進むための準備

「ところで疑惑を提起した一派は結局どんな人たちだったんですの?」


「……確かではありませんが、学園でティステ公女の学友だったそうです。もし公爵の野望を共にしていたティステ公女が在学中に言いくるめたのかもしれません」


 ティステが死んだ後に動くなんて、意味がない。パメラはそう思って鼻を鳴らした。


 ただし、彼らも仕方なかったのかもしれない。当時はアディオン王子がティステの処刑を主導していた。そして王家の力量がそこに集中した。反対派の意見を黙殺し、行動さえ制圧するのも難しくなかっただろう。そして処刑が執行された後になってようやく無念でも晴らそうとした、という話かもしれない。


「面白い話でしたわ。ありがとうございます。ところで大丈夫ですの?」


 パメラは衛兵に横目を使えながら尋ねた。そのような話をしたというのが皇帝の耳に入ったら危険ではないか、という問いだった。教師も理解して苦笑いした。


「大きな問題はありませんでしょう。私の心配などは必要ありません。すでに申し上げましたが、私はただ歴史の中に存在した一つの観点を申し上げただけです」


「……それなら幸いですけど」


 釈然としないことはあったが、パメラは別にそれ以上突っ込むことは考えていなかった。教師の話は十分有益だったし、今の彼女にはそれで十分だった。


 ティステと公爵のつながりは不確かだった。それでも王家はそれを黙殺して隠そうとした。……このような流れだったら、王家は……アディオン王子はティステの無実を知っていたかもしれない。あるいは処刑当時は知らなかったが、その後事実を知って隠蔽しようとしたとか。どちらにせよ、〝ティステ〟としては容認できない問題だった。


 しかし〝パメラ〟としては複雑な心境だった。彼女はティステが前世の自分だったことを、その記憶が自分のものだということを受け入れている。だがパメラとして生きてきた自我は相変わらずだった。そしてパメラにとってアディオンとリニアは優しくて良い両親だった。


 ……だが、過ちがあるなら罰せられるべきだということもまさにその両親に教えられた。


 露骨な復讐になるかはまだパメラ自身も知らない。でも少なくとも罪があるなら罪の償いをさせよう、と。パメラが心を決めた瞬間だった。




 ***




 罪の償い。言うのは簡単だが、そのためには絶対的に必要なものがある。


 それは――力。


「ようこそいらっしゃいました、パメラ第一皇女殿下。殿下の最初の騎士団視察を補佐できて光栄です」


 帝国騎士団視察。騎士団の日課と訓練を見学すること。これまで皇女としての勉強だけに集中してきたパメラの初の公式日程でもあった。


 自らも、そして人脈や権力の面でも力不足のパメラなので、初の公式日程をこれに決めた。


「ありがとうございます、騎士団長。民を守護する騎士団の姿を拝見できて、こちらこそ光栄ですわ」


 騎士団長は秋空のように青い髪と瞳を持った美男だった。しかし、その体格はしっかりしていて、顔もまた線が太く、男らしい彫像のような印象だった。そして裾の隙間や顔から見える傷跡が彼の経験を推察させた。


 そんな強靭な彫像のような顔が苦笑いを描いた。


「……やはり。確かに見違えるほど変わりました」


「あら、相変わらず辛辣ですわね」


 当然だが、騎士団長は問題児だったパメラの行動をある程度知っている。そして、そのようなパメラに躊躇なく直言するほどの性格と権限を持つ者でもあった。過去のパメラはそのような騎士団長をかなり恐れていた。


 ……いや、怒ると怖いのは今も同じだけど。そう思っていることはパメラの小さな秘密だ。


 その騎士団長が今は穏やかに微笑んでいた。


「恐縮ですが、いよいよ皇女として立派になろうとされているようで嬉しいです」


「騎士団長の忠告のおかげですの」


「ありがたいお言葉ですが、今の殿下の姿は私のつまらない忠告ではなく殿下自身のご尽力による結果でしょう」


「フフッ、リップサービスが相当ですわね。けれども、私の過去に恥ずかしい部分があったのは事実ですの。そして騎士団長をはじめとする何人かの方々が私がより良い人になるよう努力してくださったのは事実でしょう」


「……本当に……成長しましたね」


 騎士団長の目が嬉しそうに細くなった。実はパメラとしてはちょっと微妙な気分ではあったんだけれども。丁寧に言ってはいるが、考えてみれば騎士団長は「確かに以前は問題が多かった」と言うも同然だったから。パメラも自ら認めているので、騎士団長の態度についてはいつもそうだったという考えだけで黙認している。


「それにしても、そろそろ視察に行きましょう」


「かしこまりました。訓練場へご案内いたします」


 広い訓練場が一望できる高い所だった。騎士たちは剣と乗馬、弓、そして魔法などを練習した。時には騎士同士の手合わせもあり、集団戦を想定した大規模な模擬戦もあった。


 その途中、一つの道具がパメラの目を虜にした。


「あれは何ですの?」


 片手に入られる大きさのL字道具だった。それを標的や敵に向けると、先端から魔法が発射された。威力は強くなかったが、魔法の構成と発射速度がかなり印象的だった。


 パメラは前世で使われた探知魔法で道具の魔力の流れを観察した。魔法構成のほとんどを道具が担っていた。魔法は魔法使いが使うもの、ティステの時代はそれが常識だったのに。


「あれは銃という武器です。攻撃魔法を素早く構成して発射できるようにします。まだ威力が十分ではありませんが、魔法の熟練度が低いでも早く発動できるというメリットがあります。それでも騎士団のメインはまだ剣で、銃の威力不足は結局個人の魔法能力で補うしかありません」


 便利で強い武器、ぜひ扱ってみたい。そのような考えをする一方、パメラは一人の騎士に視線を集中していた。


 多くの騎士の中でも彼女の目を引くのはたった一人の騎士だった。


―――――


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