怜悧な困り者

 赤い髪の毛と瞳。目つきの悪い顔は一見荒々しく見えたが、別に見れば凛々しい印象もあった。そして全体的にはとても美しい美少女だ。


 それが十才の皇女、パメラ・ハリス・アルトヴィアの容姿。よく知っている自分の姿だが、パメラは鏡の中の自分を見て改めてため息をついた。


 前世の自分とはまったく違う、というのが率直な感想だった。ティステも美しいと褒められた方だったが、全体的に優しい印象だったから。その上、その外見が誰に似ているのかを考えると、さらに憂鬱になる。


「はああああ……」


 長いため息が流れた瞬間。部屋にいたメイドたちがびっくりした。彼女らの表情には戸惑いと警戒心がこもっていた。


 パメラにはなじみのある反応だった。そして責める気はなかった。考えてみれば完全な自業自得だから。


 パメラは考えてみれば私も本当にバカみたいだった、と思いながら首を横に振った。変ないたずらをしながらメイドたちを困らせるのが彼女の趣味だったから。勝手に重懲戒を下したりはしなかったが、ひどい目に遭わせたり些細な嘘で軽い懲戒を受けさせる程度は日常茶飯事だった。いや、むしろ積極的に制裁を受けないようにわざと子供のいたずらレベルを維持することもパメラの困難なところだった。よく言えば怜悧で、悪く言えば困り者だ。


 致命的ではないが、あからさまに言うにはちょっとアレな皇女様。それがメイドたちにとってパメラのイメージだった。


 そもそもなぜこうなったのだろう。前世の記憶を思い出した今、パメラの最大の疑問だった。自慢じゃないが、前世の彼女……公爵令嬢のティステは気品と礼儀を知る理想的な公女として有名だった。皆を尊重し、自分の義務を優先し、模範を示すことができる令嬢。そのため、身分の高低を問わず、彼女は多くの人に愛された。


 ……あの人たちみんな処刑の時にはどこで何をしたのか分からないけどね、と。それも腹が立つと思うパメラだった。


 とにかくそんなティステが生まれ変わった割には、パメラはトラブルメーカーだった。それでもティステの記憶を思い出してからは反省しているが。


 その時、突然部屋のドアがガチャと開き、一人の女性が飛び込んできた。


「パメラ! 大丈夫なの!?」


 若くて美しい貴婦人だった。金糸のような髪はきれいにキラキラし、同じ色の瞳が宝石のように輝いた。ドレスは派手すぎたり、飾りすぎたりする感じが全くなく、ちょうどいいほど優雅だった。しかし、物柔らかくて優しく見える顔が今だけは当惑と心配で染まっていた。


「あ、母上。急にどうされましたの?」


 リニア・メルビン・アルトヴィア。パメラの母親であり、この国アルトヴィア帝国の皇后である。


 リ二アは鏡の前で平然とメイドたちに身支度を任せているパメラを見て少し戸惑った。


「急に倒れたと聞いたけど……大丈夫なの?」


「はい、今は大丈夫ですの。ご心配をおかけして申し訳ありません」


「ううん、貴方が無事であることが何よりよ。体に問題はないの?」


「今は何ともないです」


 リニアは自分で体をかがめてパメラの頭を撫でた。皇后らしくない様子だったが、パメラはこの親しくて優しい母親のことが昔から大好きだった。


 ……あの優しい母親が前世の自分を裏切ったことを思い出した今は、とても複雑な気分だが。


 リニアはメイドたちを見た。するとメイドたちがビクッとした。パメラは彼女たちの反応に首をかしげたが……すぐにその理由を悟った。気づいてみるとため息が出た。


 以前のパメラなら、ここでメイドたちを困らせただろう。「故意ではありませんでしたけど誤って片づけていない物に足が引っかかって転倒しました」とか、〝故意ではありません〟という部分を強調しながらも、さりげなくメイドの失策があったという風に。今は皇帝夫妻もパメラのこのような言葉の大部分が事実ではないということを知っているので形式的な懲戒程度で終わるが、パメラの癖が知らされる前はかなり真剣に大騒ぎになったこともあった。


 今考えてみれば、その時困ったメイドたちには申し訳ないことをしたと思うほど、ティステの記憶と価値観がパメラに影響を及ぼした。


「本当に大丈夫です。何の問題もありません。ただ私が一人で急に倒れただけですの」


 その言葉にメイドたちはもちろん、リニアまで驚いた。パメラはそのような反応に自業自得の苦味をかみしめながらも、イライラしない自分に少し驚いた。前世の記憶を思い出す前だったら、メイドのくせに生意気な反応だと思ったはずなのに。


「むしろ、この人たちは私のことを最後まで心配してくれて、面倒を見てくれました。感謝すべきだけで、責めることは何もありませんでした」


「……そうだったわね」


 リ二アは穏やかに微笑んだ。もう一度パメラの頭を撫でる手が、パメラにはとても暖かく感じられた。


「ありがとう」


 優しく笑ってくれるリニアは本当に嬉しそうだった。パメラもその笑顔に導かれたように微笑んだ。しかし……胸の中では暗い感情が渦巻いた。


 パメラが覚えているリニアはいつも優しくて良い母親だった。皇帝も良い父親であり、夫妻の仲も良い。〝パメラ〟にとって本当に誇らしくて愛する両親だった。


 ……だがこの家族は、無実のティステを裏切り処刑して構成された家族だった。しかもティステはアディオン皇帝の元婚約者。二人が一丸となってアディオンの婚約者に濡れ衣を着せられて処刑し、その二人が結婚した。〝ティステ〟の観点から見れば、二人の隠密な愛のために婚約者だった自分を除去したとしか考えられなかった。


 許せない。そんな感情が湧き出たが、今のパメラには力も知識も足りない。パメラ自らもよく知っていた。


「母上、お願いがあります」


「あら、何かしら?」


「もっと勉強したいです。特に歴史についてです」


 パメラには前世の記憶を思い出した以来、疑問なところがたくさんあった。それを解決するためにはまず、〝ティステ〟が死んで〝パメラ〟が生まれるまでの歴史を知らなければならない。


 これからどうするか……ティステの怒りと悔しさにどう向き合うかは、それを知ってから決めることにした。


―――――


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