転生したら前世の仇敵の娘だった件 ~無念の濡れ衣を着せられて処刑されましたが、濡れ衣を着せた張本人たちの娘に転生しました。だから前世で失ったすべての幸せを取り戻します~

ヒース@『最強の中ボス公女の転生物語』

第一章 新しい縁の始まり

プロローグ 令嬢の末路

〝お前は悪だ〟


 呪いのように頭に刻まれた声があった。


 


 ***


 


「罪人ティステ。最後に言いたいことはあるのか?」


 信じられない。――それがティステ・ハリス・テリベルの率直な考えだった。


 広場全体を見下ろす高い壇上。縛られたままひざまずいた自分と、自分の鋭さを発揮する犠牲者を待っている巨大な刃。そしてその刃を解放するための執行人。


 ティステはこれらすべてが自分の首を切るために用意されたということを少し前まで信じていなかった。


 そして厳正な目で自分を審判する者が自分の婚約者である王子ということも、信じたくない現実だった。


「殿下、私は本当に違います! 女神に誓ってそんなことはしていません!」


「すべての証拠がそなたを指している。この状況でどうやって潔白を信じろというのか?」


「殿下、私は決して……!」


「もういい。すでに判決は下された」


 王子の傍に一人の女が近づいてきた。彼女は悲しそうな表情で王子の手を撫でて、王子も同じ表情で彼女の手を取り合った。しかし、王子の眼差しはティステを振り返ったとたん再び厳しくなった。女は暗い表情でティステを眺めるだけだった。


 貴方が私にどうやって。そんな気がして、ティステの頭に怒りがこみ上げてきた。


 友人だと信じた。王子にとっても、自分にとってもいい理解者だった少女。だがティステが友人だと純真に信じていた間、あの少女は後ろで王子と二人だけの時間を過ごした。そしてティステを今この場に来させた濡れ衣も、あの少女から始まった。


 濡れ衣、そうだ。濡れ衣だ。


「この……貴方たちがどうして私にこんなことをするんですの!? 信じたのに!」


 いやらしい裏切り者たち。


 ティステは目の前が赤く染まるような錯覚を覚えた。それほど憤った。


 政略結婚の婚約者。愛してはいなかったが、未来の王妃として一生懸命尽くした。そして王子と自分の役に立ちたい少女にも役に立とうと努力した。二人も自分の心に応えてくれていると信じた。


〝そなたが王妃になってくれれば、この国の未来もより良い方向に進むだろう。楽しみにしている〟


〝ティステ様こそ王子殿下の伴侶になるべき御方です〟


 そう言ってくれた二人が、今は自分の処刑を主導していた。信じたくない裏切りだった。


 だが、いくら糾弾しても、訴えても、怒っても……何も変わらない。偽りの罪に王子は断固とし、民は怒っていた。この場に集まった皆が彼女の死を叫んでいた。


 まるで世の皆が自分の死を望むような状況に、ティステは結局あきらめた。


「……いいですわよ。貴方たちがずっとしらを切るのなら……仕方ないですわね」


「受け入れるのか?」


「いいえ。でも私が救命される余地がないようですから」


 死ぬ前の最後のプライドと虚勢。心では呪いの言葉を浴びせかけていた。


 呪ってやる。死んでも呪ってやる。未来永劫、貴方たちの子孫まで不幸になることを願う。


 ギロチンに体が固定され、処刑が執行される最後の瞬間まで――ティステは裏切り者たちを呪い、また呪いをかけた。


 


 ……そう死んでいたはずなのに。


「議員を呼べ! 早速!」


「お姫様、しっかりしてください!」


「早く報告を……」


 大げさな周りを見て、少女はぼんやりと思った。何よ、この状況はと。


 いつもの日常を終えて、いつものように部屋に戻った瞬間。急に刺すような頭痛を感じて意識を失った。意識を失っている間に見たのがついさっきの記憶だった。


 王子の婚約者として尽くしてたが、その人生の終わりに裏切られて死んだティステ。その一生の記憶を、ティステ自身の視点で体験した。


 いや、〝体験〟なんかじゃない。これは――。


「転生……?」


 口にした瞬間、少女は妙な確信を感じた。自分は一時ティステだったし、今その記憶を取り戻したのだと。しかし、少女はティステではない。


 アルトヴィア帝国の皇女、パメラ・ハリス・アルトヴィア。それが彼女の名前。突然倒れ、多くのメイドや衛兵の世話を受けているこの国の第一皇女だ。


「ねぇ……私は大丈夫よ」


「お姫様! 目が覚めましたね! すぐ陛下にも報告を申し上げます!」


 パメラが文句を言う暇もなかった。あっという間にパメラの世話をする人と部屋を整理する人、報告をしに行く人に人員が分配された。ベッドに横たわっていたパメラはそれをただ見守るしかなかった。


 だからこそ、一人で考えを整理する時間は十分にあった。


 自分はパメラ。しかし前世はティステ・ハリス・テリベルだった。そしてティステは王子の婚約者という地位に相応しい格を備えた者――公爵令嬢だった。


 考えてみればかなり無理な処刑だった。公爵とは王に次ぐ力を持つ貴族。ティステは濡れ衣だったが、たとえ濡れ衣でなかったとしても公爵の権力なら当時列挙された罪目ぐらいは黙殺できる。それでもティステの処刑は性急に、それも公開処刑で行われた。立派な内戦事由だ。


 それを知らない王子殿下ではなかったはずなのに……と王子のことを思い出した瞬間、パメラは重要な事実に気づいた。


「あっ!?」


「お姫様?」


 びっくりして体を起こしたパメラを、部屋に残っていたみんなが振り返った。しかしパメラはそれを気にする余裕がなかった。


 パメラは第一皇女。つまりこの国の皇帝の娘だ。その皇帝の名前はアディオン・セレスト・アルトヴィア。ティステの婚約者で、彼女に濡れ衣を着せられて処刑した王子の名前は……アディオン・セレスト・アルトヴィア。そしてアディオン王子と一緒にティステを裏切った少女、リニア・メルビンは……皇后リニア・メルビン・アルトヴィアではないか。


 その事実が意味するのは……。


「私……前世の私を殺した人たちの娘に生まれ変わったの?」


 王国だったアルトヴィアはなぜか帝国になり、ティステは自分を裏切って処刑した仇敵の娘として生まれ変わった。


 趣味の悪い現実にパメラは絶句した。


―――――


本作は本来別のアカウントで連載していた小説なのですが、該当アカウントが削除され、新しく連載しています。

もしタイトルを見てまたお越しになった既存の読者の方がいらっしゃれば、本当に本当にありがとうございます。

そして新しく来られた方々、お会いできて嬉しいです。歓迎します。


既存の連載分をまとめて更新するには現在私が多少忙しいですので、初日の今日だけで5話程度更新します。後は1日2~3話のペースで更新しようと思います。


これからもよろしくお願いします。

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