俺の妹は睡眠系に特化した世界最強の魔法使いです
モリワカ
俺の妹は睡眠系に特化した世界最強の魔法使いです
「おはよぉ お兄ちゃん」
眠そうな目をこすりながら、俺の妹が起きてきた
妹は睡眠系の魔法に長けており、そのせいかいつも眠そうな顔をしている
「今日も頑張ろうな」
「うんー 今日も究極に眠いけど、頑張るよお」
俺と妹はこの街で冒険者としてやっている
ランクもそこそこで、妹はみんなから眠り姫というあだ名で親しまれている
本人はあんまりそう呼ばれることに抵抗があるみたいだが、たまに俺もそう呼んでしまうことがある
「今日のクエストは一撃熊の討伐だ まあ、いつも通りにやってれば問題ないだろう」
「そーだねー 今日もちゃっちゃと終わらせて、もうひと眠りするかー」
まだ寝るのか!?
妹は一日の半分を寝て過ごすことがある
兄の俺からしてみればとんでもない話だ
「見つけたぞ」
俺と妹の前に一撃熊がいた
鎌のように鋭く長い爪を持ち、掴まれたら逃げ切ることは並大抵の冒険者には不可能と言われている
「我が妹よ いつものように頼むぞ」
「うん 任せて―」
妹は覇気のない声でそう言った
まあ これはいつもの事なので特に気にしない
「混濁に染まりし彼の者の意識よ 我の繰り出す睡魔に酔いしれろ スリープ!」
妹の睡眠魔法が一撃熊に飛んでいく
一撃熊は妹の魔法をまともに食らい、その場に倒れこんだ
俺は恐る恐る一撃熊の様子を確認する
ガーガーガー……
一撃熊は妹の睡眠魔法のおかげで完全に眠っていた
俺は昏睡状態に入っている一撃熊にとどめをさす
「よし、これで今日のクエストは完了だ ギルドに戻るか」
「…………」
妹からの返事が無かった
それもそのはず 妹は睡眠魔法を使うと一定時間眠りについてしまうのだ
睡眠魔法自体はとても強力なのだが、如何せん術者が眠ってしまうのが難点でもある
「やっぱりこうなるのか」
俺は眠っている妹を背負いながら、ギルドに帰ることにした
妹とは違い、俺には魔法の類が一切使えない
その代わりに剣の才能を持っている
妹の魔法が効かない相手には効果てきめんだ
眠っている妹を背負いながらギルドに帰り、一撃熊を討伐したことを告げる
「はい 確かに一撃熊の討伐を確認しました 今日もありがとうございます」
「いえいえ ほとんどは妹のおかげですから 俺は最後にとどめをさすだけのおまけみたいなモノです」
俺はお礼を言ってくるギルド嬢に謙遜して答える
兄の俺がこんな立ち位置でいいのだろうか
そう思うことが時々ある
確かに妹の方が役割としては重要だ
確定で相手を眠らせることができるのは強みでもある
対して俺は剣の腕しかない
剣聖でもなく、ただの冒険者並みの腕だ
それでも、俺は妹と一緒に行動している
「それでですね お兄さんの方に少し頼みたいことがあるのですが……」
俺が考え込んでいると、ギルド嬢の方から話しかけてきた
何やら事情がありそうなのを感じ、思わず息を飲む
「頼み事と言うのは、俺にしかできない事ですか?」
「ええ 今回ばかりは妹さんの魔法も効かない相手なんです」
「何で俺なんですか? 俺よりも強い人もいるでしょうに」
自分で言うのもなんだが、そこまで剣の腕がある訳でもなく俺以上に強いものもたくさんいる
その中で俺に頼んでくるのはどういった風の吹き回しだろうか
「他の人達にも頼んだのですが、皆さんどこか忙しいようで お兄さんが最後の頼みの綱なんです!!」
ギルド嬢が泣きそうな顔で、俺に迫りよってきた
そんな顔をされたら、断るわけにもいかなくなる
「分かりました そのクエスト、受けましょう ですが、妹を放ってはおけません」
「妹さんの事なら任せてください ギルドの休憩室がありますから、そちらの方に寝かせておきますので 安心してクエストに向かってもらえばと思います」
ギルド嬢がそういうならと、俺は安心して妹を任せることにした
俺はギルドの休憩室を貸してもらい、妹を寝かせる
「じゃあ、俺は行ってくるからな おとなしくしとけよ」
俺は寝息をかきながら眠っている妹に声をかけ、休憩室を出る
「では、クエスト内容を説明いたします 相手は魔法完全無効として有名なティポタという魔物です」
ティポタ 冒険者界隈ではよく聞く名前だ
魔法による攻撃を完全に無効化し、多くの魔法使いを絶望に追い詰めたとまで言われている
だが、打撃攻撃には弱く平均以上の力を持っている冒険者ならそう苦戦することなく討伐できる
「そのティポタを俺が倒せばいいんですね?」
「はい どうかよろしくお願いします」
ギルド嬢に頭を下げられ、俺はティポタの目撃例を参考にその場所に向かう
「あいつか……」
目撃例が一番多かった場所に、ティポタがいた
姿は球体に手と足が生えたようないたって地味な体だ
ティポタは俺の事にはまだ気づいていないらしく、近くの岩を壊しまわっている
