-Epilogue- あの雲が通り過ぎたら

「大佐!無理です!絶対安静と言われてるんですよ!?」


「それがどうした!俺は、行かないと…うっ!!」



部屋のドアに倒れかかり、腹部を押さえるアルフレッド。



「誰か!治癒師を呼んで!」


「俺は…まだやることが…」



そのまま彼は気を失う。



「大佐?大佐!しっかりしてください!」


「何があったんです!?」



偶然にも、看護師がその場を通りかかる。



「無理やり部屋を出ようとして、身体を動かしたことが原因で傷が開いたのかと…」


「またですか!彼は絶対安静だとお伝えしていますよね!?今、治癒師を呼んできます!」



そのまま駆け足で部屋を出る看護師。直ぐに治癒師を連れ、アルフレッドをベッドに戻し、治癒魔法を行使する。



「レナードさん。このようなことがこうも続くようであれば、違う部屋に移動させることも出来ますがどうなさいますか?」


「いえ…ここでお願いします。何とか私が説得しますので…」



治癒師はため息を付き、レナードに答える。



「…分かりました。ですが、次やるようであれば移ってもらいますよ。良いですね?」


「はい…」


「では、これで失礼します。お大事に」



看護師と共に部屋を出る治癒師。

十分に離れたことを確認し、ほっと息を吐くレナード。



「大佐…起きてますよね?という事なので、一先ずその傷が治るまで安静にしてて下さい。その傷…治癒魔法が効きにくいんですよね?」


「あぁ…済まない。少々冷静じゃなかった」



腹部を押さえ、天井を見上げるアルフレッド。



「少々…?そこは納得しませんが、きりがないので一度置いておきます」


「今は治療に専念するよ。その後は王城の禁書庫へ向かう」


「それはまた…何故です?」


「レオンに…魔剣を渡してやりたかった。あの剣が鈍らという訳じゃ無いが、魔剣には劣る。だから、本物の…いや、を探していた」


「本当の…魔剣?」



本当の魔剣という聞き慣れない言葉に疑問を持つレナード。


何処で知ったか、彼の口から聞く言葉はレナードにとって信じ難いものばかりだった。



◇◇◇



「レオンから手紙は来たか?」


「いいえ。まだです。セルノビに到着次第、早馬で手紙を出すよう伝えたのですが、今の所は…」



所は変わり、国王の書斎にて。フェニクスとメルヴィルがレオン達について話をしていた。



「遅くとも1週間もすれば連絡があると思ったのですが…」


「何か道中であったのかもしれぬな…」


「その可能性も捨てきれませんね。ですが、我々には待つしかありません」


「…そうだな。レオンに、早く伝えてやりたいことがあると言うのに…」


「そうですね。これをレオン殿が知れば、かなり精神的にも余裕が出来ることでしょう」


「まぁ…今はどうにもならん。待つぞ」


「はい、陛下」



◇◇◇



「…どうだい?ゲオルギウス。気分は?」



魔王城。


牢の中にゲオルギウスと共に居るラディリアス。一定の距離を取り、ゲオルギウスに問い掛ける。




「あぁ…頭にあった霧が晴れるようだ…ラディリアス…礼を言う…」


「それは僕じゃなくて、魔王様に言うことだ。僕は手伝いをしただけにすぎない」


「魔王様。私のような者を救済していただき、誠に感謝致します」



牢の外から二人を見る魔王。



「私はお前の洗脳を解くようラディリアスに言っただけだ。救ってなどいない」


「そう言えば魔王様、勝手に勇者と戦ってきた彼は良いんですか?」


「無論、謹慎させている。だが、手合わせだけとのことだし、事実勇者は生きているようだしな…。だからといって私の命を破ったことには変わらん。当分は大人しくさせる」


「…すると良いですけどね」


「…言うな、それを。まぁ、それはいい。ゲオルギウスよ。お前に洗脳魔法を掛けた奴は思い出せんのか?」


