その眼は、明日を告げる。(3)

⦅闇雲に探しているだけでは、時間がさらにかかるだけだゾ?⦆

⦅闇雲じゃない。一応、アタリは付けてる⦆

⦅アタリ? どこにダ?⦆


 鍵穴自体は、比較的見つけやすい場所にあった。それを、他の攻略者が見逃しているはずはないことから、ユツキの中である仮説が立てられる。


⦅最奥部とか、鍵穴から遠い場所にあるはず。この一週間で周辺は探し終えたから、可能性があるとすれば一番遠い場所。そこにいるのが大物なのか、群れなのかは分からないけど恐らく、何人かの攻略者は鍵のアタリにまでは辿り着けているはずだから⦆


 《廃都市》には整備の手が入っていない。それは、優秀なボディガードを複数揃えられるはずの上層部が手を出せていないことから、簡単に想像はできる。


 周辺が荒らされているのにも関わらず、クリア者は殆ど出ていないという事実から想像できるのは、その鍵穴の場所から離れた位置にあるということ。


 そしてそれは、他と比べて荒らされている形跡が残っていることが何よりの証拠だった。


⦅如何にもといった洞窟の前に佇んでる大きい機械兵器。その周辺に武器が散乱しているところを見るに、アレが最後の試練みたい⦆

⦅今やるのカ?⦆

⦅もちろん。ここまで来て引くわけにはいかないし、逃げられたら面倒⦆


 樹木の影から覗く先には、体長は5メートルにも見える巨大機械。それが、小さい洞窟の入り口を塞ぐように立ちはだかり、上空を見上げていた。


「ここまで来ると、やっぱり何者かの手が加わっているようにしか見えないけど……」


 だが、その部分は一度捨て置く。キリリと意識を行く先に控えている機械兵器へと向け、剣を抜き放つ。


⦅跳ねるよ、ホルダー!⦆

⦅オーケー。とびきりの衝撃、行くゾ!⦆


 足元に弾力が加わり、その勢いから一直線。機械長剣を振りかぶり、死角から渾身の一撃を叩き込む。急に攻撃を受けた機械兵器は、驚きを表すかのような音を立ててのけぞる。


 一方、叩き込んだ衝撃を無駄にする事無く上空へと飛び上がったユツキは、続けてホルダーへと叫ぶ。


⦅反発、加えて捻りッ!⦆


 用意されるは足元に先ほどと同じ、力を反発させる板。加えて、自身の身体を捻るように回転させながら向かっていき、二度目の衝撃を叩き込み、快音を辺りへと響かせる。


 四足歩行するという昔の書物にあり、存在していたとされる馬と呼ばれていた姿に、近しい機械兵器。その目が、こちらを向く。


 首元から射出されるは鋼鉄の塊。それを機械長剣で弾くも、二つ、三つとその塊はユツキへと休むことなく襲来する。


「本当に———甘くないッ‼」


 出し惜しみなんて余裕はなく、ユツキは躊躇いも無くカードを切る。


 左脚の踵部分から火が噴きでて、右側のエンジンをも最大噴射させて大きく回転する。


 そのまま左脚で塊を蹴り上げバランスを保てた瞬間、標準をガラ空きの頭部へと定めた。


⦅———飛ばせッ‼⦆


 右足で踏み切り、その勢いを更に左脚のエンジンを重ねることで急接近する。


 そのままの勢いを殺さずに、左脚で機械兵器の頭部へと回し蹴りの要領で蹴り上げ、機械長剣で横からたたき上げる。


 頭部を大きくのけぞらせる機械兵器。その間にユツキは下に着地した後、次は脚部を落とすためにうっすらと呟いた。


「シュネル、重ねて」

⦅承知した⦆


 返答が来ると共に、手に握る機械長剣の刀身が渦巻く風にのまれていく。これこそが、風関係の能力を操る守護者、シュネルの力。


 編み込まれ、重ねられた風は今や鋼鉄と同じくらいの威力を備え、その刀身をユツキは目の前にある機械兵器の右脚へと叩き込む。


下手な素材では傷一つすら付けられない機械兵器だが、同じ素材を使っている武器であるのなら話は別。加え、そこに威力が上乗せされているのなら、それは止めの一撃と言って差し支えは無かった。


 ズシン、と地面にその身体を落とす兵器。巨大な身体を支えている一足が壊れてしまえば、もう立ち上がることは不可能。


 機械兵器を動かしているメインを破壊し、やっとユツキは息をついた。


⦅早くもブースターを切ったな。思いの外、苦しい戦いになってしまった⦆

⦅そりゃボスっぽいもの。今までのようにいっていたら、それはそれで罠を疑う⦆


 右腕と左脚に備わっているメーターボックスに水を注ぎ入れ、燃料がフルになったことを確認して、洞窟へとゆっくり歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る