俺は音を立てないように剣を抜き、奇襲を仕掛けることにした
慎重に、息をひそめ静かに近付く
「剣で何回か攻撃すれば倒せそうだ」
俺は剣を構え、ティポタの元に直行する
俺の剣はティポタを真っ直ぐ捉え、深く確実に刺さった
「この調子で攻撃していけば、余裕だな」
ティポタは俺の剣で傷をつけられたのが気に食わなかったのか、暴れ回っている
それでも俺はめげずに何度も何度も剣で刺す
そして、いつの間にかティポタは動かなくなっていた
ティポタがいる場所に、小さな玉が落ちている
これがティポタの核みたいなモノなのかもしれない
「こいつを壊せばティポタ討伐完了ってとこか」
俺はティポタの核に剣を刺そうとする
その時だった
「お兄ちゃん!! その核を壊しちゃダメええええ!!!」
後ろから妹の声が聞こえた
眠っていたはずなのに もう起きたのか
「その核を壊したら中に入ってる魔力が暴発しちゃうの! だから絶対に壊しちゃダメっ!」
妹がそう叫ぶが、時すでに遅し
俺の剣はティポタの核に突き刺さっていた
ティポタの核から黒い靄が出てきた
その靄は瞬く間に俺の体を包み込む
「ああ!! 遅かった!!」
妹がこれまで出したことのない声で叫んだ
そこで俺の意識は途絶えた
気がつくと俺の目の前には誰か分からない黒い影がいた
その黒い影は、俺の方に近付いて静かに話し出した
『お前は妹に嫉妬してるな?』
何を言ってるんだ
俺が妹に嫉妬?
そんなバカな話があってたまるか
『自分が気づいていないだけでお前の本心はそう言ってるぞ』
黒い影はひたすら俺に話しかけてくる
『お前の妹は魔法が使えて皆にちやほやされている だが、兄のお前は魔法も使えず、そこまで剣の才能がある訳でもない 嫉妬するのも無理はないだろう』
黒い靄に諭され、俺の意識は黒い靄に侵食されていく
意識が朦朧とし、何も考えられなくなる
『そうだ その負の感情をまき散らすんだ』
黒い影の言われるがままに、俺は怒りの感情をまき散らす
「お兄ちゃん! 気を確かに持って! その黒い靄のいうことを信じないで!!」
妹が何か言っているが、俺の心には届かない
俺の意識は完全に黒い靄に飲まれていた
「邪の気配がしたから起きてみればこんな事に……」
魔法使いは邪の力にとても敏感らしく、それで妹はここまでやってこれたのだろう
『無駄だ こいつの意識は俺が乗っ取った もうお前の声はこいつには届かない』
「あなたは何が目的なの!?」
『目的? そんなもの俺にはないさ 俺はただこうやって人の感情の中に入り込んで遊ぶのが楽しいのさ』
妹は悔しそうに唇をかんでいる
俺は黒い靄の中から眺めることしかできない
体が完全に黒い靄に乗っ取られてしまって、動けないでいる
「……いいわ あなたがその気なら、私にも考えがあるわ」
妹が何か思いついたようで、静かに微笑んでいた
「今のあなたには私の魔法が効果的なのよね」
『ま、まさか 貴様はあの魔法使いなのか!?』
「お、私の事を知っているなんて 私も有名になったものよね」
妹はいつものように眠そうにはしておらず、ハキハキと話していた
こんな妹を見るのは初めてだ
「今から私はあなたを封印します!」
『封印だと!? その魔法には強力な代償が必要なはず! お前にその覚悟があるのか?』
黒い靄に聞かれ、妹は少し言葉に詰まる
だが、再び話し出す顔は何かを覚悟したような顔だった
「覚悟ならここに来た時にとっくにできてるわ! お兄ちゃんを助けるためなら、私は自分の命だって惜しくない!」
そして、妹は封印の呪文を唱え始めた
「闇夜を照らす聖なる檻よ 彼の者を捕らえ、永遠の闇に包め! セリャド!」
妹がそう言った瞬間、俺の目の前に一つの檻が出現した
その檻は俺の中の黒い影だけを丁寧に取り除いていく
『や、やめろおおお!! 俺はまだこの場所に――!!』
黒い影は最後まで言い切ることができずに、妹が出した光り輝く檻の中に閉じ込められた
その途端、俺の体がふいに軽くなった
「助かったよ それにしても、よく起きてきたな」
「そ、そりゃあ お兄ちゃんがピンチって分かったから……」
妹は最後まで話すことはなく、その場に倒れこんでしまった
まさかさっきの魔法は妹に何か悪影響を及ぼすものだったのか?
「スースース―……」
どうやらまた眠りについたようだ
よく眠る割に一つも成長しない
だが、今回ばかりは本当に助かった
「今度はいつ起きるか分からないが、起きたら皆に自慢してやる 『俺の妹は睡眠系に特化した世界最強の魔法使い』だって!」
俺は眠っている妹を抱えながら、再びギルドへの道を帰るのだった
END
俺の妹は睡眠系に特化した世界最強の魔法使いです モリワカ @Kazuki1113
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