


「貴方が魔族の混血であることを気にしないかって?」


 この世界には人間の安全を脅かす存在がある。


 最も代表的なのが魔物。原始的な方式で魔力を扱い、普通の動植物とは格が違う力で人間の安全を脅かす生物体。そしてその魔物さえ圧倒し、人間を圧倒的に凌駕する力を持つ種族が魔族だ。


 魔族は強さ以上に脅威として認識される存在。過去の種族間の戦争以来、人間は魔族を極度に恐れる。魔族という理由だけで子どもでさえ容赦なく殺そうとするほど。


 多重適性はその魔族の特徴である。二重適性はすなわち、その魔族の血が混ざったことを意味する。


 しかし、パメラは鼻で笑った。


「そんなくだらない差別主義は私の知ったことではありません。能力のある者をそんなことなんかのために排斥するなんて、それこそバカなことですわよ」


―――――


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