のんびり

「どなどなどーなどーな、子牛を乗せて」


 女性は呑気に歌う。

 麦わら帽子をかぶり、ハンドル握ってアクセル緩め。

 どんなところにも行けるトラックを運転している。

 真っ青な空が続く平地の砂利道を踏みしめる4輪。

 道の両側は草原地帯。


「どなどなどーなどーな、荷馬車が揺れる」


 女性は歌い続ける。

 ハンドルのすぐ横にあるホルダーに突っ込んだ煙草の吸殻。

 助手席が赤く濡れている。

 砂利道に水滴のようにぽたぽた落ちていく赤い液体。

 

「――もしも翼があったならば」


 やや放心状態に近い瞳。

 気の抜けた歌声へと変わっていく。


「楽しい牧場まきばに帰れるものを」


 助手席で仰ぐ。

 祈るように合わせた両手に首が折れた鳥の死骸を抱かせている。


「どなどなどーなどーな、子牛を乗せて」


 零れ渇いた赤い口にいっぱい詰め込まれた布。


「どなどなどーなどーな、荷馬車が揺れる」


 トラックの荷台からずるり、と重く落下した。

 ブレーキを踏み、停車させた女性。

 降りて後ろを見ると、もぞもぞと砂利道を這う少年。


「どなどなどーなどーな」


 歌いながら後ろ襟を掴んだ。

 ずるずる、と引き摺られ再び荷台へ。


「子牛を乗せて」


 トラックは動き出す。

 のんびり、ゆっくり、砂利道を進んでいく。


「どなどなどーなどーな、荷馬車が揺れる」


 火をつけた煙草を1本銜え、同じ歌を歌い続けた……――。




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