幕間
師との出会い
これは、レオン達の幼少期の話。
ルイスが村にやって来る前から物語は始まる。
王城にて。
レオン達の師であるルイス·バーネットが、玉座の間にて国王の前で跪いている。
「ルイスよ…どうしても辞めるのか」
「はい、陛下。既に決めていたことですので」
「…そうか。ならばもう止めはせん。好きにするといい」
「ありがとうございます。陛下。呪われた一族の身でありながら、登用していただいたこと、真に感謝しております」
ルイスはそう言って立ち上がると、扉に向かって歩き出し、自分で扉を開け、最後に一礼をすると、扉を閉めていった。
「…くっ。何故私が気に入った者は私の前から居なくなるんだ…?」
「おや、私が居るではありませんか。私ではご不満ですか?」
「何を言っとる。柄でもない…」
ルイスが去った後、露骨に落ち込んでいるフェニクス。
メルヴィルなりに励まそうとしているのか、彼にしては珍しいことを口走る。
「ルイスだけではない…ヴァーミリオンもそうだ。孫が生まれたら見せに来いとあれ程言ったというのに…見せることなく、親子3代共々逝きおった…」
「ですが、エリオットとその息子は遺体が無く、可能性があると仰っていたではありませんか」
「…息子の方はともかく、エリオットはあり得ないであろうな。あの場から脱出出来たのなら、何かしらあるだろう。だが、あれから今年でもう8年。まず無いだろうな」
「そうですか…」
本来であれば、誰よりもヴァーミリオン家の生存を望んでいる筈のフェニクスがここまで言うということは、本当に望みは薄いのだろう、とメルヴィルは判断した。
◇◇◇
王城を出たルイス。一人の女性に呼び止められる。
「ちょっと、ルイス!本当に辞めるの?」
「ジェシカ…もう辞めたよ。たった今だ」
「ならさ…今日は私に付き合いなさいよ。私ももう上がるから」
「…分かった。今日ぐらいなら、付き合うよ」
王城を出た二人は、酒場で飲み交わす。
「あんたさぁ…何で辞めたのよ?」
「言ってないっけ?僕は長くは生きられない。だから最後に心残りを片付けようと思ってね…」
「心残り…?」
酔いが回ってきたジェシカがルイスに問い掛ける。
「僕が持つ知識を誰かに託したいと思ってね。何て言うか…弟子を取りたいんだな、きっと」
普段は酒を飲まないルイスも、今回は珍しく付き合っているためか、大分酒が回っている。
「弟子ねぇ…そんなことしなくても良い方法があると思うけど…」
「?」
「頭良いのに察し悪い…ほら、行くよ!」
代金を置くと、ルイスの腕を掴み、何処かへと向かうジェシカ。
ここで何があったかを教えるのは野暮というものだろう。
◇◇◇
「やってしまった…」
翌朝、宿で目覚めたルイスが隣を見るとジェシカが眠っている。
「…ん?ルイス…起きたの?」
「あ〜…ジェ、ジェシカ?僕はこういうつもりじゃなかったというか、何と言うか―」
慌てふためくルイスの口を手で塞ぐジェシカ。
「良いのよ。誘ったの私なんだし。あんたも自由にすればいいわ」
「もしかしたらということもある。一緒に来てくれないか?」
「それはお断り。私は王都でしたいことがあるの。でも、あんたのしたいことはここじゃ出来ないんでしょ?」
「…あぁ、そうだ」
「なら、気にしないで行って来なさいよ!ほら!」
ルイスの背中を叩くジェシカ。彼女の反応に戸惑うルイス。
「大体一回ぐらいなら大丈夫よ…多分」
「ありがとう。何かあったら連絡くれるかい。僕は近々北に行くから、個人番号を教えるよ」
「…ありがと、一応貰っとくわ」
「あぁ。何でも連絡してくれていいから」
その後、彼女と別れ、宿を後にするルイス。
彼を見送った後のジェシカ。
「はぁ〜、何で着いてくって言えないかな…私の馬鹿…。でも、着いて行ったらより辛くなるだけだろうしな…これで良かったのよね…」
だが、その後彼女は懐妊が発覚。時期的なことや、自身の経験からして思い当たる節はルイスしか居なかった。
