第11話

「九十九……百…………」


 目の前には、口を大きく開けたアタッシュケースがあり、中身を全て取り出した。


 一万円札が塊になっていて、その数全部で百個。


 数えなくても分かるくらいに塊一つで百万円だろう。昔の映画でよく見かけたから。


 一億円という大金なんて手にいたことがないので、震える手を何とか抑えながらアタッシュケースに戻していく。


 その時、


「お邪魔しま~す~!」


 と玄関が開いて千聖ちゃんの元気な声が聞こえた。


「うわああああ!」


「え!? ど、どうしたの!?」


「ま、待っ――――」てと言う前に心配してくれたのか、千聖ちゃんが靴のまま右手を剣の柄を握ったまま入って来た。


 アタッシュケースに百万円の塊を入れながら、千聖ちゃんと目が合う。


 脂汗が止まらない。


「…………お兄ちゃんって、やっぱり凶悪犯――」


「違う! これは金髪の男性が現れて、勝手に置いて行ったんだ!」


「へえ~金髪の男性。こんな日本のど真ん中の都市に? あ~あれか。マフィアとか?」


「ち、違う~! うちの畑を焼いた解水不動産の上の人だったらしい! そもそも僕も困っているんだよ!」


「…………」


 彼女はゆっくりと戻って行く。


(!? ご、誤解されたままではいかん!)


 急いで百万円の塊を置いて、リビングから廊下に出た。


 すると、そこには靴を捨てて、廊下をハンカチで吹いている彼女の姿があった。


「ん? どうしたの? お兄ちゃん」


「!? い、いや、誤解されたのかなと思って……」


「ふふっ。誤解なんてする訳ないでしょう。そもそもお兄ちゃんが嘘が苦手なのくらい昨日で十分知ったし、それよりも、そんな大金を置いていくなんて、さすがの解水不動産の人ね」


「知っているのか?」


 床をハンカチで吹きながら首を縦に振った。どうやら床は自分が踏んだ靴の足跡を拭いているようだ。


「ここら辺一帯の土地は解水不動産が全部買い占めたんだけど、ものすごく立地が良くてすぐ人気になったんだよね。ここに住んでいた人達は大金で土地が売れたからみんな喜んだみたいだよ?」


 それは知っている。ここら辺一帯の土地の持ち主って、大半が年寄りで毎日自給自足の生活をしつつ、年金で暮らしていた人が大半だった。


 解水不動産によって開発されたこの町は、土地を高額で購入して資金を投入して開発をし、住みやすい街として開発して売り出している。なので、この街に引っ越してきた連中は大半がお金持ちが多い。その中でも土地を売ってお金持ちになった人もいる。


 解水不動産は土地買収の際、かなりの好条件を出している。例えば、土地代も田舎の土地から想像もできないような都会値段で買う上に、そこに完成するタワーマンションを一室与えるという所もあって、もしおばあちゃんが生きていたら僕も迷わず売っていたと思うくらいには破格だ。


 僕が売らなかった理由はただおばあちゃんが残してくれた土地を最後まで守りたかった。野菜が好きで、お金よりも生活を守りたかったからだ。


 それを鑑みれば、解水不動産はある意味、この町にとっては救世主のような存在だったのかも知れない。


 千聖ちゃんと一緒に床の拭き掃除が終わったので、リビングに戻った。


「お兄ちゃん? このお金はどうするの?」


「ん……このまま置いておくわけにはいかないけど、だからと言って貯金するのもあれだからな。今は必要がないから、このまま保管しておこうと思う」


「それならダンジョンの中に置いておいたら?」


「ダンジョンの中?」


「うん。ダンジョンの中ならお兄ちゃんが許可出した人しか入れないし、万が一のために隠す絶好の場所だしね~私でも見つけられない場所に隠しておいてね~」


「そ、そっか……わかった。そうする」


 一度アタッシュケースを持ってダンジョンの中に入っていく。


 ダンジョンの中は洞窟のような作りになっているので、意外と隠せる場所は多い。岩や陰が多いからだ。


【ご主人様? それを隠すんですか?】


「ああ。どこかおすすめな場所はあるか?」


【はい! とても良い場所がありますよ~!】


 千聖ちゃんは離そうとしなかったけど、テンちゃんが無理矢理着いて来た理由が分かった気がする。


 テンちゃんが向かうのは意外にも出口のところ。


 ダンジョンの出口に着いたテンちゃんは階段の前で止まった。


【ご主人様~! この階段。実は隠れ倉庫になっているんです。あの石を左、左、右の順に回ると開くんです】


「本当か!?」


 言われた通り、壁に出た石に手を触れる。意外にも軽い意志でくるくる回せられるのだが、引っ張ることはできない。まるでハンドルのような感覚だ。


 軽めに左に回すと、手の感触でカチッと感じられる。その場に止めて、今度はまた左に回してカチッと感じ、今度は右に回すとカチッと感覚が伝わってきて、階段の一番下の階段の石が右壁に吸われ始めた。


 階段の石が全部消えると、そこには二十センチくらいの高さの物が入れられる空間が現れた。奥は四十センチくらいなので、丁度アタッシュケースを隠すには十分で、二つを並べるくらいのスペースだ。


 早速アタッシュケースを隠して元に戻して家に戻ると、昨日収穫で変身した大根を大事そうに抱えた千聖ちゃんの姿があった。


 少し間抜けにも見えて、愛おしく思えた。





※ざまぁタグはございます。

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