第25話

 次の日、彩弥が従魔たちとダンジョンに向かったあと、とある人影がじっと彩弥を見守っていた。




 ◆




 野菜ダンジョンの四層に向かいながら野菜モンスターたちと触れ合う。一番の癒しの時間だ。


 みんなが四層での試練の応援をしてくれた。


 階層を進み、僕達は二度目の挑戦で四層にやってきた。


「今日もよろしく頼む」


 それに答えるかのようにきゅうりが槍を地面に叩いた。戦いの合図だ。


「いくぞ!」


【はいっ!】


 テンちゃんたちの声と共に戦いが始まった。


 僕がきゅうりを狙って飛びつくとすぐにじゃがいもが大盾で僕の前をふさぐ。


 全力で地面を蹴り上げて飛び込む。右拳を思いっきりじゃがいもの大盾に叩き込む。当たってすぐに周囲に爆風が広がり、地面から土埃が舞い上がる。


 次はきゅうりの槍が僕を襲ってくる頃だ。


 予想通り的確に僕のを狙って突いてくる。ギリギリ避けながら、また大盾を叩く。


 そろそろか?


 次の瞬間、じゃがいもの足下が崩れる前兆が見えた。


 それにじゃがいもに気づいてしまっては遅い。もう一回無理してでもパンチを叩き込む。


 鈍い音と共に、地面が崩れ始めた。


【しゃま~!】


「よくやって! サッちゃん!」


 じゃがいもの足が取れたのを確認して、今度目指すのは――――後ろにいるしし唐とピーマンを狙って飛ぶ。このままではピーマンに狙い撃ちされてしまうが、そこはテンちゃんの出番だ。


 テンちゃんは見た目通りというべきか、凄まじい速度・・で駆け回れる。速度はなによりも強い攻撃になる。


 きゅうりの体に体当たりして大きく吹き飛ばす。


【ご主人様! 守護モンスターはそのまま倒してください!】


「っ!?」


【覚悟を見せるんです!】


 テンちゃんの覚悟という言葉に、心臓がドキッと跳ね上がる。


 僕の覚悟は守護モンスターを倒すことではなく、抑えることだ。


 でも彼らは覚悟を見せろと言っていた。だから…………本当に倒したくない。でも彼らをガッカリさせてしまった自分の弱い心に決別しなければならない。


 だから――――僕は全力で目の前のピーマンとしし唐のモンスターにパンチを叩き込む。


 目の前で消えていくピーマンモンスターとしし唐モンスター。ほんの少しだけ笑みを浮かべていた気がした。


 すぐに従魔たちが奮闘しているじゃがいもときゅうりに向かう。


 テンちゃんと対面で戦っているきゅうりに標的を絞る。


「テンちゃん! 行くぞ!」


【はいっ!】


 リーチの長い槍は前方、左右には強いけど、後ろにはすぐに攻撃が届かない。仮に柄を伸ばしたとしても直前的な動きしかできない。


 前方から体当たりできゅうりの足が止まってる隙に、後方から飛び掛かる。


 後ろが見えないはずなのにきゅうりの槍の柄による攻撃が僕に向かって飛んでくる。が、それも予想済みだ。


 狙い通り・・・・に的確に狙った肩への攻撃を紙一重で避けて、パンチを叩き込んだ。きゅうりの大きな体を貫いて、その場からきゅうりが消えていく。


 最後に残ったじゃがいもはサッちゃんが足を止めていたので、楽々に倒すことができた。


「か、勝った!」


【わい~!】


 すぐにテンちゃん、ホウちゃん、ナーちゃん、サッちゃんと喜びを爆発させた。


「あははは~! これで亡くなった野菜たちにもちゃんと僕の覚悟を見せられたよ。みんなありがとうな!」


 暫く従魔たちと勝利の余韻に浸った。




 ◆




【ご主人様~! あちらを!】


 テンちゃんが指差した場所には、じゃがいも、きゅうり、ピーマン、しし唐の小さいモンスターたちが並んでいた。


「み、みんな!?」


 守護モンスターの時はかなり大きな体を持っていたが、今のモンスター状態だと通常の野菜と同じ大きさだ。


【みんなもご主人様を認めるそうです!】


 彼らの言葉に心から涙が溢れる。


 これから必ず守る。何があったとしても。


 そう覚悟を決めた。


 だが――――――俺を待っていたのは、安寧ではなく、より深い――――――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る