第34話

「彩弥さん~! ここに置いておきますね~!」


 庭に大きなバーベキュー用の器材を探索者達二人が並ばせていて、小物を孤児院の子供達とシスター二人が並べる。


 その指揮を執るのは意外にも久那。


 うちの構造を知っているから久那が指揮を執ってくれた方が色々助かる。


 彼らは全員家の中に入ったり、ダンジョンの入口付近には近づかない。念のためにダンジョンの入口にはブラックシートを敷いて、上から灰を被せてカムフラージュした。


 野菜は基本的に従魔達が運んでくれて、家の中は米将軍に厳重に守ってもらう。敷地にはしし唐を重心とした従魔隊が防衛に当たっている。


「彩弥さん。準備が整いました~!」


 僕に可愛らしく敬礼する久那。他の子供達も真似て敬礼をする。


「調理はシスターさんに任せていいか?」


「もちろんです! 任せてください」


 僕が調理してもいいけど、ただで食事をご馳走になるわけにはいかないからと、調理は全てシスターたちが請け負ってくれた。もちろん、下準備を子供達も手伝う。それくらい普段から彼らが協力しているのが分かる。


 調味料は探索者達が買ってきてくれて、さらにはお肉も少し持ってきてくれて、結果的には僕が野菜を出しただけとなった。


「「「いただきます~!」」」


 外なので立ち食いになってしまうが、みんなで手を合わせて大人と子供のテーブルに別れて食事を始める。


 シスター達が丹精を込めて作ってくれた料理はどれも美味しくて、久しぶりに食べるお肉も調味料と野菜の旨味がしみ込んでホクホクと口の中に美味しさが広がっていく。


 誰かと一緒に食事を取るのは久しぶりな気がする。最後に食べたのは…………いや、忘れよう。


 久しぶりに美味しい食事を堪能した。


 本日から朝昼晩と三食ともにうちで食べても良いと許可を出しておいた。それでも野菜は溢れる程に余っているし、特に米に関してはとても量が多く収穫できる。


 余った米は余った時間で餅にしておやつの代わりにする。


 そんな日々を送るようになって三日が経過した。


 たった三日だけど、孤児院の子供達とも距離がぐっと近づいた気がするが、やはり未だ家には入れていない。


 代わりに、元々屋台を開くために準備しておいた木材を本来の予定通りに使用し、屋台を作る。


 それによって雨が降ったとしても問題なく料理ができて、食べることもできるし、ゆっくりと過ごすこともできる。


 家に近い場所に調理スペースを確保し、そこからいくつかのテーブルと椅子が並んだ。


 足りない木材は意外にも探索者達が持ってきてくれて、食費が随分と浮くからだそうだ。それに野菜加護のおかげなのか体が軽くなり、狩りも今まで以上に簡単になったそうだ。


 気が付けば、日々を彼らと一緒に過ごすようになった。


 そこからさらに四日が経過して、みんなと食事をするようになってから一週間が経過した。




「今日はみなさんこないですね……」


 久那が少し寂しそうに声をあげる。


 いつも来てくれる探索者二人、木山さんと加藤さんが来てくれないからだ。


「きっと忙しいんだろう」


「そうですね。みなさん、現役の探索者ですものね」


 それに野菜を食べていれば、野菜加護があるから普段よりは強くなっているはず。そう心配することもない。


 いつも通り昼飯を食べていると、玄関から木山さんと加藤さんが慌ただしく入って来た。


「遅れてすまない。これは夕飯にでも使ってくれ」


 そう言いながら肉を調理場にある冷蔵庫の中に入れた。冷蔵庫もあった方が便利だと彼らが持ってきてくれたものだ。


「何かあったのか?」


「ああ。どうやら泉町のダンジョンでイレギュラーが起きたみたいでな」


「イレギュラー?」


 初めて聞く言葉に少し胸騒ぎがする。


「ああ。ダンジョンの奥から強力な魔物が現れたみたいで、多くの上級探索者が大怪我しているみたいだぜ」


「ふう~ん。そんなことも起きるんだな?」


「いや、初めてのことみたい。それで探索者は全員暫くダンジョンに入らないようになって、その話を聞かされて遅くなってしまったんだよ。まあ、泉町ダンジョンには最上位チームのゲイボルグチームが向かったから問題ないと思うがな」


 探索者はチームを組んで活動していると聞いているけど、ゲイボルグチームとやらはきっと強いんだろうな。


 胸騒ぎがするからといって、僕に何かできるわけでもなく、僕が何かをすべきでもないと思うから気にしない方向にいこう。


 僕達は何も考えることなく、昼食を美味しく頂いた。




 ◆




 その頃、泉町ダンジョンでは大勢の上級探索者たちが一層の入口で攻防を繰り返していた。


「くっ……何という強さだ……」


 いくつもの上級チームと、最上位チームが混雑した中、たった一体の魔物に大勢の負傷者が現れた。


「田中さん。このままではやばいんじゃないですか?」


「…………確かにな。だが俺達がここから引くわけにもいかない。この雰囲気からするとあのモンスターはここからを目指しているのではないか?」


「そんなはずありません! モンスターがダンジョンの外に出た事例はありませんから」


「ああ。でもそれは今までの事例であって、あのモンスターは例外ということもありえる」


「それでもこのままみんながやられるより、一度外に避難させた方が!」


「…………」


 チームメンバーの意見に苦渋の選択を迫られる。


「田中さん。私も彼に同意します。このままでは大勢の怪我人が続出します。このままダンジョンの内側に残した方がいいと思います」


「千聖くんも同意見か…………わかった。全員一度ダンジョンの外に出るぞ!」


 リーダーの田中の号令で他のチームも全員ダンジョンの外に向かう。


 彼らが対峙していた巨大なモンスターは彼らをただニヤけた顔で見つめていた。


 やがて全員がダンジョンの外に脱出した。


「おかしいな」


「ええ。おかしいです」


「どうしてあのモンスターは追いかけてこない? 俺達が外に出るのをただ待っていたように――――――まさか!」


 次の瞬間、ダンジョンの入口からモンスターの顔が現れる。


 その場にいた大勢の人から恐怖の声が響く。


 すぐにゲイボルグチームはモンスターの前に対峙するが、時すでに遅し。ダンジョンの外に出られるはずのないモンスターが外に出て来て咆哮を放つ。


 凄まじい衝撃波で周囲の建物が崩れ始めた。

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