YOU'LL NEVER WALK ALONE -前編-

『ローレンス。ジーク。二人にはまだ話して無かったけど、会った事が無い家族が居るんだ』



昔、唐突に父が自分の家族について話してくれた。

その日を今でも覚えている。



『会ったことないかぞく?だれ?』


『それはね…パパのお父さんだよ』


『パパの…パパ?ってこと?』


『そうよ。つまり二人のお祖父ちゃんね』


『じいちゃん…会ってみたい!』


『じゃあ…ジークが大きくなったら会いに行こうか。ジークはまだ一歳になったばかりだからな』



そう言っていた父は、それから一年も経たず、魔物との戦闘で命を落とした。


ジークが生まれてから体調を崩しがちだった母も、父が亡くなった数年後に病気で亡くなった。

僕はまだ幼いジークと二人きりになった。



『兄ちゃん、お母さんは?起きないよ?』


『…これからは僕たち二人で暮らすんだ。出来る?ジーク』


『やだ!!ママも一緒がいい!3人がいい!』


『それは…もう出来ないんだよ…ごめんな、ジーク』



僕はジークを優しく抱きしめる。

まだ死というものを理解していないジークに説明するのはとても辛かった。


ジークはそもそも父さんを知らないから寂しさはあったとしても、喪う痛みは知らなかっただろう。

そして今、母も居なくなったがそれを認識出来ていない。僕だって泣きたい。


でも、兄として、かっこ悪い姿も、情けない姿も見せたくないんだ。ジークの前では、かっこいい兄でありたいから。


それから僕は、父さんの代わりに狩りに出かけ、母さんの代わりに家事を行う生活が始まった。


周りの大人達も助けてはくれるが、それに甘えることは出来ない。いずれ、頼ることは出来なくなる。

僕が、ジークを守らないと。



◇◇◇



そう思ってた。

でも、ジークは僕の想像以上に速く、しっかりしていた。

あれから数年が経って…



「ジーク〜、今日も疲れた〜!癒やして!」


「兄さん…しっかりしてよ。気持ちは分かるけど、僕はまだ狩りに行ける年齢じゃないんだから」


「はは…ジークはしっかりしてるなぁ。僕が同じ年の時はもっと甘えたり…。ごめん、ジーク」


「…大丈夫だよ。僕には兄さんが居るから」


「ジーク〜っ!こんな立派に育って、僕は泣きそうだよぉ〜」


「…恥ずかしいからやめて」


「ははは…ごめんごめん。つい、な?」


「別に…良いけど」



ジークは可愛いなぁ。


そんな日が続いていたある日のことだった。

族長に呼び出された。



「どうしたんですか。叔父さん。急に呼び出して」


「こういう場で叔父と呼ぶな。族長と呼べ」


「すみません、族長。何用でしょうか」



叔父さんは煙管を一服吸うと、僕の方を見る。



「いいか。落ち着いて聞け。お前の親父を殺したが確認された」


「ッ…!本当ですか…!」


「あぁ。確かだ。見回りの奴らが目撃している。お前も次の見回りに参加して確認しておけ」


「…はい。ありがとうございます」


「…ローレンス、冷静にいけよ」


「以上でしょうか。では、失礼します」


「あぁ…下がっていいぞ」



◇◇◇



7年前、父さんだけじゃなく、見回り組の殆どの命を奪い、この地を荒らした魔物、土竜アースドラゴン


一般の魔物より遥かに大きいにも関わらず、素早く動くその巨体でこの森に甚大な被害を及ぼした。


それだけじゃなく、聞いた話じゃ翼を持った人らしき影も見たとのことだった。

そいつにも何かある。僕はそう確信していた。


族長から話を聞いて数日後。僕も見回りに参加する日が来た。



「兄さん…ちゃんと帰って来てよ?」


「大丈夫、ジーク一人にはしないよ。帰ってくる。約束だ」


「ローレンス、そろそろ行くぞー」


「あぁ、すぐ行く!夕飯頃には帰るよ。だから、安心して待ってて」


