第27話
野菜ダンジョン四層での死闘を制して、多くの野菜たちが僕を認めてくれて、新しく増えた野菜はじゃがいも、きゅうり、ピーマン、しし唐の計四種類。
それぞれが広間にいて、上層の野菜たちより数は少なめだけど、十分すぎるくらい多い。
野菜モンスターたちのうち一体ずつ僕の従魔になってくれて、他のモンスターたちは収穫になり、全て家に運び出した。
今回従魔になった野菜モンスターたちは、守護モンスターたちとは違い、体も通常の野菜サイズのままで、武器も持っていないがミニマムで可愛らしい。四体とも二本足で歩く人型タイプだ。
おかげで野菜を運んでくれるのを手伝ってくれる。
野菜モンスターって大きさから見て、意外に力が強くて、野菜を大量に抱えても簡単そうに運んでくれる。
久しぶりにホクホクのじゃがいもとサツマイモを蒸したり、しし唐を刻んで色んな料理にアクセントで使ったり、ピーマンの苦さと旨さは色んな料理と相性がよく、きゅうりは主役にもサブにもなれる万能さをみせる。
特に大根としし唐は抜群の相性で、今までもう一つ欲しがっていた味のアクセントとして最高だ。
野菜料理を食べ終えて、久しぶりに茶の間の窓を全開にして畑を眺める。
本来なら美しい野菜たちが広がっていたのに、今は真っ黒い土ばかりが並んで、壁の外にはちらほらビルの上部が見えている。
だからこの窓を空けるのを控えていた。でも今は野菜ダンジョンがあって、そこに野菜モンスターたちがいる。だからこそそこから目を背けたくはない。
『ご主人様?』
「心配しなくて大丈夫。色々迷ったけど、今回の守護モンスターたちとの戦いでたくさん学べたから」
『みんなにご主人様の想いも届いたと思います!』
「ありがとう」
手を伸ばしてテンちゃんを撫でてあげると、他の従魔たちもやってきて僕を囲ってくれる。
ここまでずっと一人で暮らしていたからこそ、従魔たちとの時間がとても愛おしい。
その時、僕の心に千聖ちゃんの笑顔が思い浮かんだ。
最初は急に現れては、僕の事を凶悪犯と呼んでいたけど、彼女の正義の心がわかってからは、それが街の人たちのためだったとわかった。
別に誰かと慣れ合いたいというわけではない。でも……千聖ちゃんのような人が気軽に従魔たちに遊びに来れる場所になって欲しいなと思う。
野菜の素晴らしさをもっと多くの人に伝えられれば…………。
「テンちゃん。君達の野菜モンスターから収穫した野菜を他の人にあげるのは、みんなからしたらどう思うんだい?」
『はいな。ご主人様のためになるならみんな喜びます! でも……みんなはただの偽善で誰にも彼にも分け与えるのは好きではありません』
「そうか……なら、僕が作った料理を振る舞うのは大丈夫かい?」
『はい! ご主人様の目の前で食べてくださるなら、みんなも喜びます!』
「そうか…………みんな。少し聞いてほしい。僕はこの先もみんなと一緒に生きて行きたい。でもみんなを見て化け物のように見る通りすがりの人がいるのもわかっているんだ。それは僕のせいでもあるんだけど…………それを少しでもよくしたい。だからこれから君達を使った料理を多くの人に提供したいなと思うんだけど、どうかな?」
僕の提案に従魔たちが驚いた顔で、それぞれ顔を合わせる。
そして、代表してテンちゃんが話した。
『ご主人様。それによってご主人様に多くのご友人ができるなら私達は大賛成です。それに千聖様もいらっしゃい易い場所になってくれたら嬉しいです!』
従魔たちも千聖ちゃんが好きだからこそ、ここまで慕っているんだ。きっと、彼女の綺麗な心に触れた従魔たちだからこそのことだろう。
「ありがとう。これから――――『野菜食堂』を作ろうと思う。みんな協力よろしく頼む」
すぐに従魔たちから歓喜の声があがり、これからの開店に向けて色々頑張っていこうと決意した。
次の日から、料理の準備のために野菜ダンジョンを往復しながら野菜をたくさん収穫して、色んな料理を試した。
そんな慌ただしい時間を過ごすようになってから二週間が経過した。
そして次にその日がやってきた。
そろそろ開店に近づいてきたその日。
いつも通り野菜たちを収穫して家に戻ると家の中の雰囲気がいつもと少し違うのに気付いた。
『ご主人様! クラちゃんたちが!』
声をあげるテンちゃんの声に、不安な気持ちが沸き上がる。
すぐに廊下を通ってリビングに入ろうとした直前、廊下から見える倉庫に無惨に切り裂かれた野菜が見え、リビングの中にボロボロになったクラちゃんたちの姿が見えた。
「クラあああああああ!」
『ご主人しゃま……ああ……しゃま…………』
「クラ……一体何が……一体誰が……」
『最後に……会えて……良かっ……』
「く、クラ? ま、待ってくれよ……一体何が……ま、待って……お願いだ……頼む……何でもする……何でもするからもう一度声を…………」
『ご主人様……』
「あ……ああああああああああああああああああ!」
一体僕が何をしたというんだ。どうしていつも僕の周りを傷つけるんだ。野菜たちに……野菜たちになんの罪があるというんだ…………。
心の底から怒りが溢れ出るのが自分でも分かる。
「テンちゃん」
『はい……』
「匂いで犯人がわかるな?」
『はい……』
「一体誰だ」
『先日……千聖様と一緒に来た……女の人です…………』
千聖ちゃん……?
もしかして、彼女も僕を傷つけるためにわざとこんなことをしたのか?
ははは……そうか……信じていたのに……人を……信じてみたくなったのに……そうか…………まさか君が…………はは……は…………。
『ご主人様!?』
「…………僕は野菜たちを守ると誓った。でも守れなかった。その報いを受ける。テンちゃん。
『ご主人様…………』
「今すぐだ!」
『は、はいっ!』
僕の肩に乗ったテンちゃんに道案内を頼んで、ゆっくりと一歩一歩歩き出した。
感じる怒りを全開に街を歩く。僕を見た人々が逃げていくのが見えるが今はそんなことなんてどうでもいい。
僕は――――――
君たちを絶対に許さない。
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