第16話
「さて、まず誤解して欲しくないのですが、俺達は何も佐藤さんと敵対したいわけではありません。優秀な探索者が増えることは国にとっても大きなメリットですし、佐藤さんがどのような力を持っているかは知りませんが、俺達にとっては大きな力になると考えています」
彼の目は怯えているわけでも、怪物を見るような目でもない。ただ真っすぐ真剣に気持ちを伝えてくれているのが分かる。
「ぼ、僕には特別な才能はありません……ですが、守りたいモノができました。守るために少しでも強くなりたい……だから探索者になりたいんです」
「それは良かった。探索者になりたい理由は人によって様々ですが、中には
それは……知っている。僕はなんの取柄もないから。
その時、彼から意外な答えが返って来た。
「佐藤さんが探索者に向かない理由はただ一つ。才能がないからではありません。先程も話しましたが…………佐藤さんは無意識に周囲の人を威嚇しております。それではダンジョン内でトラブルに巻き込まれるでしょう。ダンジョンの中は…………残念ながら
「ぼ、僕は威嚇なんて!」
「ええ。だから佐藤さんは知るべきなんです。ご自身が無意識でそうしていることを」
そう言いながら彼は一枚の板を取り出してくれた。
「これは『鑑定板』といいます。ここに表示されているのは他人には見えず、ご自身だけが見れます。まず、ここに手を触れて見てください」
恐る恐る板に触れる。
板に文字や数字が並んだ。
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因子:憤怒
称号:野菜に愛されし者
状態:野菜加護+5
レベル :1
身体能力:476~726(+50%)
魔法能力:1~1(+50%)
【レジェンドスキル】
〖野菜加護〗
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あれ? 二十年前に調べた時にはこういう文言は出てこなかったんだが!?
称号とスキルには見覚えがある。野菜ダンジョンに入った時に聞こえた女性の声が、称号とスキルを獲得したと言ってくれている。
レベルが1のままなのは、僕が一度も魔物を倒したことがないので当然と言えば当然だ。
一番気になるのは『因子』という部分だ。そこに書かれている『憤怒』。
「見えたようですね。個人情報になるのでレベルや能力、スキルは話さなくて構いません。スキルの部分か、はたまた称号という部分に『威嚇』に関するものがあるはずです。恐らくそれが発動して佐藤さんの感情によって引き出されている気がします。ですのでこれから探索者になりたいのなら、そのスキルと向き合う必要があります」
威嚇しているつもりは全くない。この板に書かれているものの中から威嚇に関するものは――――やはり『憤怒』という部分か。
「わかりました……なら、それを何とかすれば探索者になれるってことですね?」
「ええ。それと『身体能力』か『魔力能力』に書かれた数字も大体の数字は覚えておいてください。一つの指標になります。魔物と戦う場合、推奨数値からご自身の最低数値と比べて挑戦するかどうか決めるといいでしょう。指標になる数値は依頼を受ける時に、情報として提示されます。ただ、あくまで推奨数値なのでそれが絶対というわけではありません」
彼が教えてくれた事を全て頭に入れる。探索者になった暁には必要な情報だ。
「色々ありがとうございました。威嚇の件をどうにかして探索者になれるように頑張ります」
「ええ。ぜひ頑張ってください。もし困った事があったらいつでも探索者ギルドで『
「ありがとうございます。田中さん」
前に出された右手を握り返す。誰かと握手を交わすなんて初めてだけど、彼の熱い想いが伝わってくるようだ。
千聖ちゃんだけでなく、世界にはこういう人もいるんだと改めて知ることができた。
探索者ギルドを後にする時も、会館内は静寂に包まれるくらいまた僕は威嚇しているみたいだ。
真っすぐ家に帰ってきて、『憤怒』と向き合うことにした。
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