「…分かった。待ってる」



そして、僕を含め十人で見回りに出てある程度のことだった。



「ローレンス…あれだ。土竜だ」


「あれが…俺達の家族を…」


「落ち着け。ここが巣穴だと分かったんだ。報告に戻ろう。…うん?」


-ウオオオォォォッッ!!!-


「はぁ!?何なんだよ急に!!お前ら、行くぞ!」


「は…!?誰だよ、お前!!」



見たことない奴だ。でも、知ってる。



「逃げるなよ。久々に来たってんだから。な?」



そいつは大きな翼を持っていたから。



「お前かァァァ!」


「はっ。何だよ、てめぇ。急によぉっ!」


「うわぁっっ!」



冷静さを失っていたせいか、僕は簡単に蹴飛ばされる。



「俺はそこで見てるからよ。せいぜい楽しませてくれや」


「お前…!くそ…!」



僕は仲間達と共に土竜の対処に追われ、奴を追うことは出来なかった。

一人が救援を求める為に戻ったが、正直持つかどうか…



「武器は!?」


「多くない!しかもいくつか破損してる!」


「魔法で何とかするしか無い!」



◇◇◇



「ただの矢を放ったところで意味は無い!魔法付与か威力を上げろ!」


「-旋風矢ウィンドアロー-!」


-グオオオォォォッッ!-



矢を放ったが、左目を潰しただけに留まった。

ここには何もかもが足りてない。

皆、思うように戦えてない。



「お前ら、今のうちに撤退だ!ローレンス、行くぞ!」


「……分かった!」



その時だった。


-グホッ、グホッ、グホッ-


こいつ…嘲笑ったのか?俺達を…



「皆…先行ってくれ。こいつは俺が倒す」


「何言ってる!さっきの羽野郎も居ないんだ―グハッ!?」


「誰が羽野郎だって?雑魚が」


「ビート―」


「お前らうぜぇわ。全員消えろ」



翼の男が空を払うと、一瞬のうちに仲間が次々と倒れていく。



「てめぇはそいつと殺し合いでもしてるんだな。ざまぁねぇぜ」


「待て…待てよ、お前ェー!」



僕は再び風の矢を放つ。それは奴の右翼に傷をつけるが、奴はそのまま飛び去って行った。


だが、僕は奴に気を取られ過ぎていた。


-ウオオオォォォ!-


「ゔぁぁああっ!」



背中に思い切り激突をくらい、吹き飛ばされる。



「俺は…帰らなきゃいけないんだよ!行くぞ、くそ魔獣が!火焔矢フレイムアロー!!」



◇◇◇



「遅いな…兄さん達。ビートさん達とどこまで行ったんだろ…え、、?兄さん!?」


「帰って来たよ…ジーク」


「な、何で!?一体何が有ったの?」


「ジーク…済まない。父さんを殺した魔物と交戦した…他の皆はやられた…」


「喋っちゃ駄目だ!叔父さんを呼んでくる!」


「もう駄目だ、ジーク…出血が多過ぎる…もう、先の感覚も殆ど無い…」


「…約束が違う!」


「ごめんな…ジーク、悪いんだけど、一つ頼まれてくれるか…」


「嫌だ!兄さんがやれば良いじゃないか!」


「もう僕は無理だ…頼む、左目に傷のある土竜と、右翼に傷のある魔族を…僕の、代わりに…」


「兄さん…?兄さん!!」


「どうした!何が有った!!…ジーク、ローレンス…」



◇◇◇



あの日、兄さんを含む見回り組十人が命を落とした。


俺は兄さんとの約束をまもらなければいけない。

でなくては、あまりに兄さんが無念だ。


そんな事件があってからおよそ8年後。

今から2年前のことだ。

俺が狩りの為に森の外に出ていた時のことだ。



「…名前はなんだ?お前は。何でこんなところに居る?」


「…レティシア。…あっち」



至る所に倒れる人々を指し、燃える馬車の前で、ぬいぐるみを抱きしめながら喋った。


それが、レティと始めて会った時のことだ。

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