第32話

 孤児院の子供たちは全員で十二人。それと孤児院内からシスターが二人。計十四人を抑えることができた。


「米将軍。彼らをどうしたら狂暴化が止まるんだ?」


【野菜の匂いを嗅がせると和らぎますが、食べさせないと解決は致しませんぞ】


「わかった……しかし、このままでは彼女たちに野菜料理を振る舞うことはできない」


 僕を見つめる視線が二つ。探索者の二人だ。


 この二人がここにいる以上、野菜モンスターを残すわけにもいかない。


「久那。あの病気を治すには野菜料理を食べさせないといけない。さらに正気になってもらうために近くに野菜モンスターたちを配置しなくちゃいけない」


「はいっ」


「だがここにいるとそれができない。うちに運ばないと厳しい」


 僕達の様子を伺っていた男たちが前に出て来る。


「ちょっと待ってくれ。俺達にできることはないか?」


「…………」


「彼女たちを正気に戻せるなら何でもする。何でも言ってくれ」


「…………」


 探索者である彼らを信じられない。


 でも、彼らはわざわざ孤児院のみんなのために食料を持ってきてくれた。それもまた事実。


 彼らがあいつら・・・・のような探索者ではないことくらい知っている。


【殿。彼らくらいなら某でも十分に抑えられるでございます】


「将軍…………わかった。あまり時間もないしな」


 彼女たちをうちに運ぶより、野菜をここまで運んで料理した方が早いはずだ。


「久那は料理の準備を。テンちゃんと米将軍は孤児院で護衛を。僕とジャガイモたち、二人は野菜を取りにいく」


 その場にいた全員が頷いて速やかに行動に移す。


 急いで家に戻り、大量の野菜を運ぶ。籠に野菜をたくさん入れて二人にも持ってもらい運んだ。


 運んでいる間、野菜を大事そうに持っているのがまた印象的だった。


 孤児院に着いてすぐに料理に掛かる。久那が用意してくれた調理器具を使って次々と野菜料理を作り始める。


【殿。肉も一緒に入れるといいですぞ】


「ん? 肉?」


【肉は単体ではなく野菜と共に料理することで旨味が何倍にも増えますぞ】


「でも僕は肉なんて……」


 その時、こちらを見守っていた探索者たちがお肉を持ってきてくれた。


「これを使ってくれ! どの道、孤児院のみんなのための食材なんだ。彼女たちのために使われるなら本望だよ」


「…………わかった。それは貰うとする」


 久しぶりにお肉も一緒に調理を進めた。




「う、美味そう…………」


 テーブルに並んだ野菜料理の数々に探索者たちが息を呑む。


 匂いに釣られてなのか、気を失っていた子供達が目を覚まし始めた。


 すぐに久那に事情を説明して、テーブルに着かせる。


「い、頂きます……」


 一人目の子供が野菜料理を恐る恐る口に運ぶ。


「ん!?」


「「「ん?」」」


「う、旨いいいいいい~!」


 次第に自分の分のご飯を次々食べていく。


 一応手伝ってくれた探索者達の分も作っている。


 彼らも恐る恐る自分のご飯に手を伸ばし――――食べた瞬間に美味しいと声をあげてパクパク食べ始めた。


 次々に起き上がった子供達とシスターが久那の説明を受けて野菜料理を食べていく。


 孤児院が幸せな時間に包まれた。




 ◆とあるダンジョン◆




 ダンジョンの最奥。地の揺れが始まる。


 暗闇の中から大きな体を持つモンスターが現れる。


 一歩踏み出すだけで地が揺れる。


 大きな前脚二本が現れ、次第に雄々しい顔が現れる。その顔は熊にも虎にも見え、背中に刺々しいものが生えている。


 やがて全身が現れたそのモンスターは全長五メートルにもなる程に大きい。


 艶のある黒い鱗は頑丈に見え、尻尾の先には鋭い刃物のようなものが付いている。


 ダンジョン最奥から現れた恐怖は、最下層から上層に向かって歩き始めた。

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