第33話
◆探索ギルド◆
「き、緊急事態です!」
「何事だ!?」
探索ギルドに慌ただしい報せが届く。
「大変です! 泉町ダンジョンから緊急事態です! 凶悪なイレギュラーモンスターが現れた模様です!」
「なんだと!?」
「既に多くのトップ探索者が大怪我を負っているようです!」
「ゲイボルグチームはどうなった!」
騒がしい受付のところに、とある一団がやってくる。
「私達がどうかしたの?」
そこに現れたのは、探索者の中でもトップクラスの実力を持つゲイボルグチーム――――その一番のアタッカーである神崎千聖である。
「ちょうどいいところに来た! 泉町ダンジョンでイレギュラーモンスターが現れた。かなり強力で多くのトップ探索者が大怪我とのことだ!」
「私達も――――」
その時、千聖の前を塞ぐ女性が一人。
「千聖。ダメ……この前の怪我まだ完全に癒えてないよ!」
「未来……でも私達もいかないと」
「千聖はここで待ってて! 私たちが行ってくるから!」
そう話す未来に対し、千聖が首を横に振った。
「田中さん。私も参加します」
二人がリーダーである田中政宗を見つめる。
じっと目を瞑っていた巨漢は、腕を組んだままゆっくりと目を開けた。
「千聖は中衛に回す。無理をしないと約束できるな?」
「ええ。――――非常時以外なら」
「うむ。なら許可する」
「田中さん!」
「未来。諦めろ。千聖は一度言い出したら聞かないからな」
「それは……」
未来が肩を落とす。
「それに俺達メンバー全員が集まっていれば、そう難しいクエストではないはずだ。みんなで力を合わせて頑張ろう」
そうやって探索者最上位チームであるゲイボルグチームが泉町ダンジョンに急行した。
◆
「この度、私達を助けて頂きありがとうございました」
孤児院のシスターさんと子供たちが深々と頭を下げる。
緊急時だから仕方なかったが、人を信じないと言いながらも助けてしまった。
「空腹になればなるほど先の病気が出るはずだ。これからは気を付けた方がいい」
「は、はい……」
シスターが申し訳なさそうに答えた。
孤児院の現状はそう芳しくないのだろう。でもそれに僕は関わるべきではないと思う。
「あ、あの…………彩弥さん? でいいかな?」
お肉を届けてくれた探索者の一人が申し訳なさそうに僕を見て聞いて来た。
「え、ええ。それで構いませんよ」
さっきは緊急時だったので思わずため口になってしまったけど、元に戻ると探索者たちが目を見張るくらい驚いた。
「大変申し訳にくいんけど…………孤児院に食料が滞るようになったのは…………その…………彩弥さんのせいというか……」
「えっ!? ぼ、僕ですか!?」
二人の探索者は申し訳なさそうに頷いた。
それから彼らは事情を説明してくれた。それはとても単純な理由で、一週間程前に僕が探索ギルドを襲撃して大混乱になったそうだ。本来なら外敵すら想定していた壁や窓が全部破壊されて修理にかなり時間がかかった。
さらに僕が怒った反動で吹き飛ばされた多くの探索者がケガを負って狩りができなくなったそうだ。
久那から言われていたことを信じてなかった訳ではないけど、探索者の本人達から聞かされると、より現実味を帯びているというものだ。
「つまり、孤児院がより厳しくなったのは僕のせい……」
みんな申し訳なさそうに頷いた。
あの時の一件は凄く反省はしているけど…………僕というか従魔達や野菜達が被害にあっている。
僕が探索ギルドでああやってしまっても、誰一人
あの一件は全面的にゲイボルグチームの責任であり、被害にあった全ての人への保証や探索ギルドの保証も全てそのチームが持つことで、あの一件は
それでも現状、僕のせいで孤児院が困っているのは確かだ。
「…………」
その時、テンちゃんが僕の膝の上に乗り込んできた。
【ご主人様~!】
「テンちゃん?」
【もしご主人様さえよろしければ、彼らに野菜を振る舞ってはいかがですか?】
「彼らに野菜を振る舞う?」
【はい。ご主人様は野菜食堂を開く予定でした。あの一件で諦めてしまいました。ですが、これはいい機会かもしれません。彼女達を――――救済なさってはいかがですか?】
きゅ、救済!?
久那たちからも羨望の眼差しを感じる。
「え、えっと…………うちで毎日野菜料理を――――」
「行きます~!」
久那が元気よく手を上げた。
「お、俺達もお肉を持っていくよ! それならタダにはならないだろ? なあ、俺達も混ぜてくれよ! 野菜料理ものすごく美味かったんだよ!」
どうやら探索者たちも来たいらしい。
「…………来るのは構わないが、条件がある。野菜を決して傷つけないこと。野菜モンスターたちを決して傷つけないこと。家の中に入らないこと」
全員がその場で誓いを立てた。
その行為自体に拘束性はないと思うけど、関係ない人に迷惑をかけた罪滅ぼしを兼ねて通ってもらうことにした。
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