が、彼女はそのことをルイスに報告しなかった。
何故か。彼女はルイス本人の口から30歳を迎えるととある呪いにより死ぬこと。25歳の誕生日まで1ヶ月を切ったため、退職したことを聞いたからである。
残り短い寿命を自分に使って欲しくない。
彼女はそう判断してしまった。
もしルイスが知っていたなら、残りの時間全てを彼女達に尽くしただろう。
自らの死の運命を受け入れることも無かっただろう。
自分の持てるあらゆる力を使い、呪いを解こうとしただろう。
だが、彼はその事実を知らないまま世を去った。
彼は途絶えたと思っている筈の、存在さえ知らぬ自身の子について何を思うのだろうか。
ここで話は、ルイス側に戻る。
「ここが…カナンか。村にしては大きめか…?」
「あんちゃん、見ねぇ顔だな。こんなとこに何の用だ?」
村の入口前に座り込む初老の男性がルイスに声をかける。
「いえ…人を探していまして。この村にケインという男性は居ませんか?レオンとノアという子どもを連れた三十代だと思うのですが…」
「…お前さんが言ってるのと同じかは知らねぇが、言ってた二人と同じ名前したガキ連れてるのは居るぜ。村の外れの方だ」
「ありがとうございます。入っても?」
「別に構わねぇけどよ。良かったら、野菜でも買ってってくれ。ここにゃ客なんか来ねぇからよ」
「分かりました。是非」
ルイスは村の外れにある、一軒の家に辿り着く。
ドアを叩くが、返事はない。
「仕方ない…二人を探してみるか…」
ルイスはケイン達の住居と思われる家屋から離れ、来た道を戻る。ふと見ると、3人の子どもが原っぱで遊んでいる。
(同じ村の子ども同士なら知っているかもしれないな…)
「君達、少し聞きたい事が有るんだけど…良いかな」
「兄ちゃん…誰?いきなり何?」
ルイスの言葉に反応したのはシャルだった。大人に対する言葉遣いでは無かったため、オリビアが止めに入る。
「こら、シャル!そんな言葉遣い失礼だよ!」
シャルを制止したようにも思えるが、その際にシャルをルイスから離すオリビア。賢明さは幼い頃から健在のようだ。
「それもそうだね。僕はルイス。人探しの為に国中を周ってここに来たんだ」
「へぇ…それで?」
「ケインという男の人か、レオンという男の子を知らないかい?それかノアという名前に心当たりは?」
「あの…それってレオン達のことですか?」
その場にバーニィが合流する。この時はまだ11歳の筈だが、大分しっかりしている。
「そんなに警戒しないでくれ。怪しい者じゃ無いよ」
「だって…村に知らない人なんて居ないし…」
「どうすれば教えてくれるかな。会いたいんだ。その人達に」
黙り込むバーニィ。何を思い付いたか、ひそひそとシャルとオリビアの3人で何やら話をしている。
「兄ちゃん!あたし達と遊んでよ!ここで!」
「ここで…?今かい?」
「うん!教えることは出来ないけど、遊んでれば多分二人とも来るから、その時二人と話してよ!」
「なるほど…良いよ。何をしようか?」
「魔法見せて!」
「魔法…?見たこと無いのかい?」
「昔ノアのパパに見せてもらったことはあるけど、最近ノアのパパ、具合悪いんだよね…」
「え…それ、本当かい?」
「うん。ずっと寝てるんだって」
「そうか…いろいろと話を聞く必要がありそうだな…」
その後、3人に対して魔法を披露するなどして、時間を潰していた頃。
「おーい!バーニィー!オリビアー!シャルー!」
「悪い!待たせたー!」
レオンとノアが小走りでやって来る。
「遅いぞ、お前らー!」
「そういうこと言わないの、バーニィ。シャル、先行くよ?」
待っていたのは1時間も経たない程だったが、3人はすっかりルイスを信用していた。
「うん、先行ってて。兄ちゃんも行こ?」
「ありがとね。王都に居たから遠くのことは分からないんだ」
「王都?なんで?」
