世界は君を求めている

 トラックが引き寄せた新たな世界。


 地上を焼け野原にせよと彼方の赤いドラゴン。


 世界を正せと女神が言う。


 悪を倒せと乞う王と国民。


 冗談じゃない……。

 なにがファンタジーだ。

 なにがざまぁだ。

 なにが転生だ。


 くだらない逃避をするんじゃない、と叫んだボクが異世界に運ばれていくなんて、悪夢だ。


 チートのような能力がボクを守る。

 現実を見よ、どろどろだ、ボロボロだ、孤独だ。

 寂しい、浅ましい、助けてほしい。


 消してくれよ……誰もボクに期待なんてするんじゃない。


 あぁ痛い。

 ざっくり裂けた初めての痛み。

 驚く女騎士が剣と血を落として後退る。

 

 あっさり斬られたことに驚いている?

 それとも、ボクが、この状況を笑ったことに驚いている?

 

 やっとボクは気付く。

 今が現実だった。

 ファンタジーなんて存在しない。

 チートなんてない。

 なのに、嬉しくてたまらないんだ。

 これでやっと……消える――。




「勇者様!」


 ここは、教会。

 泣き啜る女騎士が祈っている。


「お願いです、勇者様、貴方が必要なのです。私には、貴方しかいません! どうか、どうか生きてください……」

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