第17話
家に帰って来てすぐに『憤怒』について考え込む。
【ご主人様?】
すぐにテンちゃんたちが集まって来てくれて、僕を心配してくれる。
「すまんな。これをテンちゃんたちに話してもいいのかどうか…………」
【ご主人様! 僕達はみんなご主人様の力になりたいんです! まだ僕達に足りないことばかりですけど、もしかしたら力になれるかも知れません!】
テンちゃんだけでなく、ナーちゃんもホウちゃんもサッちゃんもクラちゃんたちも、みんな僕を見守ってくれる。
「そうだな。ぜひ相談に乗ってほしい。実は…………僕は常に誰かを威嚇しているらしい。僕自身に自覚はないけど、だからこそそれをどうにかしないと、探索者になってもトラブルに巻き込まれてしまうからと、それを先に何とかいなくちゃいけないんだ」
【ご主人様は優しいです!】
みんなも【うんうん!】と大きく頷いた。僕はなんて優しい従魔たちに囲まれているのだろうか。
「ありがとう。でもこのままではダメなんだ。そこで僕の能力の中に『憤怒』というものがあって、もしかしたらこれのせいではないかなと思っているんだ」
【憤怒…………大罪の因子と同じ名前のスキルなんて珍しいですね】
「!? い、因子なんだ。僕の『憤怒』が書かれていたのは因子という部分なんだ」
そう答えると、テンちゃんたちが驚いて顔を合わせる。
「テンちゃん。一体因子というのはなんだ?」
【ご主人様って因子持ちだったんですね! ものすごいことです!】
どうやら悪いものではないのか?
【因子というのは、全部で十四個あるんです。正義の因子七つと大罪の因子七つがあります】
正義と大罪…………どう考えても大罪の方は悪い方にとりそうなんだが……。
【こちらの十四個の因子ですが、簡単に言うと『決められた行動時、特別な力が発動する』になります!】
決められた行動時、特別な力が発動する……?
憤怒というのは、単純に『怒り』とも受け取れる。
「もしかして、僕は『怒り』を感じてしまうと勝手に発動するのか?」
【はい! 憤怒は怒りを司る因子なので、ご主人様が怒った際に特別な力が発動します。怒った度合いによっても得られる力が強くなるはずです!】
その時、とある出来事が頭を過る。最近は全く見なくなったあの時の記憶。胸の中から苦いものが上がってくるのを感じる。すぐにトイレに駆け込んだ。
【ご主人様……】
「す、すまないな。テンちゃんたちのせいではない。気にしないでくれ。それよりも……そうか……僕は怒っていたのだな」
【ご主人様は凄く優しいです! いつも僕達を優しく撫でてくれますし、いつも美味しく食べてくださるし、最高のご主人様です!】
近寄って来た従魔たちを撫でてあげる。
「そうだな。野菜なら……そうなのかも知れない。僕はいつしか……人が嫌いになっていた。人を信じなくなっていた。だから初めて会う人には『怒り』を覚えてしまっていたのかも知れない。自分でも分からないうちに」
心配そうに見上げる従魔たちに「心配するな」と伝える。
「それに、世界には優しい人もいると知った。おばあちゃんだけじゃなくて…………千聖ちゃんと田中さん。今まで僕に出会った人は全員が怖がって避けて来たと言うのに、二人だけはそうならなかった。だから僕ももう一度信じてみることに……するよ…………人を」
その日から僕の猛練習が始まった。
人に顔を向けても怒らないこと。信じられなくても、それでも関係のない人に怒りをぶつけないようにする。
世界には色んな人がいるから、優しい人もいるから、僕は行き交う人たちに何度も試した。
最初こそ失敗して何人かの人に逃げられてしまったけど、練習していると段々慣れてきてコツを掴むようになっていた。
練習を続けて二日。
ようやく、なんとかコツを掴んだ僕は最後の集大成として街を歩いてみることにした。
今までなら通り過ぎる人々が僕を見ては避けていくはずなのに、今は何も感じない。
大勢の中の一人のように人波に呑まれても誰も僕を見て恐怖しない。
少しだけ嬉しくなったけど、目的はこれではない。今度こそ…………探索者になるために探索者ギルドに向かった。
両開きの自動ドアを開いて中に入ると、前回来たような静寂や注目はなく、ただの一人として入ることに成功した。
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