第13話 出発の日
遂にレオン達が集落を出る時が来た。
彼等は既に準備が出来ており、残すはジークと集落に残る二人、そしてレティシアとの話のみだった。
レオン達は族長に代金を支払い、馬車を購入していた。
荷物等は好意ということで安くしてもらった。
荷物を
剣等の装備も後ろへ回す。いつもは装備をしていたが、今日の3人はラフな格好だ。
「…良いのか?こんな格好で」
「たまにゃ良いんだよ。ここからヴァイロまでは道なりだとさ。レオンはいつもより軽めなだけで、割と装備してるけどな。それに魔物ぐらいなら戦える」
「なら良いけど…レオン、ジークは?」
「あそこ。話をしてるっぽいな。邪魔はしないでやろう」
レオンが集落の方を指差す。
出発前の最後の話をしているようだ。
「…じゃあ、気を付けて行って来なさいよ。怪我するな…は無理そうだし、病気には気を付けてね」
「心配するな。必ず帰って来る。昨日、約束したろ?」
「…うん。待ってるから」
「ジーク、帰って来たら、私達とも一緒に外へ行こう。約束だ」
「フローラ…あぁ。帰って来たら、な」
そう言ってジークは二人に近付き、頬に接吻する。
「…へ?」
「おぉ、びっくりした」
思わず呆ける二人。
「この先は…帰ったらな―うおっ!?」
マーガレットがジークを引き寄せ、その口を塞ぐ。
「おぉ、情熱的」
フローラも思わず自分の口を手で押さえる。
「ぷはっ…これ以上が知りたいなら、帰って来なさいよ…」
「マーガレット…あぁ、帰ってくるよ。じゃあ、レティにも言ってくる」
「ジーク、ちょっと待って」
フローラがジークを呼び止める。
「どうした?まだ―」
ジークの振り向きざまにフローラからも贈り物。
静かに唇が重なり合う。
それはマーガレットとは違い、唇だけが触れるシンプルなものだった。
「…マーガレットと間接でしちゃった…」
にこやかに笑い、舌を出す彼女。
思わず照れるジーク。
「…その場合は俺とだろ…!」
「ふふふ…次はジークからしてくれると嬉しいね」
「…覚悟しとけよ」
「顔赤くして言われても怖くないよ…ほら、行ってきな」
「ありがとう…フローラ。じゃあ行ってくる」
◇◇◇
「あ、来た来た。ジーク、何話してたんだ?」
「少しな。良いものをもらって来た」
「…兄さん。行くの?」
「あぁ。レティは二人と留守番だ。一緒に待っててくれ」
「…ん。分かった。皆で待ってる」
「良い子だ。約束だぞ」
ジークはレティの頭を撫でる。彼女も満更でもない様子だ。
「じゃあ、行けるか?ジーク」
「あぁ、勿論だ。ここまでして置いていくのか?非道い奴だな、お前は」
「え…」
レオンは、はっと驚くような顔をする。
それは夢で聞いた言葉によく似ていたから。
「…?どうかしたか?」
「いや、何でもない。さぁ、出発だ!」
◇◇◇
ノアが鞭をしならせ、馬車が動き出す。
「気を付けて行けよー!お前らー!」
「ジークー!さっさと終わらせて来なさいよー!」
「皆も頑張れー!応援してるからー!」
トラヴィス、マーガレット、フローラの言葉に、馬車の後方から顔を出し、手を振る3人。
「…行ったな」
「…うん」
「大丈夫か…?」
「勿論。私達を置いてったこと、後悔してもらうんだから」
「はっはっはっ!ジークの奴はとんでもないのをここに置いていったな!」
マーガレットの強気な発言に笑い出すトラヴィス。
そこにフローラも追随する。
「…でも、今度会う時には私達も成長してるとこを見せる。じゃないと、この先一緒に居れない」
「…んなことは無いと思うがな。そう思うんなら、それはそれで良いんじゃねぇか?」
「うん。それこそ、次はついて行けるくらいに」
「…ん。今度は私も」
「レティも行きたいんだ?良いわね、それ!」
◇◇◇
「ふー…もう大分来たな。…大丈夫なのか?ジーク」
「何がだ?」
「寂しくないのかってことだろ?なぁ、ノア」
ノアの言葉の意味を理解したレオンが補足する。
「二人のことなら心配は要らない。強い女だ。俺は信頼してる」
「まぁ…ノアの心配も最もだ。俺も分かるけどさ。…ふぁ…眠いな」
「寝ても良いんじゃないか?ノア、俺がやろう。お前らは休んでろ」
ノアの隣に座り、綱を掴むジーク。それを確認してから、荷台に戻るノア。
「レオン。何日ぐらいでヴァイロに着くんだっけ?」
「このまま順当に行けば2日もかからないだろう。ヴァイロに着いたらセルノビ行きの直通列車に乗る。そうすれば、程なくして魔大陸に着く…」
「なるほどな。じゃあ1週間もすれば魔大陸には居るのか…?え?」
ノアがレオンに質問した時には、既にレオンは壁に寄りかかり、眠っていた。
「えぇ…寝るの早ぁ…」
「まぁまぁ。レオンもいろいろあるんだろうさ。寝かせてやろうぜ。道中に何があるとも分からないし…」
ノアの隣に座っているアリアが優しく諭す。
「まぁ…後で聞きゃいいか。別に急ぐことでも無いし。ジーク!ちょっくら速度落としてやってくれ!」
「もう寝たのか?随分早いな。分かった」
「さーて…着くまでに何があることやら…」
手を合わせ、頭の後ろへ回すノア。そのまま壁に寄りかかる。
「じゃ、あたしも寝るわー。当分暇だし」
そう言って腕を組み、目を瞑るアリア。
「はぁ?アリアもかよ…ま、良いけど。ジーク、隣、座らせてくれ」
「別に構わないが、どうした?一人は嫌か?」
「あぁ、嫌だ。もう二度とあんな思いはたくねぇ」
「…お前らも何か有ったのか…?」
「……それは一旦置いといてくれ。今話すことでも無い。いつか言う。でも、そうだな…じゃあ、昔話でも聞いてくれるか…?」
「ノアが話したいなら、聞くぞ」
「…じゃあ、聞いてくれるか。俺達の昔話を…」
そう言うと、静かに昔のことを語り出すノア。
アリアも目を瞑っていただけで、眠ってはいなかったので、いつからかノアの話を聞いていた。
彼女もノアから襲撃があり、仲間を喪ったということは聞いていたが、具体的な内容や、その者達については聞いていない。その人達にアリアも興味があった。
昔を懐かしむような彼に対し、ジークも聞きたい事があったが、今は黙って彼の話を聞くことにした。
ノアがいずれ話をすると言っていたのを素直に信じることにした。
おそらくそれはかなり先、レオンと共に教えてくれるのだろう、と思いながら。
まだ見ぬ地を目指し、馬車は進む。
そして彼らも進んで行く。
お互い知らぬ過去、果ては自分すら認識していない秘密を抱えて。
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