ルイスの手を引くシャルが質問する。
「僕はね、王城で働いてたんだ。訳あって辞めたけどね」
「王城って王様が住んでるとこ?兄ちゃんすごい!」
「シャル…この人誰?」
レオンがシャルの隣に居る見知らぬ大人に気が付き駆け寄って来る。
「兄ちゃんね、二人とノアのパパに用があって来たんだって!」
「俺の父ちゃんに…?」
外からの客など自分が知る限り、今まで一度も無かったにも関わらず、突如やって来たルイスに疑問が浮かぶノア。
「僕はルイスだ。突然悪いね。でも、ノアのお父さんだけじゃなくて二人にも話があって来たんだ」
「俺達も?」
ルイスは3人に話したことをレオンとノアにも話す。それでも半信半疑のようで、ノアは3人に確認を取る。
「この人、父ちゃんに会わせても大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!いろいろ魔法も見せてくれたし、いろんな話もしてくれたんだよ!」
「まぁ…多分大丈夫だと思うよ」
「俺もオリビアに賛成だ。信用して良いと思う」
「じゃあ…父ちゃんのとこに案内するんで来てください」
「ありがとう。それと、会ったら二人にさせてくれないかな。少しで構わない」
「…父ちゃんが良いって言ったらね」
そして、先程の家に6人で向かう。到着すると、裏側に周る。
「…こっちが正しいのかい?」
「俺達が出入りする時はこっちなんだって。良いよ、入って」
「失礼します」
「父ちゃん起きてるー?お客さんだってー」
「あぁ…?何だよ、急に…」
ベッドから起き上がるケイン。髭も伸びて、明らかにやつれている。
「お久しぶりです。ケインさん」
「お前…ルイスか…?」
「探しましたよ、本当に…」
「…悪かったな。ノア、レオン、皆を連れて2階で待っててくれ。久々に会ったんだ、話がしたい」
「大丈夫なの?…じゃあ、上行ってる」
「あぁ、頼む」
ノア達は2階に上がり、その場にはルイスとケインの二人だけになる。
「十年振りですね。まさかこんな辺境に居るとは思いもしませんでしたよ」
「ルイス、お前…何故ここが分かった?」
「王国中を周りましたよ。生きているにも関わらず、連絡が無いのは生存を隠したいから。ヴァーミリオンが生きていることを知られたくないからですよね?」
「あぁ…そうだ。レオンには、戦いに巻き込まれて欲しくは無いと思っている。だが、お前がここを知ったように、いずれ見つかることも考えている」
「そこで僕から提案があります。僕に彼らを指導させて下さい。僕は王国へ報告の為に来た訳ではなく、僕自身の為に来たんです。ただのルイス·バーネットとして」
ルイスの言葉に対して不敵に笑うケイン。
「…ただのルイス·バーネットね…最年少王城魔導師の言うことか?それが」
「えぇ。僕も長くないので」
「…分かるか。これが」
「えぇ。…それ、ルーファス殿と同じ症状ですよね」
「あぁ、もう長くない。後…1年程度だろうな」
「…僕は5年です。先月25を迎えたので…」
「5年でも構わねぇ…あいつらを頼む。だが、固有スキルについては話をするな。レオンは『継承』を1歳でやってる。後5年でも14歳。身体が耐えられるとは思えねぇ」
「…分かりました。彼らに固有スキルは伝えないでおきます」
その後、ルイスは2階に待機する5人を呼び、魔法を教えるという提案をする。
「こいつは俺の昔馴染みだ。こいつのことは信頼していい…」
「おぉ!魔法とか教えてくれんのか!やったぁ!」
「お願いします、ルイスさん!」
「ルイスさん、これからよろしくお願いします」
「まさか稽古付けてくれる人が来たなんて、俺達ついてるな!」
「あたし、拳でおもいっきり戦いたい!」
その後、彼らは5年もの修業を積み、カナンを出発し、レイヴォールへ向かうことになる。
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