「はい、残念ですが…。どうしてもそこだけが思い出せず…」


「ま、そいつの細工でしょうね…。魔法を解いたらそのことを聞かれるに決まってる。かなり周到な奴ですよ、相手は」



ラディリアスの推測を聞き、思わずため息を付いてしまう魔王ゲルガルド。



「内部にも敵か…これでは、勇者と会うのも、楽では無さそうだな」


「…えぇ。そこについては僕も同じ思いですよ」


「…?」


「まぁ、今は良いでしょう。それより、アクスが誰に殺されたか。それを探す方が重要じゃないですか?」


「あぁ…そうだな」



ある日のことだった。


魔王相談役であるアクスが、何者かに殺害されていたのが城内の廊下にて発見されたのだ。勿論、城内は騒然。

長らく魔王軍に仕えてきたアクスが殺されたということもあるが、理由はそれだけではなかった。

何故なら、魔族において身内殺しは忌むべきことだからである。



「魔王様。私もその事件の捜索、手伝わせていただけないでしょうか」


「ゲオルギウス。その申し出は有り難いが、今はお前を出してはやれん。時が来たら頼む」


「はい、畏まりました」


「じゃ、そろそろ戻りますか。魔王様。僕もいろいろ有るんで」



どうやってか牢の格子をすり抜けるラディリアス。そのまま魔王の隣へ立っている。



「うむ。では、また来る」



ゲルガルドとラディリアスがその場を去ろうとした時。

ゲオルギウスが思い出したように声を上げる。



「そうだ…!魔王様、私の息子をご存知ありませんか!?」


「…何の話だ」



牢から離れながらも、ゲオルギウスの方を見るゲルガルド。



「今なら…勇者より少し年上でしょうか。魔王軍を離れていた時、私には家庭があったのです!」


「……知らんな。自分でどうにかしてみろ。お前達の問題だろう」


「…そう、ですよね…。要らぬことを聞きました。忘れて下さい。魔王様」



その問いには答えず、そこから立ち去るゲルガルドとラディリアスであった。



◇◇◇



同じく魔大陸。しかし、ここは魔王城が在る中央ではなく、それより遥か東に、その砂漠地帯はあった。


そこのとある一角で男女が何かを話している。



「悪い報せだ、どうやら、ヴァーミリオンが魔大陸に来るらしい」


「はぁ?大分前にクレイとディラウドが滅ぼしたんじゃないの?」


「ミザリィ…そのことなんだが、どうやらその時、ヴァーミリオンの息子がどうやってか脱出していたらしいんだ…」


「で?それが何なの?ナサニエル。私達の最終目標はヴァーミリオンなんかじゃない。分かってるわよね?」


「勿論さ。“打倒魔王”先代から続く目標だ」


「もう…動くんでしょ?」


「あぁ。でもそれには勇者が邪魔なんだ。だから、策は考えてるよ」


「ま…それはあんたの好きにしなさいな。あたし達は魔王の奴をぶっ殺せればいいんだから」


「じゃあ…とも打ち合わせして、勇者をどうにかしますかね…」



◇◇◇



魔王城のとある場所にて。連絡を受けたカイデンが椅子から立ち上がり、机を叩き、頭を抱えている。



「…何だと!?勇者が魔大陸に来る!?グリム…!!どういうことだ!」


「私は指示に従ったまでです。勇者に近しい者を襲え、と」


「ちっ…もういい。全て開放し、勇者を襲わせる。貴様も行って来い!残りの2体にもそう伝えろ!良いな!?」



激怒しながらグリムに吐き捨てるカイデン。

グリムはそれに従うのみだ。



「はい…我が主」



カイデンは全てのポッドを開き、3体を一気に開放する。



「目覚めろ、お前達!与える任務は唯一つ!勇者を殺せ!邪魔する奴らも殺して構わん!」


「「「はい。仰せのままに」」」



レオン達の周囲を取り囲む者達も今、新たに動き始めていた。


第二章 完

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